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vol.02 大塚いちお(イラストレーター・アートディレクター)

vol.02 大塚いちお(イラストレーター・アートディレクター)

すべては「世界観」を表現するためにある

「PRGR」などの広告イラストレーションからNHKのテレビ番組「みいつけた!」のアートディレクションまで幅広い分野で活躍するイラストレーター・大塚いちおさん。規模の大小や手法を問わない柔軟な表現は、さまざまな媒体にひっぱりだこです。そんな大塚さんも、実はキャリアの始まりは「劇的なデビューではなかった」とのお話。インタビュー前半では、上京から自らの個性とスタンスで活動を確立させるまでを伺いました。

「仕事として絵を描きたい」という夢を目指す

大塚いちおさん
「作品を描く時に大事なのはその時々の想いや感覚です。なので、こうした昔の話は、作品とは切り離して聞いてもらえると嬉しいのですが…」と丁寧に語る大塚さん

幼い頃から絵を描くのは好きでしたが、一般的に言われる「上手な絵」とは違っていたみたいです。写生大会でも目に見える部分をひたすら描く感じというか。でも、それを評価してくれる先生がいてくれたので自信が持てたんですよね。その後は、藤子不二雄の『まんが道』に影響されてマンガ家の真似ごとをしつつ、絵を描く仕事につけたらなと漠然と考えていました。
現実に「イラストレーター」という職業を意識し始めたのは高校の頃です。マンガ家は作業が多くて大変だけど、イラストレーターなら一枚の絵を描けばよさそうだ、なんて勝手な思い込みがあったのと、アートに比べて職業寄りな感じがあったんです。『イラストレーション』誌や『POPEYE』などの挿絵を見て作者をチェックしたりするうちに、改めて職業として認識するようにもなりました。
卒業後は上京してグラフィックデザイン系の専門学校に入りました。父親が大工職人だったからか、頭で学ぶより社会に出て経験値をつける方がいいと思ったんですよね。仕事として絵を描きたいという想いも常にあって、エディトリアルデザインの課題なのにカットを一生懸命描いたりして、何かと言えば絵を入れ込んでいましたね(笑)。絵と近い場になるべく身を置きたくて、公募展にも頻繁に応募していました。

ドラフト外のイラストレーターが生き残るための個性

「英語であそぼ!」のキャラクターなども担当。仲間たちを制作中
「英語であそぼ!」のキャラクターなども担当。仲間たちを制作中

バブル時代だったこともあり、卒業後はそれなりの仕事をいただけたし、翌年にはプロの登竜門だと思って応募していた「チョイス」にも入賞できました。でもそれで仕事が増えた訳でもなく…。結局、その後もグランプリや大賞として注目を集めるような時はきませんでした。それである時、コンペ頼みから地味な営業活動をする形にシフトして、展覧会や売り込みを積み重ねることにしました。華々しいデビューではなく、たとえドラフト外でもプロの世界に入れたのなら、あとは地道にやろうと。でも今思えば、僕は運がよかったんだと思います。
実は、そんな中で「個性とは何か」という問題にぶつかったんです。すでに多くの先輩が活躍し、誰もが得意な表現や特殊な技法を持っていた。だから僕もそんなものがないとだめだと思い、人がやらない手法で人が描かない物を描こうと日々苦労していました。でもある日、手法よりも自分の中から生まれるモノの方が大事だと気づいてね。白い紙に鉛筆で描いた絵が「大塚らしい」と言われるなら、それが個性だし、重要なのは世界観だとわかったんです。表現のベースになる部分を磨く方が、実際の仕事と作りたい作品との誤差も埋めやすくなる。他のクリエイターとの共同作業では普段との差異を楽しめるし、違うテイストの仕事でも自然に滲む表現やその根っこを考えると楽しめますからね。そう気づいた瞬間に、僕の中のイラストレーターに対する認識が「その人ならではの世界観を必要とされる存在」へと変わったんです。

「大塚いちお」という存在を広めたきっかけと共同作業

NHKの幼児教育番組「みいつけた!」でもおなじみの仲間たち
NHKの幼児教育番組「みいつけた!」でもおなじみの仲間たち

世界観が出せれば技法や媒体に関わらず成立する、という考えが今のスタンスに繋がっています。同世代のクリエーターにも認識してもらうきっかけになった、森本千絵さんと制作したビールの広告「8月のキリン」もそんな仕事の一つです。それまでも、好きなADさんと仕事をする機会が何度かありましたが、すべてその時々の自分の能力に見合う形で与えてもらえていた、という感覚がすごくあります。例えば、チョイスの入選が20代前半で「8月のキリン」は30代前半。その時の環境で等身大の仕事に巡り合えたことが、一番の幸運だったと思います。
これ以降、個性的なスタッフと関わる案件が増えました。

でもいつも、各々が専門性を基に自分の意見を持ち、それらが目的に沿って融合することで作品が生まれている、という感じがします。そう考えると、以前のように目に見える技法や表現に拘りすぎていたら、それが表に出ない仕事はやはり嫌だったと思うんです。でも今の考え方なら、僕に何らかの期待をして呼んでもらった時点で嬉しいし、もし絵が使われなくても提案ができれば成功だと割り切れて楽しめますからね。
今すごく思うのは、活躍しているプロのイラストレーターはみんな、ちゃんと社会に機能する世界観があるということです。社会に何かの効果が与えられるからこそ必要とされる訳で、自分が好きな物を自分のフィールド内で作るだけではダメ。それぞれの案件の立ち上げから呼ばれるようなクリエイティビティが今後は重要になるだろうし、その方が幅広く活躍できるんじゃないでしょうか。

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