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2007 ミラノサローネ特集
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桐山登士樹+西中川 京 : Milano Slone 2007 傾向分析編
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— 日本企業の評価 —
(オランダ企業のプレゼンテーションと比較して)


今年のミラノサローネには数多くの日本企業・団体・デザイナーが参加していた。代表的な企業として挙げられるのが、レクサス、ソニー、ヤマギワ、TOTO、JVC、NTTDoCoMo、ヤマハ、三井不動産レジデンシャル株式会社など。団体としては、デザインアソシエーションが大規模の展示を行った。レクサス、ヤマギワ、TOTOなど数年来ミラノサローネに参加している企業はさすがにそのプレゼンテーションにおいて、他の日本企業と比較しても群を抜いて洗練されている印象を受けた。またロンバルディア州のクラフトとAV機器を組み合わせた開発を行ったソニーや隈研吾氏を起用し、知的な日本を感じさせる居住空間の提案を行った三井不動産レジデンシャル株式会社、空間を敢えて作りこまずに、作品のデザインを際立たせ、潔く音楽を楽しむことに主眼をおいたヤマハの展示提案などは特に肯定的な評価をしたいと思う。


Lexus

Lexus

建築家の乾久美子氏を家具と会場のデザイナーに抜擢した今回のレクサス。銀色の紙を切り抜いて作った床と壁に埋もれる車。静かなラグジュアリーを感じさせる空間


近年の日本企業や団体、デザイナーの参加の増加は、現地でも賛否両論があると言われている。とかくその目的が本来の「グローバルなビジネスを行う」ではなく「日本への情報のフィードバックによるブランドの付加価値の創造」にあるからであろう。そして往々の場合、これが結果としてのプレゼンテーションの姿勢に直結してしまっており、他者の目には他国の企業に比べて弱弱しく魅力に乏しく映る。参加することに意義を置き、「日本市場に向けて情報を発信すればいい、世界での評価もそれで得られれば棚からボタモチ」とも受け取れるその姿勢は、せっかくの優れたデザインや作品を悪く見せてしまっているようにも思える。日本企業がこの行為を続けて行くことは、ヨーロッパでのひいては世界中での評価を落とす結果につながることになるかもしれない。

Sony

Sony

Sony Design × Master Craft Lombardia会場入口。ドゥオーモ広場のすぐ近くという最高のロケーション 。


一方で、今回のミラノサローネにはアーレンドやモーイ、ドローグデザイン、ロイヤルティシュラーマッカムなど多くのオランダ企業(こちらは家具とサニタリーメーカーがほとんどであり、規模も日本企業に比べるととても小さい)が参加していた。彼らの会場は、必ずしも造作自体にこだわっているものばかりではないが(多分日本企業のほうが時間もお金も惜しんでいない)、日本企業の会場にはない生き生きとした空気が満ちていた。なぜならそこにはプレゼンテーションの次のステージとしてのコミュニケーションが存在していたからである。コミュニケーションはまさしくヒューマントゥヒューマンのインターアクションである。そのダイナミズムによって作品が説得力を持ち、企業としてもグローバルマーケットから正当な評価をもらうことに繋がっているように思われる。

Sony

Sony

ロンバルディア州のクラフトマンシップとソニーデザインのコラボレーションだった今回の展示。写真は真空部全体で音を作り出すスピーカー。テーマ設定が明快ですべての作品がとても丁寧に作り込まれていた。若干和を意識しすぎた仕上げに古風な印象を受けた。


三井不動産レジデンシャル株式会社

三井不動産レジデンシャル株式会社

「つなぐ」というタイトルで隈研吾氏設計の展示空間。快適な和の居住空間の提案を行った。








「日本への情報のフィードバックによるブランドの付加価値の創造」。それはそもそも「ミラノサローネに参加しました」「こんな風に外国の雑誌の記事になりました」というものではなかったはずである。「ヨーロッパのマーケットに受け入れられ、そこでこんなに正しく評価されていますよ」という情報をフィードバックすることではなかったか。仮に前者を目標に設定していたとしても、今回の日本企業の多くの場合のやり方はヨーロッパにおいては古臭いものであるし、なじみの薄いものであった。例えば自分が所属するものとは異なる文化に身を置く時、自分が相手を尊重してどのように振舞うべきか、自己をどこまで通すかの折り合いをつける作業を繰り返す。ミラノサローネにおける海外企業のプレゼンテーションも同じではないのだろうか。いろいろと厳しいことを言ってしまったが、是非これらの日本企業・団体には来年も引き続き、また他の多くの企業にも新たに参加してもらいたい。そして来年は、明確な目的を持った素晴らしいプレゼンテーションと作品が見られることを楽しみにしている。


三井不動産レジデンシャル株式会社

三井不動産レジデンシャル株式会社

ベッドルームの展示の様子。全体的に静謐なインテリアデコレーションが印象的。日本以外から来た来場者にはとても新鮮に写ったのでは。


三井不動産レジデンシャル株式会社

三井不動産レジデンシャル株式会社

キッチンは木村ふみさんのデコレーションで。






TOTO

TOTO

ステファノ・ジョバンノーニが担当した今回のデザイン。写真は人が通るとセンサーで蓋が自動的に上がる展示。普段は見ないユーモラスなトイレの表情に失笑する来場者を多く目撃。




TOTO

TOTO










YAMAHA

YAMAHA

シンプルな展示と「とにかく音楽を楽しもう」という姿勢に好印象。RCAとコラボレートしたあたらしい音楽装置を来場者も楽しんでいた。自分たちの伝統楽器であるバイオリンやピアノの新しい姿をヨーロッパ人はどう受け止めたのか興味が湧く。


NTT DoCoMo

NTT DoCoMo

スーパスタジオピウの会場でとても目立つところに一面で展示。だが立ち止まる人は少なかった様子。家具メインのフェアだから仕方がない。展示台の周囲に付けた画面が明るすぎて展示が見にくいのが残念。





Tokyo Design Premio by Design Association

Tokyo Design Premio by Design Association

日本のクリエイション大集合の空間。手前の丸い筒はアートディレクターのプレゼンテーション。











Tokyo Design Premio by Design Association

Tokyo Design Premio by Design Association

今回この企画に参加した企業は以下の通り。写真の展示は富士通株式会社のもの。
株式会社ミドリ、 株式会社フジテキスタイル、 富士通株式会社、 株式会社竹尾、 イデアコ、 株式会社内田洋行+川上元美、 セイコーエプソン株式会社、 株式会社エーアールユー、 フランスベッド株式会社、 リコー株式会社、 有限会社リブピュアライフ、 フレスコ/足立和夫、 カリモク家具販売株式会社、 マーケット・イン・ラボ アライアンス


Tokyo Design Premio by Design Association

Tokyo Design Premio by Design Association

セイコーエプソン株式会社の展示。













日本ビクター

日本ビクター

スピーカーのオンラインコンペティションの受賞作品を展示。















BALS TOKYO

BALS TOKYO

森田恭通氏がデザインしたブース。写真では分かりづらいが中心にどーんと置かれた噴水に注目が集まる。ただし空間が暗すぎて肝心の家具があまり見えなかった。




Jaga with Joris Laarman

Jaga with Joris Laarman

比較対象にしたオランダのプレゼンテーション。ヨリス・ラールマンの唐草模様ラジエーターの1/1モデルのチョコレートを作成。金槌で割って来場者に振る舞う。やり過ぎ感はあるが、主催側と来場者のコミュニケーションは自然に生まれる。


喜多俊之氏の展示

喜多俊之氏の展示

日本デザイン界の重鎮ももちろんサローネで展示。喜多氏は日本の伝統技法を大切にした作品の数々を展示。






内田繁氏の展示

内田繁氏の展示
内田繁氏は、事務所に所属していたデザイナーの藤原敬介氏、TONERICO、Johanna Grawunder氏との合同展。水面で反射する光が当たる正面の壁が効果的。静かで美しい空間を演出。







TONERICOの展示

TONERICOの展示

サローネサテリテでファーストプライズに輝いたシャンデリアの進化系、MEMENTO-LINKの展示。本体も、壁に映る影もキレイ。



— ミラノサローネの素晴らしい副産物 —

ここからは余談になるが、ミラノサローネ期間中は、ミラノ市内に点在する文化施設で展覧会が開催される時期でもある。今回特に素晴らしかったのが、COSMIT(見本市を運営する団体)主催・パラッツオラーレで開催されている『Camera con vista Arte e interni italiana 1900-2000』展、そしてポモドーロ財団で開催されている『Doppio segno. 2RC tra artista e artefice』展である。 前者は、20世紀のイタリアのインテリアデザインを当時のアートや音楽と共に紹介するもの。ブガッティの家具が展示される新印象主義の部屋からはじまり、ノベチェント、ポストアヴァンギャルド、ラディカルデザイン、アルキミアやメンフィス、ミニマリズムまでのインテリアの潮流とアルテポーヴェラやポップアートといったアートの潮流が18の空間の中で融合され、各々の時代の特徴をより際立たせる素晴らしい展覧会である。後者は、「2RC」という20世紀の代表的なアーティストの版画作品の製作に携わってきたローマの版元の功績を讃えた展覧会である。 この展覧会では、ルーチョ・フォンターナやエデュアルド・チリーダ、ジョージ・シーガルなどの大型の版画が広い空間に溶け込むように展示してある。ミラノサローネ期間中は、家具メーカーのサポリティイタリアが新作発表の会場として使用しており、「Inside Art」というテーマで伊藤節&志信やマルティ・ギシェなど8組のデザイナーによる新しいテーブルデザインの提案が行われていた。これらのように、分野や時間を自由に飛び越えた展覧会を見ることは日本では未だ稀であり、新鮮な感動がある。 インテリアデザインとアートはそもそもの出自を同じくするものであるということ、そして素晴らしいアートと美しく機能的な家具デザインのある空間が豊かで想像力に溢れたものになることをあらためて確認することができる展覧会である。これらの展覧会は今年のミラノサローネが生み出した素晴らしい副産物であるといえよう。両展覧会はミラノサローネが終了した現在も開催中である。これからミラノへ行く機会のある方には是非ご覧頂きたい。

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