- デザインコンセプト
- 担当:長田慶太建築要素
段々状に家が立ち並ぶ香川県高松市の住宅地の一端は、警察の宿舎が解体された後、10年程放置されていた。ここに街を、そして山をそっと呼び込んでくる…。
敷地は40mにもおよぶ30度程の傾斜地で、造成に頼るとその規模は大きくなる上、予算も圧迫する。自然の力がその計算値を少し越えただけで、たちまち基盤から不安定になってしまう。この際、現状地盤の安定性が眩しくも見え、人が手を入れることで可能性を限定的にすることに気付かされる。手に余るとすら感じた自然の地形が力を秘めて見えてくるのだ。
道は山を分断し、山の記憶は街を拒んでいるようだ。建築行為は自ずと街を引き込んではくれるが、“山にも戻れず、街にもなれなかった”というこの場所において、物事が起きる程でもないそれぞれの小さな場所性は重なりあうことで、はじめて足し算だけではない可能性へと成長する。それは街の記憶だけでなく、場所の記憶でもあり、身体の記憶でもあるからだ。
計画において、躯体や影で大地を覆い隠してしまうことのないように容積を分割、斜面に並べ、それらを岩盤地盤へと深層にずらす。それぞれの隙間から解放された大地は、屋上緑化の始点とする。本来は地と分断され、肥料や水を与え続けることで維持管理を行うが、ここでは山土のみで構成。土を介した大地との連続が生態系を繋ぎ、スラブ上部においても岩盤に堆積した土壌に植生しているよう、生物が大地の深層から訪れるよう、落葉などの分解も自身の領域内で行いつつ、地中に水路(みずみち)を作りながら行き交う。
大地という更なる自然の領域にも埋もれ、流れ下りてくる自然の一端を体全体で受け止め、留まった処々は更新と堆積、成長と分散を繰り返す。この大規模にもみえる緑地は、山や地の「端」としてここにあるのだ。
所在地 | 香川県高松市宮脇町2-10-80 |
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主要用途 | 長屋 |
敷地面積 | 671m2 |
建築面積 | 347.84m2 |
延床面積 | 344.58m2 |
階数 | 地上1階 |
設計 | 長田慶太建築要素 |
設計期間 | 2011年6月〜2012年9月 |
施工期間 | 2012年10月〜2015年1月 |
撮影 | 新建築社写真部 |