合宿所yutorie

1人のデザイナーが主体となり、空き家を合宿所にリノベーション

建物の半分がモルタルに埋まっていて一見ぎょっとするこの建物は、静岡県熱海市にある「合宿所yutorie」。企業やクリエイター向けの合宿所として、株式会社ユトリエのデザイナー、近藤尚さん自身が事業主体となり空き家をリノベーションした施設です。同施設のプロジェクトがスタートした背景や特徴などについて近藤さんにコメントをいただきました。

■背景

「合宿所yutorie」は、長らく放置されていた空家2棟のリノベーション計画である。静岡・熱海にある元別荘として使用されていた平家と、同敷地にある住宅として使用されていた2階建屋を、企業やクリエイター向けの合宿所として、宿泊機能、作業スペース、飲食店を備える施設として再活用することを考えた。温泉の出る別荘として、前所有者が絵を描くアトリエとして使用していた背景を継承し、温泉に入りながら創造的に過ごせる場所としての合宿所を計画した。

■コンセプト

まずこのプロジェクトで特筆すべきは、デザイナー自身が事業主体となっていることだ。空家の活用がスタート地点にあり、そこから空間のデザイン、業態の企画開発、運営の確立、ブランディングやマーケティングにいたるまで、1人のデザイナーが主体となり創造した。

本プロジェクトの目指すところは2つで、事業として確実に収益を出してこの業態を社会に根付かせることと、デザイナーのデザイン業におけるリードワークとすることである。本プロジェクトは物理空間だけでなく、そこで営まれること、さらにはその先の成果までも1人のデザイナーの考えのもと設計されている。空間デザインの領域やデザイナーの職域、そういった境界線にとらわれない、1人の偏った思い込みを現実的に実現させることを目的としている。

■手法、特徴

平家半分を覆うモルタルには、物理的機能はなく虚無である。無意味性をこの施設の象徴とすることで、人の興味を誘引することとなると考えた。それが、築60年を超えるが伝統的な家屋でもなく、当時の一般的で安価であろう造りの建物に価値を持たせることの解であるとした。

合宿所yutorie 外観画像

平屋を覆うモルタル

合宿所yutorie 作業棟内観画像

作業棟:壁面の半分を覆うモルタル

所在地 静岡県熱海市
設計 近藤尚
施工 睦月建築工芸
構造 木造
敷地面積 350m2
延床面積 210m2
竣工日 2022年1月
撮影 市岡祐次郎