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既存建築のルールと歴史を引き継ぎ、新たな用途へと改修した空間

デザインコンセプト
担当:後藤周平建築設計事務所

地方都市の目抜き通りに建つ、築80年の木造店舗併用住宅をビアバー兼ヘアサロンに改装したプロジェクト。80年という長い時間のなかで、すでに何度もリノベーションが繰り返され、用途が変わり、壁が何度も重ねて貼られ、現在にいたっている既存建築に対して、新たにリノベーションをするというよりは、その歴史を引き受け、保存・保護しながら必要な空間を確保する仕組みづくりを試みた。

近年施工されたと見られる天井と内壁を剥がすと、80年前の架構、土壁、モルタル、窓、鉄骨など、想像を超えた時間の痕跡が現れた。その作業は解体というよりはむしろ、この建築のもつ歴史の発掘作業といったほうが近いものであった。

外周部に関しては、周囲の状況が変わるたびに外壁や屋根の波板が何度も重ねて貼られ、増築部も同形状の波板でシームレスに既存建築と繋がれていた。波板の素材はトタンからガルバリウム、ポリカーボネートと多種多様であるが、同じ規格が長年流通しているため、歴史を横断するように、時間を超えて重ね貼りすることを可能にしている。

波板の貼り重ねというリノベーションの歴史を引き継ぐ方法として、内部においても同様に既存の壁の上から透明のポリカーボネート波板を貼り重ねることを試みた。透明の波板によって80年間の既存建築の歴史を可視化するとともに、ビアバーとヘアサロンの間を柔らかく区画することを可能にしている。また、仕上げはほとんどが施主によるDIYで施工されることを踏まえ、加工の容易さ、下地が見えることによる施工のしやすさも考慮して材料を決定している。

既存建築のルールを調整することがここでの設計という行為で、それ以外は極力手を加えず、既存建築のままとしている。今後設計者の手を離れても、既存建築の特徴的な歴史とルールが引き継がれてゆき、少しずつ変化していくことを期待している。

用途 ビアバー/ヘアサロン
設計 後藤周平建築設計事務所
所在地 静岡県磐田市中泉219-2
設計期間 2017年4月~6月
工事期間 2017年6月~7月
床面積 75.94m2
撮影 長谷川健太