集英社TOON FACTORY phase 2

「漫画のコマの中で働く」を体現する、線と光で構成された空間

天井に無数のアルミテープが走り、光の反射と揺らぎによって広がりが感じられるこの空間は、縦読みデジタルマンガ「WEBTOON」制作などを手がける株式会社集英社TOON FACTORYのオフィスです。

設計を手がけたのはGAMMA Architects。代表の末吉真也さんに、制作背景やコンセプトなどについてうかがいました。

■背景

集英社TOON FACTORYは、漫画やWEBTOON事業を主体とするクリエイティブ企業である。計画対象は、東西に長く伸びるテナントビルの1フロア。すでにあるオフィスの別棟の増床工事である。

このオフィスで行われる業務は、主にコンテンツの作画や絵コンテ、連載作品の編集作業が中心である。そのため、単純な働きやすさだけではなく、創造的な思考を刺激するような空間が求められた。

集英社TOON FACTORY phase 2

■課題となった点

設計において最も大きな課題は、開口が一面のみ、天井高が約2,200mmとオフィス設計としては非常に厳しい条件であること。通常であれば閉塞感や圧迫感を生むこの制約に対し、「制約を素材化する」という発想で挑んだ。

制約を欠点と捉えず、「閉じた空間だからこそ、内部に視覚的な拡がりをつくる」というテーマに転化した。

■コンセプト・空間の特徴

コンセプトは「漫画のコマの中で働く」。天井を解体せず既存状態のまま残し、そこに約20kmにおよぶ耐熱アルミテープを職人の手で一本ずつ貼り重ねるという手法を採用した。

仕上げ材として想定されていない工業的な素材だが、その表面の反射が空間に奥行きと光の揺らぎをもたらす可能性に着目したものである。外部の建物や街路樹を映し込みながら室内に景観を取り込むことで、空間に広がりをもたらしている。

集英社TOON FACTORY phase 2

この線の集合は、漫画の「集中線」や「流線」のように見え、まるで漫画家が線を重ねて世界を描くように、空間そのものを“描いて”おり、漫画というメディアが持つスピード感や、情緒の高まりを建築的要素に翻訳している点が大きな特徴である。

また、素材をランダムに貼り重ねることで生まれる微妙な歪みや反射の乱れは、漫画家のペン跡のように“手仕事の痕跡”を空間に残している。これは、インクの滲みやペン先の震えを思わせ、手で描くという漫画制作の根源的な行為と呼応するものであり、光と線によって「描く」という行為そのものを空間化している。

集英社TOON FACTORY phase 2

さらに、待合スペースには、名作ソファ「LC2」に着想を得たデザインを採用し、不要となった雑誌を張地として再利用した。編集文化やメディアの循環性を象徴的に表現し、過去の物語が新しい空間で息づく場となっている。

限られた条件の中で素材の選択、職人の手仕事、文化的文脈を融合させた本計画は、制約を創造へと変換する我々のデザインに対する姿勢を最も端的に示すプロジェクトとなった。AIの可能性がますます広がる現代において、このオフィスは人の手によって紡がれた線と光で構成された、“物語を描くこと”の本質を体現している。

所在地 東京都千代田区九段下
設計 GAMMA Architects
施工 株式会社ToloWa
竣工日(開業日) 2025年6月
撮影 千葉顕弥