オモケンパーク

人や街との関わりが生まれる、「連帯感」に包まれた場所

2019年5月に熊本市の上通商店街に誕生したオモケンパーク。2016年に起きた熊本地震の影響で取り壊しとなり、更地になっていたビル跡地に新しくリニューアルオープンした、国内初のソーシャルデザインパークです。パーク内にはカフェも併設されていて、店内はもちろん庭や屋上テラスなど、自分の居心地のよい場所でゆったりとした時間を過ごることができる空間です。

設計を担当した、矢橋徹建築設計事務所の矢橋徹さんに、制作背景やコンセプトなどについてお聞きしました。

■制作背景・コンセプト

当初クライアントは建替を計画していましたが、震災前と同等の3階建のビルを建設するコストは、会社員であるクライアントが抱えるには難しい金額でした。仮に建設したとしてもコスト回収には賃料を高額に設定する必要がある上、ナショナルチェーンを呼び込むことになってしまい、建設自体が不合理な行為に思えたことや、代々アーケード街で商いをしていた、先代から続くコミュニティを無理ある建設行為で断絶してしまうのではないか?とクライアントは懸念していました。

オモケンパーク

Photo:yashiro photo office

また、震災直後、人々の間に自然発生的に生まれた助け合いや共生への意識は本質的なコミュニティの復活であり、この潜熱に水を差すような行為に踏み切ることはできませんでした。そこでクライアントは決断し、“何も建てない”という選択をしました。

跡地を素のままにし、そこに多種多様な人々を交え、企画立案を行いながら使い方を展開する私設公共空間として定義。市民活動や文化活動をバックアップする補完的位置付けとしての利用へと踏み切りました。この試みのこけら落しには、建築家・坂口恭平の「モバイルハウスプロジェクト」を実施。その後、このプロジェクトを皮切りにアーティストや商店、行政機関、学校機関との協働によってさまざまな使い方をこの場所で展開しました。

約1年が経過し、それまでの活動に使用していたモバイルハウスや屋台などの仮設建築の老朽化、インフラが無いことで活動に制限がかかり始めたことから、次のフェーズを考える必要がありました。そこで、負荷の小さな最小限の建築と広場をデザインし、地域のシェア拠点とする計画となりました。

オモケンパーク

Photo:yashiro photo office

小さな建築を計画するにあたり、小さな建築の持つ可能性を考えました。小さな建築の配置計画は、同時に余白を設計するという両義性を備えていることや、街との関わりを多く持つことができる可能性を秘めています。それは今回のプロジェクトの根幹にある相互扶助関係や、都市の利便性が向上した現代の暮らし方にあるシェア意識と重なる部分だと言えます。

そこで、シェア拠点を考える上でのキーワードのひとつとして、小さい建築は、一つの建築というよりは「都市空間の延長」に位置付けができると捉えることができるのではないかと考えました。もう一つの重要なキーワードは「連帯感」。たとえば、ポンピドゥセンターの傾斜した広場や、スペイン広場の階段広場には独特の連帯感が備わっています。傾斜や階段といった同じ環境や空間を同時にシェアしているという心地よさ、適度な距離感、そしてその環境を一望できる透明性が心地よさを一層強くしています。

オモケンパーク

Photo:yashiro photo office

■特徴

アーケードに面した半屋外空間、カフェ機能を持つ屋内空間、多目的広場、屋上テラスがあり、構造モジュールに合わせてレンタルすることも可能です。また、同時にいろいろなイベントを各所で運営することも可能なので、それらが重なり合うことで起こるインタラクションを期待した設計としました。

オモケンパーク

Photo:yashiro photo office

オモケンパーク

Photo:haco photoshop

屋内のメイン機能はコミュニティカフェですが、調理ワークショップや飲食イベントへの利用も可能で、天井の折半やダクトレールとフックの組み合わせでギャラリーなどの屋内イベントに対応することもできるような設えになっています。広場はトークイベントや演劇、サテライトギャラリーなど多目的に利用可能。また、旧ビル解体の際に現れた井戸は、災害時に生活用水として利用できるという機能も備えています。

オモケンパーク

Photo:haco photoshop

段状構成から発生したスリットは、単に昼光利用や視覚的透明性を担保することだけでなく、敷地外のアーケードの賑わいや広場での賑わい、屋内のキッチンで働く人々や屋内外でコーヒーや食事を楽しむ人など同時に起こるアクティビティを重ね合わせ、同じ空間や時間、環境をシェアしていると感じることができる、心地よい連帯感を生み出しています。

オモケンパーク

Photo:haco photoshop

その様子がアーケードからも感じ取れることで明るい空気がアーケードまで流れ出すことを目的としています。人や街との関わりが生まれる連帯感に包まれた場所、「この街に住んでいる」という意識を抱けるような寛容な場所を目指しました。

矢橋徹建築設計事務所
https://yabashi-aa.com/
所在地 熊本県熊本市
用途 多目的広場
構造 鉄骨造+CLT造
敷地面積 193.69m2
建築面積 67.66m2
法定延床面積 48.37m2
設計 矢橋徹、上野拓美/矢橋徹建築設計事務所
構造設計 黒岩構造設計事ム所
施工 有限会社 熊本建設
撮影 八代哲弥、平田克弘