石川県立図書館

円形劇場を思わせるグレートホールを中心に、回遊性を高めた空間

本が開いていく様を表現したような外観の建物は、2022年7月にオープンした「石川県立図書館」です。設計を担当したのは、株式会社環境デザイン研究所と石川県土木部営繕課。従来の図書館機能に加え、文化交流を目的としたエリアの充実を重視したという同施設の特徴についてコメントをいただきました。

■背景

金沢市小立野の旧金沢大学工学部跡地に移転建替した、石川県立図書館の計画である。敷地南側には小立野通りに直交するアクセス道路が計画され、また道路を挟んだ対面には金沢美術工芸大学が建設されており、かつての大学跡地が新たな県の文化拠点と金沢市の教育拠点として生まれ変わることになる。敷地中央に本体建物を配置し、その周辺に広場や庭、回廊、駐車場、緑道を層状に、遊環構造的に計画することで、近隣の住宅街に配慮しつつ良好な図書館環境をつくることを意図した。

■コンセプト

県の基本構想では、施設規模を拡大した上で、貸出や学習といった従来の図書館機能に加え、体験スペースなどを備えた文化交流エリアを充実させることが重視された。さまざまな知的な活動が展開でき、多くの人を惹きつける活気と賑わいにあふれるアクティブな図書館が求められた。

さらに私たちは、目的がなくても何気なく訪れることのできる図書館、うれしい時には心をときめかせ、悲しい時には心を整理できるような図書館を提案した。それは2008年に秋田で完成した国際教養大学中嶋記念図書館の発展型である。

石川県立図書館内観写真

■課題となった点、手法、特徴

建物は地下1階地上4階建の構成で、中心部にはグレートホール(以下、GH)と呼ぶ、吹き抜けの大閲覧空間をもつ。GHは円形劇場を思わせる段状の空間であり、書架と多様な閲覧席からなる各段は1階から3階までがスロープによって接続され、遊環構造の原則により集中と回遊を促すように構成されている。これに加えて、エレベーター、エスカレーター、小階段、ブリッジによるショートカット動線も同時に備え、本を散策する楽しみと目的の本へのアクセス性を両立させた。GHには、日本十進分類法とは異なる独自の12のテーマに基づいて各分野を横断する内容や入門的な内容の本が配架され、建築が生む地形と呼応している。

石川県立図書館内観写真

回遊促すために構成されたグレートホール

館内各所には、石川県の豊かな工芸文化や風土の一端に触れられるよう、工芸作品が配されている。さらに色彩計画としては、ベンガラ色がベースカラーに、加賀五彩という加賀友禅にみられる伝統色がアクセントカラーに用いられている。GHの天井は前田家の成巽閣にもみられる青色が引用された。

石川県立図書館内観写真

外壁はカーテンウォールと乾式タイルを装着したコンクリートパネルを交互に雁行させて配置し、凛とした立面構成としている。本の頁をめくる際の期待感をイメージするとともに、直射光を適切に排除しつつ半開放的な閲覧空間をつくることが意図された。

石川県立図書館外観写真

カーテンウォールと乾式タイルを交互に配した外壁

所在地 石川県金沢市小立野2-43-1
設計・監理 仙田満+株式会社環境デザイン研究所、石川県土木部営繕課
施工 清水・豊蔵・表・寺井・双建特定建設工事共同企業体 他
構造 金箱構造設計事務所
敷地面積 32,878.21m2
延床面積 22,720.81m2
開館日 2022年7月16日
写真提供 株式会社環境デザイン研究所
こどもエリア写真提供 石川県