児童養護施設「子供の家」

「施設」から「自分の家」になるよう整えられたリノベーション

デザインコンセプト
担当:伊藤潤一/伊藤潤一建築都市設計事務所

児童養護施設の改修計画である。施設にはさまざまな事情で親元を離れた、2歳~18歳までの約30名の子供たちが3棟に6つのユニットに分かれて生活している。建物は築30年ほどのハウスメーカーによる2階建てプレハブ系住宅で老朽化が激しかった。既存建物は家というイメージからは遠く、宿舎のような施設としての雰囲気が強く感じられた。改修計画では、構造上間取りの変更は難しく、限られた予算と諸条件の中で子供たちの環境改善が検討された。

【施設から家へ】
そこで家型のモチーフを、「施設を家に変換するツール」と位置づけた。家型は子供が考えたこの施設のシンボルマークでもある。家型を門や駐輪場、建具、テレビ台や収納棚といった家具などに用いる共通したアイコンにすることで、室内外に一体感を持たせた。子供たちの健康を考え、自然素材にこだわり、建具、床、家具などは無垢材、自然系植物性塗料を用いた。共用部の照明は、蛍光灯の青い光から暖色系の温かみと落ち着きのあるものに変え、散在していた本やおもちゃ、壁の掲示は場所を決めた。すなわち、施設のしつらえから家のしつらえに整えることで、家庭的な雰囲気をつくりだそうと考えた。

【子供たちの井戸端をつくる】
この施設では自分のユニット以外の部屋には入らないというルールがある。そこで、玄関先に家型の門とベンチを設けることで、子供たちのコミュニティの場を作り出した。子供たちは天候に関わらず、門から門へと渡り歩きながら、友達とおしゃべりに興じている。すなわち、子供版の井戸端である。井戸端は子供たちにとって社交の場であったり、大人たちへ心を開く場であったり、安全に一人になれる場所でもある。

【メッセージをおくる】
改修計画を通して、子供たちの物理的な生活環境は劇的に変化した。しかし、本計画で中心に位置付けたのは、子供たちの心へどのような変化をもたらせるかであった。改修前にはワークショップを行い、計画案を子供たちと一緒に考えた。工事中には、箸づくりのワークショップを行い、鉋がけを体験することで、職人技の凄さを目の当たりにしてもらった。

モノづくりに力があるのなら、目の前で自分の居場所が変化していく様は、子供たちへ必ず何らかのメッセージを伝えているに違いない。そして、子供たちが自分の居場所が存在していることを自覚し、ここを巣立った後も「自分の家」として記憶に残る場所になることを願っている。

所在地 東京都清瀬市
用途 児童養護施設(リノベーション)
構造 壁式プレキャスト鉄筋軽量気泡コンクリート造
規模 地上2階建
敷地面積 6472.89m2
建築面積 A棟163.96m2/B棟163.96m2/C棟163.96m2
述床面積 A棟303.07m2/B棟308.04m2/C棟308.04m2
設計 伊藤潤一/伊藤潤一建築都市設計事務所
サイン計画 千葉大学 伊藤潤一研究室(池田美月、山下麟太郎)
施工 株式会社大和工務店
撮影 淺川敏