子ども映画食堂

奈良の空き家通りで、緩やかな「つながり」を結び直す

デザインコンセプト
担当:阿曽芙実建築設計事務所

古都奈良の中部に位置する小さな町、大和高田市永和町内の空き家通りに「子ども映画食堂」をつくりました。車も通れない細い路地に佇む町屋を改修し、不定期で映画の上映会を開いています。また、今後は飲食店をやりたいという人を対象にスペースを間貸しすることを予定しています。

大和高田市は、かつては活気にあふれた商都でしたが、人口流出による人口減少、貧困層の増加、高齢化が進んでいます。特に子どもの貧困はかなり深刻な状況です。空き家が増え、人々の「つながり」が希薄になってしまうことで、誰にも気づかれず、頼ろうにも頼れる人が周りにいないという苦しみを、子育てに割ける資源の少ない家庭は抱えています。

プロジェクトの目的は、かつてこの町にあったような人と人との緩やかな「つながり」を結び直すことです。つまずいたときに話ができる人、励ましてくれる人、支えてくれる人がいる、そんな「つながり」を結ぶ人々の拠り所として、子どもや若者、大人までが集う場所を目指します。子どもは無料で利用できるようにし、賃料で得た収益を子どもの食事代などのサービス利用料にあて、余ったお金を周辺の空き家改修事業に投資します。

築100年以上の町屋を改修するにあたり、まず利用者の安全性の確保のため、構造体としてのboxを内部に挿入しました。既存の佇まいは極力活かし、町屋の趣があるどこか懐かしい雰囲気を残しています。

また、今後の展開で周辺の空き家も改修し、このエリア全体が人々が集う場所として機能することで、子育てに割ける資源の少ない家庭にいる子どもたちのセーフティネットとなることを目指します。建物内部だけで完結する計画ではなく、路地にまで人の活動が染み出すよう、道行く人が腰かけられる縁側を設け、路地と中庭側は木製建具で全面開放できるしつらえとし、町とつながる計画としました。

所在地 奈良県大和高田市永和町4-22
延床面積 86.518㎡
構造 木造平屋建て
設計・監理 阿曽芙実建築設計事務所
施工 株式会社関西工務店/中谷工務店
構造 株式会社エス・キューブ・アソシエイツ
撮影 大竹央祐
開業日 2018年6月