喫茶野ざらし

福島県大玉村の“断片”を持ち込み、東京の「野」をつくり出した空間

椅子やテーブルはもちろん、照明や金具など店内の隅々まで素材のこだわりを感じる「喫茶野ざらし」。

設計者・施工者・運営者と複数の役割を担当した、一般社団法人コロガロウ/佐藤研吾建築設計事務所の佐藤研吾さんに、この空間が生まれるまでのプロセスや使われた素材、特徴などについてコメントをいただきました。

■背景

「喫茶野ざらし」は、アーティストの中島晴矢、インディペンデント・キュレーターの青木彬、そして筆者(佐藤研吾)の3人で始まったアートプロジェクトである。東京都墨田区の裏路地にあった木造2階建の比較的小さな建物を改修し、アーティスト・ラン・スペースとして2020年2月に喫茶店をスタートさせた。

この空間では、1970年代にアーティストのゴードン・マッタ=クラークがニューヨークで立ち上げた「FOOD」プロジェクトを参照し、現代の都市・東京において、自分たち自身の文化圏や経済圏を築き上げることを目指した。

喫茶野ざらし 外観画像

「喫茶野ざらし」というネーミングには複数の意図が組み込まれている。ひとつは現代都市における“余白”をつくり出すこと、そして、東京に“野っ原”をつくり出すことだ。これまで東京で住み暮らし、それぞれのやり方で都市空間に対するアプローチを試みてきた3人のやりとりの中で浮かび上がった場のイメージが「野」で、「野」には、都市の外側や外縁という東京の枠を超えて外部と接続していくような思惑もあり、このネーミングがつけられた。

■コンセプト

本プロジェクトで筆者は、建物改修の設計者であり施工者であり、スペースの運営者でもあるという複数の当事者として関わった。それゆえにこのプロジェクトでは、素材をどこでどのように集め、どのように組み合わせて誰がつくるかという、あらゆる作業内容を細かく調整していった。

当時、筆者は福島県大玉村と東京をおよそ週1回行き来するような移動生活を送っており、その移動自体が固有の創作環境であり、この改修プロジェクトを進めるためのリソースであると考えた。そこで、大玉村から素材や制作物の断片を東京へ持ち込むことを企画。持ち込まれた素材の組み合わせによってどのようなものをつくり出せるか?と、考えることからデザインを開始した。

■特徴

大玉村から素材を持ち込むという、ある種の創作手法の枠組を設定し、そのフレームの中で何をつくることができるかを考えていった。具体的に内装に反映したことは以下。

・村の製材所で挽いたクリの板材をテーブルや椅子の天板として使用
・村内で手に入れたスクラップ金属を溶かし、ドアノブを鋳造
・村で米の収穫後大量に発生するモミ殼を漆喰に混ぜて壁に塗布
・村でつくった藍染めの布を漆喰壁の目地として埋め込む/室内の照明器具のシェードに使用

喫茶野ざらし 店内家具画像

クリの板材をテーブルや椅子の天板に使用

喫茶野ざらし ドアノブの画像

スクラップ金属を溶かして鋳造したドアノブ

こうした限定から生まれる創作の可能性については、数年前から意識的に取り組んでいる(画策している)テーマである。また、なるべく自身が積極的に建設作業に関わようにしていることも、建設作業における技術の幅と限界を知り、そこで得た知見と実感をデザインにフィードバックしたいからだ。

「喫茶野ざらし」プロジェクトでは運営者としても関わっていたため、什器や家具はもちろん、訪れる人々も含めた空間全体の質感にいたる想像力は、関係者と対話を重ね、工事が進むにつれてより深化できた。筆者にとってそれはとても稀有で濃密な創作体験であった。

なお、「喫茶野ざらし」は、オープン直後からCOVID-19の影響をもろに受け、およそ開業から半年が経った後に青木、中島、筆者・佐藤の3人が運営を辞退する形となり、以降は株式会社4anso(現・株式会社喫茶野ざらし)が営業を続けている。青木・中島・佐藤の3人は店を出た後も、まさに“野ざらし”となって、引き続き「野ざらし」の名で3人での活動を続けている。

喫茶野ざらし 店内画像

所在地 東京都墨田区
設計 一般社団法人コロガロウ/佐藤研吾建築設計事務所(In-Field Studio)
施工 北條工務店、In-Field Studio、中村仲製作所、Davo
染色、布-照明器具、クッション 渡辺未来
鉄部溶接-机、照明器具 河原伸彦
染色、仕上-照明器具、内装壁 瀬辺茂
構造 木造2階建
延床面積 79.18m2(施工部分40.12m2
竣工日 2020年1月
撮影 コムラマイ