HUG GARDEN ほしのさと Kids

“ちょうどよい距離感”を保った赤瓦屋根の保育園

「粘土瓦」を使用した建築物や構造物の優れた実施例を表彰するコンクール「第18回 甍賞 瓦屋根設計コンクール」にて、銅賞を受賞した「HUG GARDEN ほしのさと Kids」。地域の風景の一部となっている石州瓦を使用した切妻屋根を持ち、同じ敷地内にある福祉施設との“ちょうどよい距離感”を実現した保育園です。

設計を担当したのは、髙橋勝建築設計事務所の髙橋勝さん。ジグザグに配置された園舎のコンセプトや、園児とデイサービスの利用者が、お互いの気配を感じられるようにとデザインされた空間の特徴についてお伺いしました。

■背景

「HUG GARDEN ほしのさと Kids」は、福祉施設ほしのさと(特別養護老人ホーム、デイサービス、ショートステイ)に併設された定員19人の小規模な企業主導型事業所内保育所です。

敷地は、1990年代後半に山口県下松市が医療福祉施設に限定した地区計画のために造成した丘陵地にあり、民家や幹線道路からは200mほど離れた静かで自然豊かな場所です。

そこに計画された「ほしのさと」は、約1.6ヘクタールの広い敷地を持ち、複数の施設で介護事業を運営しています。優秀な介護スタッフを確保するために、子育て中でも働きやすい環境を整備した事業所内保育所が必要となりました。

本計画では広い庭を中心とした豊かな自然環境という立地を活かし、活動的な介護(歩行訓練や畑での園芸リハビリなど、積極的な回復を意図した介護)を実践するデイサービスセンターと庭を共有することで世代間交流を喚起し、相乗的な好影響をおよぼし合えるような施設であることが求められました。

■コンセプト

園舎は親しめることと安心できる印象を与えるために、子どもが絵に描くようなシンプルな家の姿、軒を大きく出した切妻屋根の平屋としています。屋根には地元で多く見られる石州瓦を採用しました。

おもに島根で生産されてきた石州瓦ですが、最盛期の明治期には多くの職人が山口県を出稼ぎ先に選び、赤い屋根が地域の風景を彩りました。今でも近隣の昔ながらの集落ではよく見られる赤瓦屋根は、地域の素朴な風景の一つとなっています。この素朴な園舎を、庭をはさんで対面するデイサービス(デイサービスセンターの設計も当事務所が担当)から観る景色づくりとも捉え、庭を囲む介護施設の利用者の心に馴染む風景づくりとなることを意図しました。

HUG GARDEN ほしのさと Kids 外観画像

デイサービスから見える、赤瓦を使用した切妻屋根の園舎

園舎は必要な容積を確保したボリュームを効率よく並べるのではなく、いろいろな居場所があり、そこでの出会いや交流が生まれる空間が生み出せないかと考え、ボリューム数やその配置、隙間のつくり方を検討しました。また、園舎とデイサービスは、適度にお互いの気配を感じられるように“ちょうどよい距離感”での配置として、意識しすぎず、でも気配はいつも感じられるような関係性を築ける配置計画としています。

HUG GARDEN ほしのさと Kids 外観画像

“ちょうどよい距離感”で配置された園舎とデイサービス

■課題となった点、手法、特徴

園庭をデイサービスがある東側に広く確保するため、園舎は南北に長い構成となり、南面する保育室が限定されました。そこで南北に長い長方形の建物を3個に分け、45度程度傾けながらジグザグに再配置。これにより、保育室や遊戯室は南面し、どこにいても明るい園舎となりました。また、各ボリュームの隙間の三角の空間は保育室専用のテラスや、デイサービスに向けて開く半屋外空間となり、多様な居場所が生まれました。この場所がきっかけとなり交流が促進されることを期待しています。

HUG GARDEN ほしのさと Kids 三角の空間の画像

各保育室の間につくられた三角の空間

園舎とデイサービスは、適度にお互いの気配を感じられるようにいくつかの配慮を行いました。各保育室は庭に全面開放するのではなく、遊び場としたくなるような出窓をデイサービスの軒下テラスに向けて配置したり、建物間の移動は園舎東側の軒下の外廊下としたことで、園児が動けばデイサービスからチラリと見えたり、園児がデイサービスを出窓から見たりと適度な距離の中で、お互いが気配で交流できないかと考えました。

ほしのさと Kids 出窓の画像

遊び場としても利用できる出窓

HUG GARDEN ほしのさと Kids 外廊下の画像

園舎東側の軒下の外廊下

園庭に遊びに出た園児たちは気持ちの良い芝生に誘われて、庭を眺めているデイサービス利用者と、また築山に登ると畑でリハビリ園芸中の利用者と出会い交流が始まる。そのような想いから本計画とデイサービスセンターを設えました。竣工して約2年、思い描いた場面が徐々に生まれてきているようです。

所在地 山口県下松市
設計 髙橋勝建築設計事務所
施工 アルフ
構造 木造在来軸組工法
敷地面積 16945.19m2
延床面積 172.48m2
竣工日 2018年3月
撮影 松村芳治