hara house/中之島の家

農村集落を未来へつなぐ、不足と余白のある建築

新潟県長岡市の農村集落に建てられた「hara house/中之島の家」は、大きな土地の一角に、夫婦と子供二人が暮らす家を計画したものです。白い大きな三角屋根が特徴の住宅を手がけたのは、東海林健建築設計事務所。

設計を手がけた東海林健さんに、制作背景やコンセプトなどについてうかがいました。

■制作背景

新潟県長岡市鶴ヶ曽根(旧中之島町)農村集落内にを敷地に建てられた住宅です。古くから農業を生業としたこの集落は、各家同士の敷居が低く、醤油や味噌を借りに行く、夕方からは誰かの農舎で酒盛り、子供は両親以外からも見守られるなど、古き良き濃密なコミュニティーを形成してきました。

各家の土地は大きく、母屋はもちろん、納屋や農舎、蔵、車庫、栽培小屋、ビニールハウスといった沢山の建物を抱え、それらを日常的に行き来することで各家の営みと日常が支えられています。そんな集落で生まれ育ったクライアントがこの土地に戻るにあたり、大きな土地の一角に夫婦と子供2人が暮らす分家住宅を計画しました。

計画敷地には近年に新築された母屋(実家)を含め、すでにたくさんの建築が存在していましたが、中には老朽化の進む建物やほとんど使われていない建物もありました。そんな中、クライアントから求められたのは、新築する住宅はもちろん、母屋(実家)やそのほかの既存建築群の利活用も視野に入れた、家族各々がその時の状況や気分に応じて思い思いに過ごすことのできる環境づくりでした。

また、家族に限らずご近所さんやママ友、子どもの友だちまでも自由に腰のかけられる縁側やおしゃべりの弾む軒下、ワークショップの開催など、敷居を低くし「家を開く」ことも希望されました。

■コンセプト

一戸の小さな建築から始まる、周辺の建築群の利活用、さらには集落の賑わいまでを射程とする「強い環境」づくりに対する解答として、私たちは、不足があり不完全な「弱い建築」を提案しました。周辺にたくさんあるビニールハウスや農舎の架構を踏襲し、小さな材(120mm角材)によるシンプルなトラス架構の反復構造とし、小さな材の組み合わせや連続による、強く大きな、そして軽くおおらかなテントのような空間を実現。

収納や仕切り、個室をできる限り取り除いて大きなワンルームとし、不足やはみ出しをほかに頼らざるをえない状況とし、既存建築の利活用を促し、決して一個では完結しえない、建築群としての家づくり、暮らし方を目指しました。同時に、この「個の家としての不完全性」は、色々な人やできごとを引き寄せる開かれた余白として、「強い吸引力」になることを期待しています。

■手法、特徴

豪雪地であり、雨の多いこの土地において、色々な生業や活動に対応できるよう、大きな室内ではなく大きな屋根が求められました。求められた大きさとコストのバランス、および周辺建物の建ち方の引用、構造的合理性から、必然的に導き出された三角形トラスが規則正しく並ぶ架構を提案。

すべての構造木材には、一般流通材である長さ4mのベイマツ4寸角(120×120)を採用しています。屋根の裾野に直交配置された縁側やアプローチは登り梁で吊りながら浮かせることで、軽やかな縁側空間を実現し、同時に建築面積に対する基礎面積を約1/2にすることができました。構造部材のコストや基礎コストを抑えながら、豪雪地に軽やかなテントのような大きく強いフレームが実現できました。

所在地 新潟県長岡市鶴ヶ曽根
設計 嶋田貴之
施工 吉原組
構造 木造
敷地面積 427.90㎡
延床面積 166.24㎡(カーポート含む)
竣工日(開業日) 2019年2月
撮影 村井勇