緑と花と彫刻のまちとして知られる山口県宇部市で、「第27回 UBEビエンナーレ（現代日本彫刻展）」が2017年10月1日から11月26日まで開催されます。ときわ公園「UBEビエンナーレ彫刻の丘」で、2年に一度のビエンナーレ方式により開催されてきた「UBEビエンナーレ」。1961年から、大規模な彫刻展「宇部市野外彫刻展」として開催され、以来名称を変えながらも半世紀以上にもわたって宇部市民に愛されています。

杜 / 永廣隆次（第14回現代日本彫刻展 1991年）

戦後の復興期、宇部市ではまちの美化と心の潤いを目指す「緑化運動」と「花いっぱい運動」が展開されるなかで、自然と人間との接点としてまちに彫刻を置こうという「宇部を彫刻で飾る運動」が市民運動として広がりました。

「第27回 UBEビエンナーレ」では、世界29か国から277点の模型作品の応募があった中から、一次審査で選出された18点が、模型の約10倍の大きさで実制作されます。

耐震・耐風圧のための補強や運搬の問題など、いくつもの苦労を乗り越えて制作された野外彫刻の設置作業は、大型の重機を用いたダイナミックなもの、作家による地道な作業を伴うものなど、その制作方法はさまざまです。まもなく開催を迎える「第27回 UBEビエンナーレ」の設置の様子を取材してきました！

Construction kit Animak / ハンス・ショール

Construction kit Animak / ハンス・ショール

さまざまな柄が入り交じったハイブリットアニマルたちのピラミッド。作家が滞在製作中に、地元の子どもたちと50人一緒に塗り上げた。「遺伝子組み換え」に対する提言も暗に含まれているような作品です。

遊 / 増野智紀

遊 / 増野智紀

波をイメージしたカタチの中で、ぶら下がったり潜ったりして、波の中をサーフィンしているような楽しみ方ができます。ときわ公園「UBEビエンナーレ彫刻の丘」という場所の魅力をよく理解してつくられた、自然の中で映える作品だと感じました。

アフターアップル / 石上和弘

石上和弘さん

大学生の息子さんと制作作業中

「芯の周りのなくなった部分のエネルギーは、食べた私たちの一部になっている、と見ることもできる。その跡は、生に転換した証であり、充実した空間とも言えるだろう」と石上和弘さんはコメントしている。何枚も木材を曲げてつくり上げている。ドイツのクライデツァイト社とプラネットジャパンが共同開発した、100％植物油と植物性ワックスを使用した自然塗料「プラネットカラー」で塗装をしている。展示期間中にほど良い褪せ具合も楽しめそうです。

空想の軌跡 Ⅱ / 熊谷文秀

空想の軌跡 Ⅱ / 熊谷文秀

「形そのものには何の意味も寓意も存在しないのに、脳内に生まれる感情的イメージとその不思議」とコメントされた本作。目に見えないものをカタチにして顕在化させていくことと同時に、巨大な“なにか”を目の当たりにしたときの感動が彫刻にはある、と制作準備の過程を見てそう感じさせてくれました。

宇部をテーマとして制作された向井良吉による「蟻の城」。出品当初（1962年）から変わらず展覧会場の中心に位置し、現在でも市民にもっとも親しまれている

現在、「UBEビエンナーレ」を通して築き上げてきた野外彫刻コレクションは約200点！ときわ公園を中心に、さまざまな公共空間に設置され、市内広域に広がる”巨大な美術館”として楽しむことができるのが魅力です。膨大なコレクションからは、戦後日本の社会情勢、そして思想の変遷を反映してきた野外彫刻半世紀の歴史を感じることができます。今回の出品作品もそうした時代性を少なからず反映していて、彫刻に限らずですが、アートは時代を映す「鏡」ということなのかもしれません。

ちなみに、会場の「ときわ公園」は、面積約100ヘクタールにおよぶ常盤湖を中心に広がる緑と花と彫刻に彩られた総合公園で、山口県初の「登録記念物（名勝地関係）」に登録されています。

広大な園内は四季折々の自然美に彩られ、「日本の都市公園100選」や「さくら名所100選」、しょうぶ苑が「池坊花逍遥100選」にも選ばれています。また、「ときわ遊園地」「ときわ動物園」なども併設されており、宇部市民にとっての憩いと学びの場所といえます。秋のさわやかな空気とともに豊かな自然とアートが調和した美しい景観を堪能してみては？