天王寺動物園や植物温室、庭園「慶沢園」を擁する、大阪市の都市公園・天王寺公園。その一角にある大阪市立美術館では、日本や中国を中心に絵画・彫刻・工芸などの美術品を収集・公開しています。
もとは住友家の本邸で、登録有形文化財にも登録されている本館は、2022年9月末から2年5カ月にわたる大規模な工事を経て2025年3月1日にリニューアルオープンしたばかり。本記事では、歴史ある建物の価値を高めながら、より「ひらかれた」ミュージアムとして生まれ変わった同館の魅力をお伝えします。
歴史的価値を掘り起こしながら、より使いやすい美術館へ
まず、リニューアルで大きく変わった場所のひとつがエントランスです。正面玄関の下に入口を新設することで、大階段を上る必要なく入館することが可能になりました。天王寺駅からの動線が改善され、車椅子の利用者もスムーズに入館することができます。

階段の両脇に新設された、地下1階の入口
階段下の入口から中に入ると、新設のミュージアムショップが目に入ります。以前はチケットを購入しなければ入館できなかった同館ですが、リニューアル後は無料エリアと有料エリアに分けられ、ミュージアムショップや中央のホール、ミュージアムカフェ、テラスなど一部の施設は誰でも自由に出入りできるようになりました。

館蔵品をモチーフにしたオリジナルグッズやアートグッズを揃えるミュージアムショップ

美術館オリジナルグッズ
ショップと一緒に新登場したのが、マグカップやトートバッグなどのオリジナルグッズ。プリントされている植物のようなデザインは、建物正面の大階段を上った先の壁面にある意匠をモチーフとしています。大阪ゆかりの武将・豊臣秀吉の家紋と住友家の家紋が取り入れられたデザインなのだそう。

オリジナルグッズのモチーフとなったレリーフ
エントランスとミュージアムショップがある地下1階から1階へ上がると、広々とした中央ホールが出迎えます。リニューアル前は昭和50年代につくられた天井とシャンデリアが吊るされていましたが、これらを撤去したところ、昭和11年開館当初の白い漆喰の壁が出現。白壁が映える、より明るい空間となりました。

1階中央ホール
シャンデリアの代わりに、天井付近に設置された間接照明により柱が浮き立って見え、視線が自然と上に向かうような空間です。
また、このホールの北側には旧特別展示室がありましたが、「じゃおりうむ」と名付けられた多目的ホールに変わりました。名称の由来は、中国語の「交流(jiaoliu)」とラテン語の「~な場所・空間」を意味する「-arium」を組み合わせた造語。講演会やワークショップ、イベントが開催されるほか、普段は無料の休憩室として気軽に入ることができます。

広々とした空間の「じゃおりうむ」

「じゃおりうむ」の天窓を3階の廊下から見た様子。自動で開閉でき、ここから自然光を取り込む
自然光を取り入れられる天井の窓は、開館当初から変わっていません。このような展示室の採光は、当時最新だったといいます。

スワロフスキー製のシャンデリアのパーツ
また、じゃおりうむの部屋の隅には撤去されたシャンデリアの実物のパーツが展示されていました。以前から美術館に馴染みのある利用者にとっても居心地のいい空間になるようにと、昔の良さを残しつつ、新しさを取り入れた改修がおこなわれています。
次に、中央ホールから2階へ上がった先、東側には普段は一般公開されていない「特別室」と呼ばれる部屋があります。もとは住友家の主人の部屋として使用されており、レイアウトは当時のままにリニューアルされました。

印象的なのが、壁面上部の丸窓。中央ホールと同様に、昭和50年代につくられた天井をはがしたところ、3つの丸窓が現れた
部屋の中央に設置された大テーブルの先には、金箔と銀箔が貼られた市松文様の装飾。色味は異なりますが、開館当時の写真を参考に今回再現されたものです。
さらに3階へ上がると、建設当初は講堂として使われており、その後しばらく利用されていなかった空間があります。そこには新たにアトリエがつくられました。

ガラス張りのアトリエ外観
白く塗り直された講堂の壁や天井はそのままに、入れ子のようにガラス張りの部屋を設置。今後は、ビギナーからプロまで一般の方が参加する美術研究所のアトリエや、その他教育普及事業などに使用されます。

ガラス張りの部屋の前には、美術研究所のデッサンに使用される石膏像が。ほかにデッサン室も設けられた
新しくなった設備・サイン・ロゴ
リニューアルでは、耐震補強や省エネルギーの向上、洗面所の改装、サインのリデザインなどもおこなわれています。
古くなっていた洗面所は、1階が白、2階が黒を基調にしたデザイン性のある空間に。3階は、昔ここに写真を現像する「暗室」があったことから、暗がりの中に電灯が光る暗室をテーマとした赤と黒のデザインに生まれ変わりました。

3階洗面所
また、館内サインはすべてのデザイン・色を統一し、鑑賞に関する注意事項やお願い事項などの表記も見直されています。

館内サイン
今回のリニューアルに合わせ、美術館のロゴも新たに作成されました。開館当初から建物の通用口に設置されていた看板の文字がベースとなっています。レトロながら新しさも感じられるデザイン。ロゴは慶沢園のあるテラス側、カフェ横の出入り口に掲出されています。

新たにつくられた美術館ロゴ
美術館へは正面入り口のほか、裏手にある慶沢園側のテラスからも自由に出入りすることができます。テラスは天王寺公園内の商業施設が集まるエリアからも近く、公園と美術館をシームレスにつなげます。駅から商業施設を通り、庭園を眺めながら美術館カフェまで、散歩コースの一環として訪れるのもおすすめです。
アクセスや館内設備の改善、ショップやカフェの新設などにより、以前よりも「ひらかれた」施設へと生まれ変わった大阪市立美術館。ぜひ街歩きのついでにふらっと立ち寄ってみては。
取材・執筆:萩原あとり(JDN)