大阪中之島美術館で2023年6月18日まで開催中の、開館1周年記念展「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」。本展は同館のコレクションの柱であるデザインとアートを並行的に扱う初めての試みで、両者の境界や「重なりしろ」を見つけていくことをテーマとしています。
さらに、来場者と一緒に考えることに重きを置く同館らしい、参加型の展示手法を採用。この手法について、企画構成を担当したパノラマティクスの齋藤精一さんは「新しい所蔵作品の見せ方」と呼んでいます。会場ではどのような仕掛けが施されているのか、実際に体験してきました。
デザインとアートの“難問”に対峙してきた大阪中之島美術館
大阪中之島美術館は、設立時からデザインとアートの2つをコレクションの柱とすることが決められていました。以来、「何が『デザイン』で何が『アート』か?」「そもそもデザインとアートに境界はあるのか?」という問いと向き合ってきた経緯があります。
開館1周年となる2023年に、改めてこの難問を正面から問う本展。美術館が答えを示すのではなく、来場者自らが展示された作品の「デザインとアートの度合い」を決めるという、実験的な企画構成となっています。
多彩なジャンルのデザイン・アートがひとつの空間に
展示室には所蔵作品を中心とし、工業製品からポスター、絵画、家具、彫刻、写真まで幅広い作品が年代ごとに並びます。作者やカテゴリ、文脈の異なるデザインとアートが一堂に会しているため、最初は「作品をどのような観点から見たらいいのだろう?」と戸惑う人もいるかもしれません。
各作品に共通するのは、社会や美術界に大きな影響を与えていること。さらに、その重要性の度合いがそろうようセレクトされています。
例えば、展示品のひとつ「1964年東京オリンピック公式ポスター」は亀倉雄策が手掛けたもの。日本を代表するグラフィックデザイナーの名作とされています。作者や日本のグラフィックデザイン史について知識がある人なら、このポスターをデザインの文脈から読み取ろうとするのではないでしょうか。
一方こちらは、同じく日本を代表するインテリアデザイナー倉俣史朗の〈Luminous Table〉。タイトル通り、明るく光を放つテーブルで、一見すると家具としての造形に目がいきますが、通常テーブルには不要とされる「光る」機能が付与されています。これは実用なのか、表現なのか。デザインとアートの区別なく展示されている空間も相まって、その境界に関わる問いが生まれます。
また本展では、どのような作品か理解しようとキャプションを見ても、解説文が見当たりません。それが何のためにつくられたのか、あるいはそもそも目的を持たない表現なのか、自ら読み解くことが求められます。
来場者が自ら問いに対峙する「参加型」の仕掛け
展示室内を歩いていると、作品の近くに操作台のようなものが設置されていることに気付きます。そこには、作品ごとに「Design」「Art」のバロメーターを操作できるタッチパネルが。来場者はここに、各々が導き出した「これはデザイン?アート?」の答えを入力していきます。
本展のテーマはデザインとアートの境界や「重なりしろ」を見つけていくこと。「デザイン」か「アート」の2択ではなくそのパーセンテージを考えることは、デザインやアートといった領域の広がりも感じさせます。あくまで主観ですが、迷った挙げ句、デザインとアートのちょうど中間であると判断した作品もありました。
「デザイン何%か」「アート何%か」という問いに答えながら会場を進んでいくと、作品を見る観点も徐々に変化していきます。そもそもデザインとは何か? アートとは何か? それらを分ける必要性はあるのか? さまざまな問いが生まれ、答えが出る人もいれば中には謎が深まる人もいるかもしれません。
これまで当たり前のようにアート作品だと思っていたものも、なぜそう捉えたかが問われます。
こちらは携帯電話ですが、プロダクトデザイナーの深澤直人さんが手掛けたものと、アーティストの草間彌生さんが手掛けたもので性格が大きく異なります。機能性や表現の有無・程度は必ずしもデザインとアートを区別するものではないのです。
ほかにも、ここでは紹介しきれない111点の作品が並びます。一点一点、作品として見応えがあり、同館の所蔵作品の幅の広さも感じられる充実した展示内容です。
気になる「Design」「Art」の集計結果は?
展覧会の最後に待っているのは、来場者が入力したデータの集計結果です。「絵画」「家具」「彫刻」といったカテゴリや年代ごと、そして各作品の「Design」「Art」の割合がスクリーンに映し出されます。
回答は来場者によって左右されるため、展覧会の終了時点でどのような結果となったかにも注目したいところ。全体の数値と自分の回答とを照らし合わせることで、新たな発見があるかもしれません。
「小旅行の控えめなコンシェルジュ」のような展覧会
本展の企画構成を担当した齋藤精一さん。「これはデザイン何%か」「アート何%か」という問いかけを、体験としてどう来館者に提供するか考えたと言います。
「『これはただの椅子? 美術館に展示されているからアート作品?』そこにデザインとアートの境界線はありません。作品の説明文を取っ払い、来館者に委ねる。答えはみんなで決めることであり、もしくは個人がそれぞれで考えることです。そして最後に集計として見せる。これは来館者と地域との関係性が変わる実験にもなる、自分たちでキャプションをつくっていくような展示です」と齋藤さん。
齋藤さんが「小旅行の控えめなコンシェルジュ」とも表現する本展。美術館の新しいあり方を体験しに、ぜひ会場に足を運んでみてください。
会期:2023年4月15日(土)~6月18日(日)
https://nakka-art.jp/exhibition-post/design-art2023/
写真:衣笠名津美 取材・文:萩原あとり(JDN)