その土地が持つ価値をデザインの視点から分析・紹介、「地域×デザイン -まちを編みなおす20のプロジェクト-」

その土地が持つ価値をデザインの視点から分析・紹介、「地域×デザイン -まちを編みなおす20のプロジェクト-」

「地方創生」、近頃よく見聞きする言葉だと思いませんか?

実際のところ、その「地方創生」が何を意味していて、どんなことに取り組んでいるのか、東京にいると実態はなかなかわかりません。当然、それぞれの地域の特色や抱える問題は同じではないので、十把一絡げに「地方創生」と語ってしまうことには大いに無理があるのでは?とも感じています。

東京ミッドタウン・デザインハブで開催中の「地域×デザイン -まちを編みなおす20のプロジェクト-」は、そうしたわかりづらさに対してとても自覚的で、全国各地が地域の特色を活かした取り組み(プロジェクトといったほうが伝わりやすいかも知れません)を、生活・文化やコミュニティの「編みなおし」と考え、デザインの視点から分析・紹介しています。

「地域×デザイン展」は、例えば各地方の”良い感じ”のお土産や名産品が並ぶようなイベントとは趣が異なります。その地域が元々もっている価値を改めて見出す、「まちを編集」することにフォーカスした展示内容となっているのが特徴です。これまでは地方を盛り上げようとした際に、ビジュアルデザインの表現力ばかりが注目されていたのは事実ですが、それを発展させるための”仕組みのデザイン”の話がここではされています。これからの「まちづくり」を考える人たちにとって、ヒントとなるようなキーワードがいくつも散りばめられていると感じました。

地域×デザイン -まちを編みなおす20のプロジェクト-

地域×デザイン -まちを編みなおす20のプロジェクト-

同展は、グッドデザイン賞を主催する公益財団法人日本デザイン振興会と、プロジェクトデザインで社会を変革する力を持った人材育成を目指す事業構想大学院大学による共同の企画運営によるものです。アートディレクション・デザイン、企画協力はUMA/design farm、会場構成は建築家ユニットのdot architectsがそれぞれ担当。地域とのプロジェクトを実施してきた2組ならではの、多角的な視点で紹介する構成となっています。各プロジェクトの展示パネルには、そのプロジェクトの肝となる3つのポイント、キーマンなどが記されています。

展示パネルには、プロジェクトの肝となる3つのポイントを記載

展示パネルには、プロジェクトの肝となる3つのポイントを記載

「編みなおす」というキーワードは原田祐馬さん(UMA/design farm)からの提案。メインビジュアルについて、以下のように語っています。

原田祐馬さん(UMA/design farm)

原田祐馬さん(UMA/design farm)

「さまざまなものが編みなおされることで、再び新しい「もの」や「こと」が生まれる予感や期待を感じさせたいと考えました。ほころび(問題)に別のモノをパッチワークして覆うのではなく、糸を解いてもう一度編んでいったほうが良いと感じています。あやとりはひとりではできないものですし、手と手、顔を合わせておこなうコミュニケーションとして、今回の展覧会のビジュアルに最適だと感じました。糸はデジタルサイネージの地図に使われる色をイメージしています。姉妹都市じゃないですけど、各地域がこの展覧会を通してつながるきっかけになればと思っています」


「地域×デザイン -まちを編みなおす20のプロジェクト-」メインビジュアル

「地域×デザイン -まちを編みなおす20のプロジェクト-」メインビジュアル


会場構成を担当した家成俊勝さん(dot architects)は、今回の展覧会のこと、地域にデザイナーや建築家が入っていく時の役割を以下のように語っています。

家成俊勝 さん(dot architects)

家成俊勝 さん(dot architects)

「○△□、その3つの要素の組み合わせで什器を構成しました。ここに展示されている20のプロジェクトは、いま起きていることの一端に過ぎない。建築・設計の仕事だけでなく、「瀬戸内国際芸術祭」などの芸術祭を通じて、さまざまな面白い地域に関わってきました。そこで感じたのは、中にいると自分たちの地域の良さを発見できていないことが多い。外からデザイナーが地域に入っていくのは再発見のきっかけになるし、自分たちなりの解答を出すプロセスをあぶりだすことが役目だと思います」

○△□、3つの要素の組み合わせで什器を構成

○△□、3つの要素の組み合わせで什器を構成


特に印象的だったのは、「見た目だけ良くするデザインをしてしまったら、それはデザインの罪になる」という原田さんの発言。「そうならないためにどうすれば良いか、やはり理念から一緒に考えて、土壌からみんなで耕す必要がある。今回、展示されているプロジェクトは手放しで”美しい”といえるものではないが、すべて”優しさ”があると思う」と続けます。

原田さんが語るように会場に並んだ各プロジェクトの展示物について知ると、その土地についての興味がわいてくるような”優しさ”、関わっている人たちの愛着を感じさせるのものばかりです。

ここで、ひとつひとつのプロジェクトを説明することはあまり意味がないので、プロジェクト名と概要の列記のみにとどめたいと思います。デザインの視点から、こうした点と点をつなぐ取り組みが行われることが、いまの時代に求められる「デザインの価値」のひとつなのだと改めて感じさせられる展覧会です。

▼「地域×デザイン -まちを編みなおす20のプロジェクト-」出展プロジェクト

■じゃがいも焼酎北海道 清里/北海道清里焼酎醸造所
40年間作られ続けてきたじゃがいも焼酎のリブランディング。

じゃがいも焼酎北海道 清里/北海道清里焼酎醸造所

じゃがいも焼酎北海道 清里/北海道清里焼酎醸造所

■たんぽぽの家の取り組み/奈良県たんぽぽの家
地域に開かれた自立のための場として商品開発などをおこなう。

たんぽぽの家の取り組み/奈良県たんぽぽの家

たんぽぽの家の取り組み/奈良県たんぽぽの家

■マルアールの活動/山形県株式会社マルアール
山形の中心街の活性とリノベーションを核とした地域再生の取り組み。

■淡路はたらくカタチ研究所/兵庫県淡路地域雇用創造推進協議会
豊かな地域資産を活かす、島の企業への家業・生業サポート。

■松島流灯会 海の盆/宮城県松島流灯会 海の盆実行委員会
震災後に大規模な花火大会を中止し、地域の祭りを30年ぶりに復活。

■地域社会の未来をつくるプラットフォーム/山口県山口情報芸術センター
地に潜む文化資源のリサーチや子ども達の自由な創作活動支援。

地域社会の未来をつくるプラットフォーム/山口県山口情報芸術センター

地域社会の未来をつくるプラットフォーム/山口県山口情報芸術センター

■石巻工房/宮城県石巻工房
震災直後にデザイナーが中心となり設立された地域のものづくりの場。

■暮らしのロボット共創プロジェクト/徳島県株式会社たからのやま
高齢化した集落でITやロボットを活用したリサーチを展開。

■FUKUSHIMA Wheelプロジェクト/福島県Eyes,JAPAN
自転車に乗りながら放射線量を測る、ビッグデータ活用サービスを展開。

■ことばのちから/愛媛県松山市ことばのちから実行委員会
市街にことばのメッセージを展示し、市民の交流、活性化に貢献。

■川越市イーグルバス/埼玉県イーグルバス株式会社
大手バス会社が撤退した赤字路線を引き継ぎ、利用者を増やした工夫。

■「1616/aritajapan」から「2016/」へ/佐賀県佐賀県・有田
国際的に活躍するデザイナーが現代の有田焼を提案・挑戦する。

「1616/aritajapan」から「2016/」へ/佐賀県佐賀県・有田

「1616/aritajapan」から「2016/」へ/佐賀県佐賀県・有田

■OHYA UNDERGROUND/栃木県LLPチイキカチ計画
大谷石採石場跡地を地域の魅力として捉え、観光事業として展開。

■わいわいコンテナプロジェクト/佐賀県ワークヴィジョンズほか
市街の空き地を中古コンテナを使った店舗や交流の場に展開。

■403architecture[dajiba]と浜松の人々/静岡県403architecture[dajiba]
浜松の人と対話しながら小さなリノベーション、環境づくりをおこなう。

■0から6歳の伝統ブランド aeru/全国株式会社和える
職人の手仕事のよさを0~6歳児向けのギフトとした品質の教育。

0から6歳の伝統ブランド aeru/全国株式会社和える

0から6歳の伝統ブランド aeru/全国株式会社和える

■小布施若者会議/長野県小布施若者会議 実行委員会
年1回町内外の若者が集まり、地方と日本の未来を考え行動する場。

■日本食べる通信リーグ/全国一般社団法人日本食べる通信リーグ
世界初の“食べもの付き月刊誌”。取り組みが全国に拡がっている。

■燕三条 工場の祭典/新潟県燕三条工場の祭典実行委員会
金属加工の産地、燕三条地域の工場がものづくりの現場を開放する。

■FabLab Japan Network のものづくりネットワーク/全国FabLab Japan Network
デジタルからアナログまで多様な工作機械を備えた市民工房。

「地域×デザイン -まちを編みなおす20のプロジェクト-」
会場:東京ミッドタウン・デザインハブ
会期:2016年2月18日~3月6日
http://www.jidp.or.jp/lds2016/