テーマは「海か、山か、芸術か?」。豊かな自然に恵まれた、茨城県北地域の6市町の海と山を舞台にした国際アートフェスティバル「茨城県北芸術祭」が11月20日まで開催されている。茨城県北地域は独自の気候・風土や歴史、文化、食など、多くの創造的な地域資源を有しているほか、かつて岡倉天心や横山大観らが芸術創作活動の拠点としていた背景がある。こうした資源の持つ潜在的な魅力をアートの力を介して引き出すことにより、新たな価値の発見と地域の活性化を図るため、今年からスタートした。
テーマにもあるように、広大な土地にある作品は大きく海側、山側と分かれている。すべてを回るには2~3日必要だと思うが、今回は泣く泣く日帰り参加だったため、海側を中心としたバスツアーでみられる作品を紹介する。
日立駅

回廊の中で:この場所のための4つの虹 - KENPOKU ART 2016のために © DB-ADAGP Paris/ダニエル・ビュレン
日立市出身の建築家、妹島和世さんがデザインを監修したことでも知られる日立駅。芸術祭の玄関口でもあるこの駅で鑑賞できるのは、ダニエル・ビュレンさんによる「回廊の中で:この場所のための4つの虹 - KENPOKU ART 2016のために」。全長300メートルの虹色のカッティングシートがガラス張りの駅舎を覆いつくしている。天気や時間帯によって見え方が変わってくるのがおもしろい。写真を撮らずにはいられない作品。

回廊の中で:この場所のための4つの虹 - KENPOKU ART 2016のために © DB-ADAGP Paris/ダニエル・ビュレン
また、太平洋をのぞむ一面の海が見える窓のそばには村上史明さんの「風景幻灯機」という、望遠鏡型の作品が設置されている。望遠鏡をのぞくとそのままの風景が見えていると思いきや、少しすると現実にはありえない光景が現れてくる。

風景幻灯機/村上史明
御岩神社
188の神様が祭られており、一度参れば日本の神様すべてにお参りできると言われている御岩神社。境内には4つの社があり、国内有数のパワースポットとしての呼び声も高い。

御岩神社、入り口付近
杉林の間に展示されているのは、テキスタイルアーティストの森山茜さんによる「杜の蜃気楼」。約6千枚の薄いフィルムがきらきらと光を反射し、角度によって緑色に見えたり、うすピンク色に見えたりと表情を変える。清らかな空間と相まった美しい作品。

杜の蜃気楼/森山茜

杜の蜃気楼/森山茜

杜の蜃気楼/森山茜
もうひとつの作品は、社の1つである斎神社の天井にある「御岩山雲龍図」。この作品を手がけたのは、画家の岡村美紀さん。天井を見上げると、御岩山の上空を飛行する龍が、雲の間からこちらを見ている。雲龍図というと他の神社などにもあるが、この作品の特徴は視点が上空からということ。龍を真俯瞰で見下ろしているかのような絵だ。

御岩山雲龍図/岡村美紀
高戸海岸
高荻市にある高戸海岸。海を背景に砂浜に悠然と佇むのは、メインビジュアルにも使用されている、イリヤ&エミリア・カバコフの「落ちてきた空 1995/2016」。“落ちてきた”という表現通り、砂浜に突き刺さるように設置されており、写真のように天気がいい日は空からのちょっとしたお裾分けのように見える。

落ちてきた空 1995/2016/イリヤ&エミリア・カバコフ
もうひとつ海岸に展示されていたのは、海岸ではよく目にするテトラポッドをモチーフにした作品「テトラパッド」。イギリス在住のアーティスト、ニティパク・サムセンさんが、リサーチで訪れた県北地域でもっとも興味を持ったものがテトラポッドだったという。実際には存在しないようなカラフルな色使いが見ていて楽しい。

テトラパッド/ニティパク・サムセン
穂積家住宅
同じく高萩市にある江戸時代の豪農の邸宅、穂積家住宅には3作家の作品が展示されている。県指定文化財でもあるこの住宅は、江戸時代に描かれた屋敷絵図とほぼ同じ姿をとどめ、江戸時代中期の豪農住宅を知る上で貴重な文化遺産となっている。

穂積家住宅・外観
穂積家住宅の裏手の庭にあるのは、陶芸家の伊藤公象さんによる作品「pearl blueの襞 -空へ・ソラから-」。陶磁土の塊を薄くスライスし、即興的に曲げる手作業で作られた3000ピースの作品は圧巻。また、晴れの日は特にパールブルーの色が太陽光にあてられ、きらきらと光って美しい。一つひとつ形のちがう作品は動き出しそうな気配もある。

pearl blueの襞 -空へ・ソラから-/伊藤公象
農機具が収納されている農具倉庫では、アメリカ在住のアーティスト、デビー・ハンさんによるインスタレーションが展示されている。アルミニウムの細い紐で作られた網状の作品に近づいてよく見ると、それらがさまざまな表情をした人間の顔であることがわかる。笑いや驚き、悲しみなど、人間の“生”の感情を世の中の人と共有したいという気持ちがこめられた作品。

ウェブ・オブ・ライフ/デビー・ハン

ウェブ・オブ・ライフ/デビー・ハン
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