大阪を拠点に活動する、柳原照弘さん(teruhiro yanagihara代表)、家成俊勝さん(dot architects共同主宰)、原田祐馬さん(UMA/design farm代表)、多田智美さん(MUESUM代表)、水野大二郎さん(慶應義塾大学 SFC准教授)の5名の実行委員が中心となり「デザインする状況をデザインする」ことを目的に、2009年に始動したプロジェクト「DESIGNEAST」が9月17日から9月19日までの3日間にわたって開催された。会場は大阪・住之江区の名村造船所跡地/クリエイティブセンター大阪。
「DESIGNEAST」ってなに?という方にかんたんに概要を説明すると、国内外の建築家、デザイナー、編集者など、ジャンルを横断したゲストによるトークが中心となり、ワークショップ、エキシビジョン、映画上映、マルシェなどが渾然一体となったイベントだ。
各日のラインナップみると、その“渾然一体”の一端が理解できると思う(敬称略)。
■9月17日(土)
<TALK>
MariaLisogorskaya(Assemble)ファシリテーター:家成俊勝/水野大二郎
<SPEAKERCORNER>
赤井佑輔(paragram)+三重野龍+仲村健太郎、庄子渉+森純平+藤末萌(PARADISEAIR)、スージー区長withWeComPass、田頭章徳、原田陽子(流しの洋裁人)+北原一輝(itocaciオーナー)、水野木村田所谷村加藤、金田康孝(NPO法人Co.to.hana)+柴田英昭(淀川テクニック)、浅子佳英+安藤僚子(インテリアツアー)、金氏徹平、伊藤智寿(株式会社いとうともひさ)+加藤正基+安川雄基(アトリエカフエ)、千年村プロジェクト関西(菊池暁+田熊隆樹ほか)、橋詰宗
■9月18日(日)
<TALK>
開沼博(立命館大学准教授)+曽我部昌史(みかんぐみ)+藤村龍至(RFA)ファシリテーター:家成俊勝
石川初(慶応義塾大学教授)ファシリテーター:RAD/水野大二郎
<SPEAKERCORNER>
川勝真一、榊原充大(RAD)+山道拓人(ツバメアーキテクツ)+連勇太朗(モクチン企画)+彌田徹、辻琢磨、橋本健史(403architecture(dajiba))、六原まちづくり委員会+ぽむ企画+井上えり子+杉崎和久、服部滋樹(graf)、兼松佳宏、尾内志帆+阿部純+清水友理子、前田茂樹(ジオグラフィック・デザイン・ラボ)、山内庸資、酒井義夫(ろくろ舎)
■9月19日(祝)
<TALK>
港千尋(写真家・著述家)+ドミニク・チェン((株)ディヴィデュアル共同創業取締役、NPOコモンスフィア理事)ファシリテーター:多田智美/原田祐馬
<SPEAKERCORNER>
五十嵐勝大+田沼英治(proef/Knittingbird)、岸野雄一、澤邊芳明(1→10)+松倉早星(ovaqeinc.)、奥津爾(オーガニックベース/種市)、立道嶺央(POMPONCAKES)、山下陽光+下道基行+影山裕樹(新しい骨董)、白鳥浩子、高原文江+津田和俊(YCAMバイオ・リサーチ)
これまで「DESIGNEAST」は、「social sustainability」「周縁と中心」「状況との対話」「場への愛」といったテーマを毎年設定し、多様化するデザインをめぐる状況と向き合いながら、「DESIGNEAST」自体も変化を続けてきた。
2014年からは、全国4ヶ所を移動した「CAMP(2014)」や、山口と大阪を行き来した「XO(2015)」のように、拠点型から移動・往来型のプロジェクトへと更新。全国各地の共同企画者とともに、地域のフィールドワークや食のリサーチなど、さまざまな試みを行ってきた。そして、2016年は勝手知ったる名村造船所跡地/クリエイティブセンター大阪に舞台を再び戻し、掲げたテーマは「MOBILITIES=移動」。
「MOBILITIES=移動」と聞いて浮かんだのが、モノと情報の移動のスピード。世界中のあらゆる情報をリアルタイムで知ることができるようになり、オンラインで今日買ったものは明日には受け取ることができるようになった。良くも悪くも移動の意識のスピードが飛躍的に上がり、移動そのものの価値も変容したように思う。移動を前提とした社会はデザインをどのように変えていくのか?また、逆に「移動する」デザインは、社会をどのように変えていくのか?この2年間、日本各地で議論し実践、そして移動してきたことを糧に、テーマ「MOBILITIES=移動」について、大阪で改めて考える機会となった。
実行委員推薦によるゲストと公募ゲストが登壇する来場者参加型トークは、名村造船所跡地/クリエイティブセンター大阪の3階で全4ブース同時に開催。隣のブースでなにが話されているのかなんとなく把握でき、興味の対象が変われば、ゆるやかに会場を移動できるようになっている。全体像を把握するのは正直言って不可能で、気になるキワードからヒントの種のようなものを持ち帰る、つまり思考が移動する、と解釈できる。それが「デザインする状況をデザインする」…ということなのかも?と思った。
そうした観念的な話はいったんさて置いて、たくさんの建築家、デザイナー、編集者をはじめ、さまざまな分野で活動する人々が集まって、3日間にもわたってひとつのテーマについて話される「場」が立ち上がることそのものの意味は大きい。おそらく日本最長とも思わしきバーカウンターもあるので、ビール片手にちょっとしたディスカッションがはじまりやすいのも良いところだ。
また、スタディスト・岸野雄一さんとの共同企画で、会場のあちこちにかえるさん(細馬宏通)や柴田聡子さんなど、流しのミュージシャンが現れ、音の流通=移動を実践していく。
実行委員のひとりである、多田智美さんがおもしろいことを言っていたのが印象に残る。
「名村造船所は巨大な空間で、DESIGNEAST初日の午前中は、いつもサイズの合わないブカブカの服を着ているような気持ちになる。でも3日間を通して、ゲストやスタッフ、来場者それぞれがそれぞれの楽しみ方を見出していくことで、どんどん熱量が上がっていき、気がつけば、やっぱりこのサイズがぴったりだったんだなと思う」
今回初めて訪れて感じたのは雰囲気の良さ、名村造船所跡地/クリエイティブセンター大阪という特殊なロケーションと、多少のお酒の力も手伝っているとは思うが、それはあたたかさと言い換えても良いかも知れない。1年に1回のここでの時間を楽しみにしている人が多いことを改めて感じた。スタート時から10回限りと決めてスタートしたDESIGNEAST、残り2回はできる限り参加したいし、ここでの得たヒントや人脈が別のカタチで萌芽することも期待したい。
瀬尾陽(JDN編集部)
DESIGNEAST07 MOBILITIES
http://www.designeast.jp/