「性を表通りに」。レッド・ドット・デザイン賞を受賞したTENGAが目指すもの

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「性を表通りに」。レッド・ドット・デザイン賞を受賞したTENGAが目指すもの

世界三大デザイン賞の一つであるレッド・ドット・デザイン賞。同賞のプロダクトデザイン部門で、セクシャルアイテムを展開する株式会社TENGA(以下、TENGA)の男性向けセルフプレジャーアイテム「TENGA GEO(ジオ)」が、最も優れたデザインに贈られる「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞した。

美しい球体のフォルム、緻密な計算により生まれた複雑な形状が特徴で、プレジャーアイテムの同賞受賞は史上初となる。過去にはマツダの自動車やソニーの8K液晶テレビ、パナソニックの一眼カメラなど各種プロダクトが受賞している。

「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンを掲げ、セクシャルアイテムの開発のみならず、医療や福祉に特化したグループ会社を展開。LGBT関連活動のサポートや、中高生の性の悩みに寄り添ったWebメディアの発信など、幅広い展開を行うTENGA。同社のプロダクトデザイナーであり、TENGA GEOの開発者である高堀恭平さんに、制作過程での試行錯誤や受賞の感想、今後のビジョンなどを伺った。

機能をいちばんに考えた製品づくり

――高堀さんの簡単な経歴と、TENGAに入社されたきっかけを教えてください。

学生時代は、多摩美術大学でプロダクトデザインを学んでいました。卒業後はメーカーでプラスチック製品のデザインに5年間携わり、2017年に転職してTENGAに入社しました。大学を卒業したのは2012年ですが、就職活動の年にちょうど東日本大震災が起きて、企業説明会などがほぼ中止になってしまって。

そのため、転職活動ではとにかくいろいろな業界の話を聞きたいと思っていたなかでTENGAに出会ったんです。社長がものづくりに力を入れている姿勢がとても伝わってきて、自社で製品の提案から製造まで関われるのが大きな魅力でした。さらにオフィスの延長かと思うほど、きれいでハイテクな開発環境も整っていたことも大きいです。

高堀恭平

高堀恭平 株式会社TENGA 開発本部 プロダクトデザイナー

――TENGAといってもさまざまな製品がありますが、高堀さんの所属する開発本部ですべてのデザインを手がけているのですか?

女性向けブランドの「iroha(イロハ)」などは独自の事業部もありますが、企画やデザインは私たちの部署で担当します。開発本部のプロダクトデザイナーが現在11人いまして、男性は男性向け、女性は女性向け製品を基本的に担当しています。セクシャルアイテムでいうと170種類以上の製品を展開していますが、年に2〜3アイテムは新製品の開発を行っています。既存製品のマイナーチェンジなども含めると、月にだいたい1アイテム出すペースですね。

iroha

女性向けブランド「iroha」の製品。和菓子のような見た目の製品が並ぶ。

――なかなかハードですね。製品づくりはどのように進んでいくのですか?

お客様にとっては機能が重要なため、サンプルでいろいろな形をつくってみて、どんな使用感がいいのか、まずは社内レビューをとることから始めます。そのなかで人気のあるものが出てくるので、使用感を追求しながら造形美も仕上げていきます。あくまでも機能が大前提なので、試作は何度も繰り返し行いますね。その上で、厳しい社内テストをクリアしたものだけが商品化されることになります。

これまでに高堀さんが手がけた製品。左から「TENGA AERO」、「FLIP ORB」

プロダクトとして「デザインだけじゃないか」と言われてしまうのは失敗なので、まずは機能面をいちばんに考えて、その範囲内で外観を最大限に活かすことを心がけています。なので、デザインを優先して機能をおろそかにすることはありません。

“柔らかさ”を軸に置いたチャレンジングな試み

――高堀さんが手がけられた「TENGA GEO」(以下、GEO)がレッド・ドット・デザイン賞のベスト・オブ・ザ・ベストを受賞しましたが、製品のコンセプトを教えてください。

弊社の従来の製品は、例えば動くものであったり、さまざまなギミックが入っているものが多いのですが、使うときにどうしても硬い印象を与えてしまいます。だから今回のGEOは、“柔らかさ”というのがテーマとしてありました。そこにデザイン的な挑戦として、エラストマーという素材のみを使って、うちでしかできないものをつくろうということでスタートしました。

TENGA GEO

レッド・ドット・デザイン賞のベスト・オブ・ザ・ベストを受賞した「TENGA GEO」

――実物は本当に柔らかくてびっくりしたんですが、エラストマーというのは?

弊社で使用しているような、柔らかい素材全般のことを一般的にエラストマーと呼びます。粉末と油を混ぜ込むのですが、配合比率を変えることで製品ごとに柔らかさや固さをコントロールしたり、混ぜるものを変えてグレードを上げることもできます。それを熱してドロドロにしたものを型に入れて成形しています。

――なるほど。御社の男性向け製品はこれまでホール状のものが多かったと思いますが、球体にはどんな意図があったのでしょうか?

単純に肉厚な方が柔らかさを強調できるので球体にしました。最初は卵形なども考えたのですが、それなら球体の方が可愛さも出せると思ったんです。でも肉厚にするのって、意外と難しいんですよね。エラストマーは、中に気泡が入ってしまう不良が起きやすいことと、全体として形が縮まって崩れてしまう恐れもあって、これまでなかなかチャレンジしにくい形状でした。

TENGA GEOを裏返した様子。エラストマーという柔らかい素材でつくられている。

ただ、弊社として長年製品づくりをしてきたなかで、どうすれば解決できるかという知見もだいぶ貯まってきていました。そこで試作品をつくったところ、今までにない使用感で良いという感想を得られたので、本格的に商品化することにしたんです。

シンプルとは真逆。あえて複雑さを求めるがゆえの試行錯誤

――GEOはサンゴや多肉植物のようにも見えますが、有機物からインスピレーションを得たのでしょうか?

イメージとしてはもちろんあります。3タイプそれぞれの名称が「コーラル」「アクア」「グレイシャー(氷河)」ですが、海外でも伝わる名前ということで最終的にこのネーミングになりました。

一般のプロダクトだとスマートでスッキリしたデザインが根強い人気ですが、TENGAの製品は使用感が重要なので、複雑な形状のある部分をどうしてもつくる必要があります。その細かい形状をどう意匠に組み込むかを考えたときに、参考になるのが自然物でした。あとは、手毬の模様ですね。毬は球体をきれいに分割しているので、こんな分割があるんだと勉強にもなりました。

――確かに、どちらかというと削ぎ落としてくデザインが多いなかで、あえて複雑にする必要性というのはなかなか聞かないですね。

前職では普通の雑貨を手がけていたので、ここに来たときはデータのつくり方もかなり特殊でとまどいました。もちろんシンプルはシンプルで難しいのですが、複雑なものは要素が多いぶん手直しもひと苦労で、まさに修行でしたね(苦笑)。

――制作する際は、最初にスケッチから行うのでしょうか?

普段はスケッチから行うことが多いですが、GEOの場合は絵で描いても伝わらないと思ったので、最初からパソコン上で3Dデータ化して、何十パターンも表現しました。そのうち光造形品の立体物として形にしたのは最終的に10種類ほどですが、試作品として試した数は膨大な量になります。

TENGA GEOの3Dのテストパターン

――なかなか難しい素材にチャレンジされたと思うのですが、改めて最も苦労された点は?

商品化に関して気にしなければならなかった点が3つあって、1つ目は機能です。2つ目はTENGAブランドとして恥ずかしくないものをつくる。そして3つ目が、工場でもきちんと成形して量産できるようにするという点です。素材の特性上、苦労したのはやはり3つ目ですね。GEOは企画から含めて制作に1年ほどかかりましたが、なかなか世の中に手本となるものがないので、トライアンドエラーを繰り返しながらの日々でした。

エラストマー自体クセの強い素材で、今日つくったものが明日同じ形状でつくれるかわからないほど気まぐれなんです。金型をつくるのにも高度な技術が必要で、パズルのように複雑な形状をたくさんつぎはぎしてつくっています。金型から無理に引き抜くとちぎれたり端の方まで形が出なかったりするので、そうしたことを解消するために、テーパーはどのくらいつければいいのか、どの程度の高さならきれいに形が出るのかなど、一面一面本当に細かく検証していきました。最初は金型屋さんにも無理だと言われてしまったのですが、なんとかトライしていただき本当に感謝しています。

――まさに今回は挑戦づくしだったんですね。

そうですね。挑戦するってお金も必要ですし、場合によっては失敗することもあるので、そこに対して会社が常に前向きでいてくれるのはとてもありがたいです。ただ、当然ながらものづくりは一人ではできません。コロナ禍のリモートワークが増えたことで改めて痛感したのですが、自分が普段いかに多くの人と密に連携し、支えられていたかを実感しました。

誰もが性を豊かに楽しめる世の中に

――御社の製品は過去にも数回レッド・ドット・デザイン賞を受賞していて、今回GEOが受賞したのはそのなかでも最優秀賞ですが、高堀さんなりにどんな点が評価されたと思いますか?

やはり、プロダクトでこういったデザインのものは珍しいことと、この形状をつくる難しさ、そこにチャレンジした姿勢を評価していただけたのかなと思います。かつ機能もしっかりと満たしていて、商品化もしている。そのトータルのバランスでしょうか。私自身学生の頃から見知っていた商品で、賞をいただくことが一つの目標でもあったので、率直に嬉しいです。また、性に関するアイテムとして初のベスト・オブ・ザ・ベストを弊社が獲ることができたのは素晴らしいことですし、自分がそこに貢献できたこともありがたいですね。

――最近では海外の女優がプレジャートイブランドの共同経営に参入するなど、御社が掲げる「性を表通りに」といったところの機運が高まってきている印象も受けます。高堀さんが考えるプレジャーアイテムに必要とされるデザインとは?

一つの製品に対して、お客様のことを考えて努力するという点ではほかのアイテムと何も変わりません。弊社ではプレジャーアイテムだけなく、セクシャルウェルネス全般に関する製品を扱っています。性に関するものって日本ではまだまだ目を背けられがちですが、だからといって粗悪なものや適当でいいはずがないし、家電や雑貨をデザインするのと変わらないスタンスで提供していく。「TENGAの製品なら安心だね」と思っていただけるように、手を抜かず製品づくりに取り組むことが大事だと考えています。

ちなみに弊社の製品には、使い切りのものとGEOのように繰り返し使えるものがありますが、繰り返し使えるものはすべて洗うことができ、乾かすためのスタンドや専用の収納ケースも付いています。安全で衛生的といった点でも、消費者目線のデザインを心がけています。

――デザインする上で、高堀さんが大切にされていることはありますか?

例えば夏の夕暮れや山頂から見る景色など、人が普遍的にいいと感じる光景や情緒ってありますよね。製品を見たときに、そうした感情をふと思い起こさせるような、お客様の心にスッと響くものをプロダクトでも表現できればと思っています。商業デザイン上ではなかなか難しい部分もありますが、自分の中にあるテーマですね。

――今後高堀さんがTENGAのデザイナーとして挑戦されたいことや、実現したいことはありますか?

「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というTENGAのビジョンには、国籍や性別、年齢に関係なく、安心して性に関する悩みを相談できたり、自分なりの楽しみ方ができる環境をつくっていこうというメッセージが込められていて、私自身入社時にとても感銘を受けました。今は、間違った情報がネット上に転がっていることも多いです。そのようななかで、お客様にTENGAの社名やブランドにもっと親しみや安心感をもっていただきたいですし、TENGAで働くこと自体がキャッチーというか、まわりに反対されずにいられる世の中になればいいなと思っています。

TENGAのLGBTに関する活動のひとつとして、2017年から4年にわたり収益の⼀部をセクシュアル・マイノリティ関連活動へのサポートとして寄付する「TENGA RAINBOW PRIDE CUP」を発売。2021年からはより活動を活性化させるべく、会社全体の売上の⼀部を寄付し、より積極的な取り組みを行っている。

そういった意味では、私は入社以来セルフプレジャーアイテムのみを担当してきましたが、弊社が手がけるセクシャルウェルネス以外の側面からも、お客様にアプローチできればいいですね。TENGAの知見があるからこそできるセクシャル以外のアイテムがあると思うので、デザイナーとしての立場と視点から、今後はそうした提案も行っていければと思っています。

文:開洋美 写真:中川良輔 取材・編集:石田織座(JDN)

株式会社TENGA
https://tenga-group.com/
TENGA GEO
https://www.tenga.co.jp/products/reusable/geo/