“らしさ”を集めてカタチに。空間デザイナー・吉里謙一の共創を生むオフィスデザイン(1)

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“らしさ”を集めてカタチに。空間デザイナー・吉里謙一の共創を生むオフィスデザイン(1)
鉄道高架下利用の先駆けである東京・御徒町の「2k540」をはじめ、多くのプロジェクトを手がけてきた株式会社cmyk代表の吉里謙一さん。そんな吉里さんが新たに挑んだのが、想いをカタチにする施工の技術者集団・株式会社丹青TDCの新オフィスです。

株式会社丹青TDCオフィスエントランス

新オフィスは2025年2月に芝浦から上野に移転。社員参加のワークショップで「丹青TDCらしさ」を導き出し、関わる人々との「共創」を生む工夫が凝らされた空間はどのようにつくられたのでしょうか。吉里さん、そして丹青TDCの庭野明廣さん、大石奈菜さんにお話をうかがいました。

芝浦から上野へ。丹青TDCの移転プロジェクト

――はじめに、吉里さんがこれまでどのようなお仕事をされてきたのか教えていただけますか?

吉里謙一さん(以下、吉里):私は大学卒業後、丹青社にデザイナーとして入社し、その後独立して今年で19年目になります。これまで1,000件を超えるプロジェクトに関わり、駅や施設などの商環境を中心に、物販、レストラン、ホテル、オフィスなど、多岐にわたる領域に携わってきました。

また、大学時代にインテリアデザインを専攻して家具製作をしていたので、一分の一で物事を考える癖がついているんです。そうした物事の考え方や、木などの素材への理解が仕事をするうえで強みとなって、いろいろなプロジェクトに携われています。

吉里謙一 空間デザイナー/株式会社cmyk代表/吉里事務所株式会社代表。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科にてインテリアデザインを修学し、株式会社丹青社入社。2007年に独立し、株式会社cmykを設立。新幹線再生アルミを日本ではじめて活用した「東京ギフトパレット」でグッドデザイン賞、日本の魅力を浅草に集めた「まるごとにっぽん」で日本空間デザイン賞銀賞など、国内外多数のアワードを受賞。デザインの領域は、駅や施設などの商環境を中心に、物販・飲食・ショールーム・オフィス・ホテル・旅館・住空間の設計からプロダクトまで多岐にわたり、独立後から現在まで国内外合わせ1,000件を越えるプロジェクトを手がける。著書「にぎわいのデザイン 空間デザイナーの仕事と醍醐味」出版

吉里謙一 空間デザイナー/株式会社cmyk代表/吉里事務所株式会社代表。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科にてインテリアデザインを修学し、株式会社丹青社入社。2007年に独立し、株式会社cmykを設立。新幹線再生アルミを日本ではじめて活用した「東京ギフトパレット」でグッドデザイン賞、日本の魅力を浅草に集めた「まるごとにっぽん」で日本空間デザイン賞銀賞など、国内外多数のアワードを受賞。デザインの領域は、駅や施設などの商環境を中心に、物販・飲食・ショールーム・オフィス・ホテル・旅館・住空間の設計からプロダクトまで多岐にわたり、独立後から現在まで国内外合わせ1,000件を越えるプロジェクトを手がける。著書「にぎわいのデザイン 空間デザイナーの仕事と醍醐味」出版

――庭野さん、丹青TDCとはどのような会社なのかあらためて教えてください。

庭野明廣さん(以下、庭野):丹青TDCは、丹青社グループの技術者集団としてさまざまな空間の施工に携わってきました。ジャンルも幅広く、初期には百貨店、それから飲食店、アパレル、いまはオフィスなども多く手がけています。

私個人は内装系の専門学校を出て丹青TDCに入社し、かれこれ30年近く内装や施工に携わっています。新オフィスの施工も初期から担当しました。

庭野明廣 株式会社丹青TDC 制作統括部 制作2部 部長。1995年4月に入社、2002年頃~2011年頃まで株式会社丹青社にて直受注工事を約10年経験、現在は制作統括部にておもにオフィスや、商業施設全般を担当

庭野明廣 株式会社丹青TDC 制作統括部 制作2部 部長。1995年4月に入社、2002年頃~2011年頃まで直受注工事を約10年経験、現在は制作統括部にておもにオフィスや、商業施設全般を担当

大石奈菜さん(以下、大石):私はもともとは制作職として、庭野の下で施工管理をしていました。そこで飲食店やオフィスなどの現場を経験し、この新オフィスにも携わりました。現在は事業開発室で、新卒採用を担当しています。

大石奈菜 株式会社丹青TDC 事業開発室 主任。2019年4月に入社、制作統括部にて制作職を経験、現在は事業開発室にて、新卒採用を担当している

大石奈菜 株式会社丹青TDC 事業開発室 主任。2019年4月に入社、制作統括部にて制作職を経験、現在は事業開発室にて、新卒採用を担当している

――吉里さんは丹青TDCという会社にどのようなイメージを持っていましたか?

吉里:丹青社時代で思い出深いのが、入社して新人研修の一環として配属された現場で、丹青TDCの方に空間づくりのイロハを教えてもらったことです。丹青TDCといえば「知識が豊富で、現場に対して責任を持って細かなところまで確実に納める」という印象を持つようになりました。その頃のオフィスは1階にあり、わりと自由に出入りができたので、何かあればそこにいる人に聞ける雰囲気がありました。

庭野:芝浦の前の、上野のオフィスのことですね。以前、丹青社の本社が上野にあったとき、そのすぐ裏に丹青TDCのオフィスがあったんです。

吉里:上野の頃のイメージが強かったので、10数年ぶりくらいに芝浦のオフィスを訪ねたときはすごく静かで驚きました。

庭野:そういうところも今回、移転した理由のひとつだと思います。芝浦のオフィスは、田町駅から歩いて20分以上という立地もあって、グループ会社や協力会社の人が訪れることが少なくなりました。

「丹青TDCらしさ」を言語化して、空間づくりに反映

――新オフィスの概要を教えてください。

庭野:新しいオフィスは、浅草通りに面したビルの2階を新装しました。執務エリア、共創エリア、会議室などからなり、フリーアドレスを導入し、丹青社のサテライトオフィスも備えるなど、社内外のコミュニケーションが活発化する仕組みを取り入れています。

オフィスの図面

――オフィスづくりは、どのようにスタートしたのですか?

庭野:オフィス移転にあたっては、「丹青TDCらしい新オフィス」をつくるために、まずは社員一人ひとりが「丹青TDCらしさとは何か」を考えよう、ということになりました。

そこで2024年春頃から、全社アンケートやワークショップをおこない、ヒアリングを重ねていきました。そこからブランドコンセプト「一途に生み出す。」が生まれ、社員の声を集めながらプロジェクトを進めていきました。

ワークショップの様子

ワークショップの様子

大石:ワークショップでは、「社内にバーをつくろう」や、「立ってオフィスワークができるようにしたい」といった意見も出ました。

庭野:「ゴルフの打ちっ放しがしたい」という意見もありました(笑)。もともと丹青TDCは技術者集団で、自分の意見を言うのが苦手なところがあったんです。でも、そういう意見が出はじめると、「私はこんなことしたい」や「こういうことにいま、困ってる」など、いろんな意見が出るようになりました。ワークショップを通して、外に発信する力もついてきたように思います。

大石:結果として、「こういうオフィスだったら行きたい」という意見の多くは、実現できたように思います。

――吉里さんにオファーがあったのはいつ頃だったんですか?

吉里:2023年12月末です。通常は依頼をもらってすぐに設計のスタートを切りますが、今回は半年くらい、この「言語化する」というプロセスを設計作業の前に挟むことになりました。それはあまり経験のないケースだったので新鮮でした。

庭野:吉里さんから「“丹青TDCらしさ”って何?」と言われて、それを根底に置いてオフィス空間をデザインした方がいいのではないかという話になり、ワークショップをすることになったんです。

吉里:ワークショップには私も参加して、みなさんの意見をひと通り聞き、空間のヒントになるものがないかと単語を拾っていきました。その中から取捨選択し、ブランドコンセプト「一途に生み出す。」の“一途”を「骨太な空間をつくる」と解釈し、空間づくりをしていきました。

吉里さんが拾い集めた言葉

吉里さんが拾い集めた言葉

吉里:具体的には、空間の中に主要な軸を決めて、その軸に沿ってボリュームを決めていこうと思ったんです。共創エリアや執務エリアといったゾーニングについても、たくさんデザイン案をつくり、みなさんとキャッチボールしながら空間をつくっていきました。

施主がつくりたいものをカタチにするために

庭野:このくらいの規模の会社で、施主が施工もして自分たちのオフィスをつくるという事例はほぼないと思います。僕も最初は、ほかの会社に施工をやってもらいたかったんですが、なかなかやってくれるところがなくて。

というのも、施主が施工会社だとチェックがとても細かいので、「怖くてつくれない」と言われてしまうんです。それで最終的に、自分たちでやろうという流れになりました。吉里さんも、施工屋が施主で苦労されたんじゃないですか?

吉里:まあ、そうですね(笑)。デザイナーは毎回プレゼンテーションをして、施主の同意を得てプロジェクトを進めないといけません。でもこのプロジェクトの施主は施工のプロフェッショナルで、デザインを中心に考える担当者がいるわけではないので、なかなか同意が得にくい、ということはありました。

庭野:たしかに、自分の会社だから「いいものにしたい」という気持ちはあるんですけど、つい施工者の目線で見てしまうんですよね。

吉里:でも今回はそこを、大石さんにサポートしてもらって助けられました。大石さんはデザイン的な視点で、話を聞いてくれてくれました。

大石:ありがとうございます。ただ、私は本当に、「こういう風になったらいいな」という自分の素直な好みをお伝えしていただけなんですけどね。あとは、みなさんのサポートになればという思いで関わりました。

新オフィスのエントランス

新オフィスのエントランス

庭野:僕も、このプロジェクトはとても勉強になりました。弊社は近年、下請けの施工が中心でしたが、これからは丹青社以外の仕事を自分たちが元請けとして主導し、施主や設計者とともに手がける「直受」を積極的に進めていこうとしています。

なので、施主としてこのプロジェクトに関わったことで、施主がつくりたいもの、設計者がデザインしたいものをどう施工としてカタチにしていくかを、あらためて勉強させてもらったように思います。

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