恩師の言葉をもとに桑沢生の3年間の集大成を“山”に見立てた「卒展ポスター2019」

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恩師の言葉をもとに桑沢生の3年間の集大成を“山”に見立てた「卒展ポスター2019」
女性誌やWebサイト、広告と幅広い分野でイラストを手がけている、イラストレーターの柿崎サラさん。2013年に桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン専攻を卒業した彼女は、在学中はデザインの力を磨きながらも、今の仕事につながる才能の片鱗を見せていました。今年、ずっとやりたかったという念願の卒展ポスターを担当された柿崎さん。そのポスター制作の裏側や在学中の卒業制作の思い出などを、当時の担任だった辻原賢一先生とともに振り返っていただきました。

未知の力を秘めてデザインを学んだ学生時代

――在学中はビジュアルデザイン専攻で辻原先生のクラスだったそうですね。

柿崎サラさん(以下、柿崎):はい。2年次のビジュアルデザイン専攻からお世話になりました。卒業後は広告制作会社でグラフィックデザイナーとして勤務し、その後、今のイラストの仕事をするようになりました。

柿崎サラ<br /> 2013年桑沢デザイン研究所卒業。広告制作会社のデザイナーを経て、イラストレーターに。2014年「LUMINE meets ART AWARD」エレベーター部門、ルミネ賞・オーディエンス賞を受賞。

柿崎サラ
2013年桑沢デザイン研究所卒業。広告制作会社のデザイナーを経て、イラストレーターに。2014年「LUMINE meets ART AWARD」エレベーター部門、ルミネ賞・オーディエンス賞を受賞。

――そもそも桑沢デザイン研究所(以下、桑沢)に入学されたきっかけは何ですか?

柿崎:母が桑沢の夜間の卒業生なので、卒業生作品展(以下、卒展)のDMが毎年届くんです。それで中学3年生の頃に興味本位で見に行ったら作品の迫力に圧倒されてしまって。それ以降は常に受験候補に入っていました。実際に入学したあとは3年間で全部できるのかと思うほどの内容でしたが、どの科目も好きでしたね。イラストもよく描いていましたが、目標はあくまでグラフィックデザイナーだったので、当時は素材をつくる手段の一つでした。

辻原賢一さん(以下、辻原):柿崎さんは課題などを誰かとワイワイやるというより、一人で黙々と進める印象でしたね。でも優秀で非常に上手でした。僕が初めて彼女のイラストを見たのは文化祭で彼女が展示していた絵本で、本人と知らずにうまい作品だと感心していたんです。外国人が描いたのかと思うような日本人離れしたタッチだったので、彼女にこんな才能があるのかと驚いてすごく褒めたことを覚えています。

――卒業制作ではどんな作品を?

柿崎:大判の絵本です。もうボロボロですが、思い返すと今のタッチはこの作品で始めたんですよ。

柿崎さんが卒制でつくった絵本。模様のような独特のタッチで描かれたフクロウたち

柿崎さんが卒制でつくった絵本の1ページ。模様のような独特のタッチで描かれたフクロウたち。

――テーマは何だったのですか?

柿崎:絵を描く云々ではなく、できるだけ大きな世界をつくりたかったんです。物理的には無理なので、文字や本の仕様まで世界の一部にしてみたらどうかと。文字を斜めに配置したり、いろんな色のブルーのしおりを複数つけて雨に見える細工を加えたりしています。

辻原:卒展では、長机に製本した本の見開きと原画を並べて展示したよね。

柿崎:はい。でもアイデア出しに時間がかかってしまい、制作期間が残り1カ月半ぐらいしかなくて大変でした(苦笑)。

柿崎さんが卒制でつくった絵本の1ページ。鮮やかな色使いが印象的

柿崎さんが卒制でつくった絵本の1ページ。鮮やかな色使いが印象的です。

――先生からは何か助言されましたか?

辻原:学生個々の癖や考え方は授業をしている中で見えてくるので、普段からそれが出せているかを判断して助言しています。彼女はすでに個性が確立されていたので、のびのびやってもらえればと。ただ普通の絵本だと小さいので、タッチがよく見えるよう大きなサイズにした方がいいんじゃない?とは伝えました。

柿崎:最初はレジャーシートサイズを考えましたが、さすがに無理でした(笑)。

辻原:あと、きれいさよりは荒削りでも学生時代の痕跡や自分らしさが出るほうがいいので、そこはきちんと話していましたね。実は先日、「卒展で柿崎さんの絵本を見て桑沢に入学を決めたんです」という1年生に会ったんです。実際に学生を引っ張ってくる力があるんですからすごいですよ。

柿崎:当日は朝まで製本していて大変でしたが、そんな新入生がいたなんて嬉しいです!

恩師の助言を活かした卒展ポスターと、卒業生作品展

今回の卒展では、都内各所や学校内で貼られるポスターとフライヤーのデザインを担当された柿崎さん。デザインするにあたってポイントとなった点もお聞きしました。

柿崎:卒展ポスターは担当してみたいとずっと思っていたので、依頼された時は嬉しかったです。実際、桑沢の卒展ポスターは担当したい人が多いと思います。過去のポスターを見ると蓄光や変形、箔押しなど印刷も何もかも自由で、学生時代の私からしたらうらやましい限りだと思います。あとはやはり母校のポスターというのは感慨深いです。

桑沢2019 平成30年度卒業生作品展 ポスター

桑沢2019 平成30年度卒業生作品展 ポスター

――依頼時に提示されたテーマなどはありましたか。

辻原:7月にあった彼女の個展「WANDERLUST」のテーマが「山」でした。それを見て、学生の在学中が山登りだとすると、卒展でよい作品がつくれたら登頂成功という捉え方もできるな、と。まさにこれじゃないかということで「山」をモチーフにお願いしました。

写真手前にあるのは、柿崎さんの個展「WANDERLUST」のDM

写真手前にあるのは、柿崎さんの個展「WANDERLUST」のDM。

柿崎:ご依頼をいただいた時、先生から昔教えていただいた、『「やりたい」を「夢」とか「希望」と呼ぶ人もいると思う。』という糸井重里さんが「ほぼ日」で連載しているコラムの一文をふと思い出したんです。そこで個人的にサブテーマにして、自分なりに取り入れてみました。

ちょうど「LUMINE meets ART AWARD」で賞を取り、個展のお誘いやお仕事をいただくようになった頃、イラストと会社の両立について相談したらそのコラムを送ってくださったんです。個人的にも共感できたし、学生にとっても響く言葉だったので今回の卒展ポスターにも取り入れたいと思いました。

辻原:彼女が広告会社に勤め始めた時、僕は「本音は違うんじゃないの?」と思ったんです。最初から作家は厳しいし、仕事を一通りを知るには広告会社もいいかもしれないけど、あんなすごいイラストを描くのになと勝手にモヤモヤしちゃって(苦笑)。だから数年してその力に気づいてくれたと思うと嬉しくて、それで送ったコラムだったんです。

辻原賢一<br />武蔵野美術大学専攻科修了。武蔵野美術大学グラフィック専攻研究室助手を経て、C.Cレマン・チーフデザイナーに就任HONDA、JR、ANAなどの広告デザインを手がける。コンテンポラリー・アート展奨励賞、毎日広告デザイン賞奨励賞など受賞多数。

辻原賢一
武蔵野美術大学専攻科修了。武蔵野美術大学グラフィック専攻研究室助手を経て、C.Cレマン・チーフデザイナーに就任HONDA、JR、ANAなどの広告デザインを手がける。コンテンポラリー・アート展奨励賞、毎日広告デザイン賞奨励賞など多数受賞。

――それは嬉しいアドバイスですね。ほかに制作する上で意識することはありますか?

柿崎:ワクワクするものにすること、でしょうか。また、今回のようにテーマが自由な時や個展など自分でテーマを決める時は、先ほどお話したサブテーマに沿ってストーリーをつくるんです。例えば今回は、卒業を迎える3年生は「桑沢2019」という山を登りますが、登った先にはまだまだ大きな山があります。でもやりたいことをやっていると、だんだん人が集まってくるんです。私もそれは実感としてあるので、稜線を動物の形にすることで、自分のやりたいことの欠片や集まってきてくれる人のことを表現しました。

よく見ると、クマやキツネ、鳥などたくさんの動物が山の稜線に見立てられています

よく見ると、クマやキツネ、鳥などたくさんの動物が山の稜線に隠れています。

――印刷や表現など技術面でこだわられた部分はありますか?

柿崎:フライヤーは厚紙に印刷するのですが、ポスターに登場する稜線の熊やうさぎがフライヤーにもいて、くり抜けるようになっているんです。動物たちが夢や希望の欠片みたく見えたらいいなと。

フライヤー表面。鳥やクマなど、動物の形でくり抜けるようになっています。

フライヤー表面。鳥やクマなど、動物の形でくり抜けるようになっています。

――卒展の見所はどこだと思いますか?

辻原:毎年4,000人以上の来場者があり、関係者に向けた内輪の展示のレベルではまったくないイベントです。それだけにみんなすごくプレッシャーを感じ、悩みます。「自分自身とは何者なのか」という段階まで掘り下げ、制作に臨む学生も多いです。誰がつくっても同じようなものでは意味がないからこそ、自分の分身のような作品を追求して苦しむ。でも一方で来場者を楽しませたいという気持ちもあり、折り合いをつけながら何とか乗り越えていくわけです。逃げ出したい気持ちに負けずに立ち向かって完成したものは、本当にその人だけの卒業制作作品です。だから、技術的にはまだ未熟な部分があったとしても、人となりが強く現れた物が多い。商業作品とは違う何かがあるので、見応えがあると思いますよ。

柿崎:私も何をつくろうかと長い間悩みました。気負いすぎても進めなくなるんですけど、どうしてもそれくらい緊張しちゃうんですよね。3年間の集大成だから。

辻原:そうだね。そこまでやっても絶対期日には間に合わせなきゃという空気はあるから、会期当日の朝まで、みんなギリギリ。でも開場すると何事もなかったかのように振る舞うんだよなぁ(笑)。

社会に出て気づく桑沢の魅力と学び

――お仕事をする中で、桑沢での学びが役立っていると感じる時はありますか?

柿崎:入学した当初は、デザインも写真撮影も洋服づくりも、すべてできる人になるべきだと思っていました。でも、グループ課題や文化祭で毎年参加したファッションショーを通じて、「得意な人に任せることや一緒につくればいいんだ」と気づけたんですよね。そういうチーム作業の考え方は、社会に出てからもさらに実感しています。今回のポスターもいろんな人に助言いただきましたし。

楽しかったお仕事のひとつとして印象に残っているという、株式会社三越伊勢丹「クリスマスケーキカタログ2017」。桑沢の先輩であるアートディレクター●●●●さんとの仕事。

楽しかったお仕事のひとつとして印象に残っているという、株式会社三越伊勢丹「クリスマスケーキカタログ2017」。桑沢の先輩であるアートディレクターとの仕事。

壁紙ブランド「WhO」の壁紙は、友人のデザイナー●●●●さんとの仕事。モチーフは世界各国の窓(写真は見本市にWhOが出展した様子)

壁紙ブランド「WhO」の壁紙は、友人のデザイナーとの仕事。モチーフは世界各国の窓(写真は見本市にWhOが出展した様子)

――卒業して改めて、桑沢という学校の魅力やよさを教えてください。

柿崎:人のよさが一番ですね。いまだに一緒にごはんを食べに行くのは桑沢の人が多いですし、一緒に仕事をする機会も多くて。1年生の基礎教育クラスで知り合いができますが、2年生の専攻に進むとみんなが散らばるので、今度は各専攻に強い知り合いができるんです。文化祭や行事ごとでは上下や夜間の人との繋がりもでき、たくさんの刺激を受けました。やっぱり大学だとこうはならないと思います。

辻原:人がいいというのは本当にそうですね。渋谷という尖った場所にある学校なのに、みんな素直でまじめなので、そのことを初めて知った非常勤の先生や新入生は、そのギャップに驚かれますよ。毎年入学してくる人たちは、純粋に学びたいと考えるやる気のある人が多いんです。

柿崎:そうですね、実はまじめで面白い人が多い、すてきな学校です。

終始和やかな雰囲気で進んだインタビュー。卒業しても気軽に相談できる先生とはなかなか出会えないものです。桑沢ならではの先生と学生の信頼感が、今回の卒展ポスターを制作する上での鍵となっていると知り、とてもあたたかい気持ちになりました。

取材・文:木村早苗 撮影:高比良美樹 編集:石田織座(JDN)

■桑沢2019 平成30年度卒業生作品展
日時:2019年2月22日(金)~2月24日(日)
場所:専門学校 桑沢デザイン研究所 渋谷校舎
http://www.kds.ac.jp/nyugaku/sotugyoseisaku/