プラスチックは“未来の伝統工芸”の材料かもしれない。「Plastic Design & Story Award」が探る、素材の本質と可能性

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プラスチックは“未来の伝統工芸”の材料かもしれない。「Plastic Design & Story Award」が探る、素材の本質と可能性
プラスチックの未来と可能性を拓く新しいストーリーとデザインを募る、「Plastic Design & Story Award」が新たに誕生しました。主催するのは、日精エー・エス・ビー機械株式会社。同社は、プラスチックボトルの製造機械の設計から、金型製作、プラスチック容器の成形まで、全てのプロセスを担ってきました。本アワード第1回となる今回のテーマは「いれるもの、つつみこむもの」。プラスチックという素材の捉え方や、それぞれの考えるプラスチック製品のあり方など、今回のテーマと絡めて審査員が語り合いました。鼎談の参加者は、同社取締役の廣松邦明さんと、プロダクトデザイナーの鈴木啓太さんと角田陽太さん。三人の言葉から見えてくる、プラスチックの可能性とは?

ストーリーのあるプラスチックとは?

鈴木啓太さん(以下、鈴木):そもそもなんですけど「プラスチック容器」って、使い捨てのイメージがありますよね。ペットボトルや、洗剤の容器のような「ゴミになっちゃうもの」と思っている人も、たくさんいると思うんです。でも、それは素材の使い方がよくないだけ。

鈴木啓太さん(プロダクトデザイナー / PRODUCT DESIGN CENTER代表)

鈴木啓太さん(プロダクトデザイナー / PRODUCT DESIGN CENTER代表)

角田陽太さん(以下、角田):いや、ほんとそうですよね。

鈴木:僕は基本的に「現代はものが溢れすぎ」だと思っているんです。デザインを依頼されても、つくらなくてもいいんじゃないか、と思うこともたくさんあります。それでもつくるからには、根源的に解決したいことや、実現したいことがあるはず。だから、それをまずきちんと見極めて、いまの時代において一番良いものを目指す必要があります。そのときに重要なのは、「素材の選定」です。どんな素材を使って、このプロダクトを実現するか、ということを、僕は最初に計画します。つくる人が、ものに愛と責任を持つべきだと思うんですね。だから、どういうふうに使うべきか、という提案もしていく必要があります。

角田:すごくプライベートな話なんですが、たぶん僕はデザイナーのなかでは、一番レコードを買っていると思うんです。二番目は、(鈴木)啓太くんかもしれないけれど(笑)。レコードはずっと変わらないプロダクトなんですよね。引っかくことによって、フィジカルな音が発生する「音を封印しているプラスチック」。音楽に愛着をもたせてくれる、素晴らしいプロダクトです。

僕自身も普段、人々に愛着を持ってもらえるものをデザインしているつもりですが、それと素材はあまり関係ない。プラスチックだから愛着を持ってもらえないわけでも、宝石だから愛着を持ってもらえるわけでもありません。

角田陽太さん(プロダクトデザイナー / YOTA KAKUDA DESIGN代表)

角田陽太さん(プロダクトデザイナー / YOTA KAKUDA DESIGN代表)

鈴木:先日、「トライタン®︎」というプラスチックを使ってコップをつくったんです。トライタン®︎は、非常に弾性があり、劣化もしにくい。ガラスのコップは割れてしまうけれど、トライタン®︎でつくったコップならば、ガラスのような透明度がありながら、踏んでも割れないという利点があります。素材の特性をきちんと理解すると、普通の日用品でも長く使えるいいものがつくれるんです。

廣松邦明さん(以下、廣松):みんな、なぜかプラスチックは使い捨てと思われてしまっていますよね。10年、20年経っても使えるプラスチック製品もつくれるはずなんです。

鈴木:最近、公共施設のデザインもしているんですが、プラスチックもたくさん使うんですよね。例えば、電車のつり革。ポリカーボネートを使ったんですが、不燃という特性があります。電車内には、火災にさられても滴下しない材料しか使えないためです。さらに、強度もあるから長く使えますし、もちろん色も自由に変えられます。公共的な視点で、機能的に、かつ長く使う提案ができるなと思っていました。

暮らしを変える、新しい場をつくる

廣松:「Plastic Design & Story Award」をはじめたのは、若い才能ある人たちが参加できるような、新しい「場」をつくりたかったからです。世の中の暮らしをちょっと変えられるものを、一緒に生み出せたらおもしろいなと思っています。

私たちの会社は、ほとんどがB to Bのビジネス。取引先から「こういう形状の容器をつくってほしい」と言われて、それを製造するような仕事です。しかし最近は徐々に、いままでにはなかったような企画も増えてきました。そうするなかで私たちも、依頼されたものをつくるだけでなく「少し先で待ち構えたい」と思いはじめたんです。いまの世の中が欲しいものだけではなく、もうちょっと先の、未来の人たちが欲しがるものをつくれるようになりたいな、と。そういうことが、産業を広げていくことにも、人々の生活を変えていくことにも、大切だと思っています。

廣松邦明さん(日精エー・エス・ビー機械株式会社 取締役)

廣松邦明さん(日精エー・エス・ビー機械株式会社 取締役)

角田:日精エー・エス・ビー機械の工場見学にも参加したんですけれど、ゆったりした空間で、機械の配色もそろっていたのが印象的でした。とても美しい工場で、クリエイティブな会社なんだな、と感じました。

廣松:私たちは製造機械だけでなく、金型もつくりますし、もちろん、最終的な樹脂製品も成形しています。設計から製作まで、全てのプロセスを社内で持っているのは、世界でも珍しいんです。色々なサイズ、形状の成形ができる技術力も強みですね。だからおもしろい提案を実際に形にする能力は、世界的にかなり高いと自負しています。

角田:いまの常識的には、技術がリードしてデザインを引っ張っているイメージがありますが、デザインがリードしてもいいはずですよね。

廣松:正にそれが、今回の趣旨のひとつなんですよね。

角田:だから、新しい視点を期待しちゃいますよね。いまの製造状況ではできないかもしれないけれど、少し先を見せてもらいたい。

廣松:そう。「こんなのがつくれたら、確かにおもしろそうだ。これをつくれるように頑張ろう」と思いたいんですね。

角田:今回のテーマは「いれるもの、つつみこむもの」ですが、意外と無限のテーマですよね。言ってしまえば、建築だって「容れ物」です。ペット用品とか、バードハウスとか、全てが人間につながらなくてもいいかもしれない。自分が応募者になりたかったくらいです(笑)。

廣松:これはひとつの切り口ですが、人々の生活を豊かにする上で「役に立つ」ということは、大事だと思います。生活という意味では、男性だけでなく、女性からも提案してほしいですよね。

鈴木:化粧品の容器などは、私たちにはわかり得ない部分もありますし、違う視点が出てくるかもしれないですよね。

プラスチック製品が未来の骨董品になるために

鈴木:僕はその素材ならではの美しいデザイン、というのがあると思っています。でも、プラスチックに関しては、まだまだ発明されてない気がするんですよ。だから、装飾品としてプラスチックの価値を高める提案が出てくるとおもしろいと思います。みんなが持っているような「廉価で簡素なプラスチック製品」みたいなイメージも、多分グッと変わる。

鈴木啓太さん

廣松:当たり前にあるボトルでも、ただ形が美しいだけでハッとする経験って、いままでも味わっていることです。審査基準は5つありますが、私はどこかひとつ飛び抜けてるだけでも大歓迎です。

鈴木:プラスチックは近代的な材料ですから、まだ歴史もそんなにありませんよね。製造がはじまったのは50年前くらいですか?

廣松:そうですね。当社の歴史が40年で、それがプラスチックボトルの世界の歴史でもあります。

鈴木:ですよね。だから、伝統工芸のなかに、プラスチックはないじゃないですか。でも、これから工芸的なものに変わる可能性も、十分あると思うんです。ガラスだって最初は、すごく素朴なものだったけれど、誰かが切子やカッティングをしていくことで、違う価値を持ったものになりました。素材が、ただの素材じゃなくなっていくんです。そういう提案が出てくると、新しいプラスチック像をみんなが受け止められるし、価値の向上になりそうな気がするんですよね。まだまだ、ものづくりとしても、デザインとしても、マテリアルが入って来てから日がすごく浅いから。

角田:そう、まだ歴史は浅いですよね。もちろん、現時点の生活を豊かにするっていう機能の話も大事だけれど、未来の古道具屋だったり、蚤の市だったりで手にした人たちが「すげーいいな!」って思うような、美しいたたずまいとしての容れ物がつくれたら最高!プラスチックも、未来においては骨董的価値を生む可能性っていうのは、十分あるわけです。本格的に世の中に出てきて、まだ6〜70年なのだから。

角田陽太さん

廣松:200年後くらいの人たちは、これから生まれて来るものなんて「あ、昔の人こんなのつくってたんだね」って見るわけですよね。もう初期の、それこそ土器のような感じで、見るのかもしれない(笑)。

鈴木:僕はやっぱり樹脂製品に思い入れがあります。すごく細かいところまで設計できるので、デザインしていて楽しいんですよ。そういう素材はほかにない。デザイナーの考えていることや、設計したい微細な部分を、全部表現できる特殊な素材だと思うんです。でも一方で、素材として社会的な批判があるのも事実です。だから、プラスチックをただの大量生産品としてだけじゃなく、違うステージに進めてくれるような提案が出てくると、すごくおもしろいなと。ちょっとした、野望です。

角田:啓太くんが言ったように、素材ならではの「美しいデザイン」というのを当たり前に追求してほしいですよね。プラスチックは、実はデリケートにデザインできるので。触感もそうです。パチって蓋が閉まる感覚はガラスの時代には無かった。あの閉じた音、忘れられない感触。歴史の浅いプラスチックならば、「こんなの思いつかなかったよ!」みたいな可能性がまだまだありそうです。

廣松:せっかくなので、参加される方には楽しんで考えていただきたいですね。皆さんが思い描いたものが、実際のものとしてでき上がるのを、一緒にワクワクしながら体験できればいいなと思っています。

取材・文:角尾舞 撮影:葛西亜理沙 編集:瀬尾陽(JDN)

Plastic Design & Story Award 2018
さまざまな素材や形状のプラスティック容器をつくることのできるストレッチブロー成形機の大手総合メーカー、日精エー・エス・ビー機械株式会社。同社は、未来に向けたプラスティックの可能性を探求すること、新たな価値を提案できる優れたデザイナー・クリエイターを支援することを目的に、「Plastic Design & Story Award 2018 ~プラスティックの未来を拓くアワード~」を開催。

【募集内容】
・今までの常識を覆すプラスティック容器の利用シーンとストーリー
・プラスティック容器の性質および素材としての特性を踏まえたデザインアイデア
・消費者目線の体験価値があり、市場へのインパクトをもたらすことのできる提案

【募集期間】
・2018年8月1日(水)~2018年10月31日(水)

【応募資格】
・プロダクトデザイナー、クリエイター、アートディレクターなどのクリエイティブ職の方
・デザイナー、クリエイターなどのクリエイティブ職を志す学生

【審査基準】
1. 創造性:デザインの先進性、アイディアの斬新性
2. 特徴理解:プラスティック製品の性能や特性を理解したデザインや使い方を提案できているか
3. 市場インパクト:消費者への訴求力を持ち、市場を変化させるようなインパクトを有しているか
4. 社会課題解決:デザインやコンセプトが日本や世界各国の社会課題解決に寄与するか
5. 提案力:上記1~4についてのメッセージの的確さ、伝え方の上手さ

【賞金】
・最優秀賞(1点):200万円
・優秀賞(2点):50万円
・入選(20点):10万円

https://www.pdsa2018.com/