OPINION LEADER ナガオカケンメイ(1)

OPINION LEADER ナガオカケンメイ(1)

(この記事は2010年4月21日に掲載したものを、再構成して掲載しています)

デザイナー、プロデューサー、そして経営者と、さまざまな顔を持つナガオカケンメイさん。彼が2002年からスタートしたロングライフデザインを追求する「60VISION」は、流行に左右されない普遍的な定番商品を作る老舗メーカーとともに、ロングセラーマーケットを開拓し育成するプロジェクト。60シリーズは、デザイン雑貨・インテリア家具を扱うオンラインショップ「caina.jp」でも特に人気の高いブランドだ。

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「60VISION」の展示会にて、お話を伺いました。

ナガオカさんは、かつて日本デザインセンターで原研哉とともにグラフィックデザインに携わり、その後独立し、ドローイングマニュアルを設立する。現在はロングライフをテーマとした「D&DEPARTMENT PROJECT」を展開。日本全国から現代の生活に使えるロングライフな工芸品を集めた「NIPPON VISION」、全国各地のパートナーとともに、その土地で採れた旬の素材を使った料理と、食のデザインの視点を提供する「D&DEPARTMENT DINING」、オーガニックハーブや野菜を作る自社農園「D&FARM」など、さまざまなプロジェクトの主宰者として知られている。

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ナガオカさんの手により復刻された、商品の数々が一堂に並びました。

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手前からムーンスター60、奥の左がアデリア60、奥右がホッカ60です。

最近では、デザインの視点から旅するためのガイドブック「d design travel」の編集長を務め、自ら日本全国を渡り歩いて、自らその場所に身を置く編集方法も話題である。日本全県のガイドブックを作りあげるには、10年以上かかるという。実に長いプロジェクトだ。ナガオカさんは数々のドキュメンタリー番組にも取り上げられるなど、デザイン界に新たなムーブメントを巻き起こす人物として注目されている。

2009年12月に行われた「60VISION」の展示会において、ナガオカさんの多岐にわたる活動についてお話を伺った。

あえて立地の悪い場所に店舗を構える理由

東急大井町線の九品仏駅から徒歩8分。閑静な住宅街が広がるこのエリアは、周囲にはおしゃれな飲食店はおろか、若い世代が足を運ぶような店はほとんど見当たらない。立地条件としては良いとはいえないこの場所が、「D&DEPARTMENT PROJECT」の拠点であり、最大の店舗でもある。

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東急大井町線の九品仏駅から徒歩8分の閑静な住宅街に、D&DEPARTMENTは拠点をおきます。

「D&DEPARTMENT PROJECT」は、デザインに興味がある人なら一度は耳にしたことがあるだろう。遠方から訪れるファンも多い人気のショップで、平日だというのに、この日も1階に併設されたカフェは、多くの客で賑わっている。しかし、当初この地にショップを構えることは、スタッフだけでなく誰もが反対したという。

ナガオカケンメイ(以下、ナガオカ):なかば強引に実行したんです(笑)。でも、結果的に、この場所に気づかされたことがたくさんある。たとえば、立地の悪いところでものを売ることの大切さ。立地がいいと、衝動買いや欲しいと思っていないものを買ってしまうことってありますよね。ウィンドウショッピングって楽しいだろうし、僕も衝動買いをすることはあるけど、本当に欲しいものを買いたいと思ったら、自分の意志できちんとお店に向かうことが重要でしょう。だとしたら、この場所は周りになんの“ついで”もない。以前、大きな商業施設に期間限定ショップを出店したこともあった。しかし、売上はこの店舗のほうが何倍も上だった。そこに訪れた人は、見るだけ見て、触るだけ触って、結局買わない。つまり「立地がいい場所」=「販売の手間ひまを放棄している」ということが起こっているのかな、と。

最近、強く感じているのは、「売り方」や「売り場」のデザインがなされてないということだそうだ。売り方が自由になれば、“質”より“安さ”が求められてしまう。そんな整備されていない「売り場」に再度デザインを投下しても、いい結果に繋がらない。例として言えば「無農薬野菜」。どんなに農薬を使わずに育てても、土の成分から農薬がなくならない限り、無農薬野菜とは言えないということだ。この地に「D&DEPARTMENT PROJECT」を構えた理由はそこにある。

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2F売り場の様子。カリモク60の製品です。

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こちらもカリモク60。

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1Fには併設のダイニングカフェ、D&DEPARTMENT DINING TOKYOが。自社農園育てた野菜を、心地よいスペースで存分に味わえます。

「D&DEPARTMENT PROJECT」は、東京、大阪、北海道、長野、静岡で店舗展開されており、愛知、広島、鹿児島、山形もオープンに向けて準備中である。しかし、すべての店舗が彼の意志によって進んでいるプロジェクトではない。ナガオカさんの方向性に賛同する仲間たちなしでは、成し遂げられない。彼のまわりに人が集まってくる理由とは何だろうか?

ナガオカ:これは「やりたい!」という人たちとの出会いによって、実現化していくプロジェクト。東京と大阪の直営店以外は、現地のパートナーが主体となって進めています。僕は活動のテーマを自分のなかから探さない。社会から拾い、皆に公開しながら活動を続けているんです。だから、「私もそう思っていた」という共感が皆さん(賛同する仲間)から得られたんじゃないかな。ファッション誌ではなく、新聞やテレビで取り上げられるのも、僕の活動が「社会性」をテーマにしているからだと思う。だから、僕はできる限り“好き嫌い”で、モノ選びをしないようにしています。

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