試行し、思考する。本業だけにとどまらずに活動するクリエイターたちの挑戦の場としての『nihonbashi β』(2)

試行し、思考する。本業だけにとどまらずに活動するクリエイターたちの挑戦の場としての『nihonbashi β』(2)
「桜が咲く喜び」を表現すべく試行錯誤中!

3月15日から4月7日まで開催される『日本橋 桜フェスティバル』への参加が決定している。この新たなステージで彼らがどんな体験を提示していくのかもうかがった。

『日本橋桜フェスティバル』で展示される『サクラカーペット』

――4月に行われる『日本橋桜フェスティバル』では、どのような作品を発表する予定ですか?

石川:コレド室町の間にある仲通りに桜が咲く映像を投影してカーペットのような空間をつくります。センサーを仕込んで、通行する人をきっかけに無数の桜が咲いて道を埋め尽くすというインスタレーションにしたいと思っています。仲通りの先には神社があるので、少し神聖な感じの体験をインタラクティブに展開できればと思っています。

水野:また、講師の矢後さんにアドバイスをいただきながら、イベントのキービジュアルの制作も行っています。まさにいま、試行錯誤を繰り返しているところです。

矢後直規さん(以下、矢後):試行錯誤、してますよね(笑)。仲通りの演出もそうだけど、方向性を決めていく過程でかなり苦労していた印象です。

鈴木:そうですね。普段の業務ではない活動だから、「新しい、実験的なことをやりたい!」という想いが先行してしまって。お客さんにどんな体験をしてもらいたいか、どんな表現を感じ取ってほしいか、というところを置き去りにしてスタートしてしまいました。

水野:キービジュアルも同じですね。最初は日本橋らしい大人なイメージで、落ちついた、おしゃれな雰囲気を目指していったんです。だけどイベント自体はもっと華やかで、にぎやかなものだったんですよね。コンセプト自体を練り直して、いまは「だんだんと満開になっていく桜」「春の前向きな気分を後押しする桜」を目指して制作を行っています。

矢後:デザインを考えるときは、歴史だったりとか、その背景にあることを丁寧に調べないとだめです。そういった下調べをもとに、全員で共有できるコンセプトをきちんとつくり上げる必要がある。僕だったら桜についてとことん調べる。とても歴史のあるものだから、調べることで表現したいものやコンセプトにつながるストーリーがきっと見えてくるはずです。

けど、今回このチームはスタート段階でのそこの詰めが甘かった。だからプロジェクトに関わるメンバーをまとめあげるコンセプトに、なかなかたどりつかなかったんだと思いますよ。

矢後直規さん

水野:そうですよね……反省です(笑)。途中でビジュアルの方針も右往左往してしまって……。けれど、その中で矢後さんから「自分が良いと思うものを突き詰めなよ」という言葉をいただいて。普段の業務の中でいろいろな条件に影響されているうちに、自分が良いと思うものに自信をもてなくなってしまっていたことに気づきました。

普段の業務の中で「これくらいでいいか」と妥協をしてしまっている気がして、もやもやしていたから『nihonbashi β』に参加したはずだったんですが、自然とそういった思考に陥ってしまいましたね。

矢後:アウトプットのもつ機能や役割を理解することは大切だけど、大前提として、自分が表現したいと思えるか、というのはとても大事だと思います。そうじゃないと、そのアイディアを突き詰めていくモチベーションがもてない。自分が良いと思う表現を、ほかの条件を加味しながら言語化して、周りにも納得してもらえるストーリーを組むことが大切なんじゃないかな。

水野:私は『nihonbashi β』に参加する前から、矢後さんの、アートをソリューションと結び付けて提案できる能力に憧れがずっとあって。自分もこんな風にきらきらしたい、素敵な提案がしたい、と思っていました。『nihonbashi β』の講師に矢後さんのお名前を見つけたときは参加意欲が格段にあがりましたし、いまも直接アドバイスをいただきながら制作活動ができていて、本当に勉強になっています。自分が良いと思うものを突き詰めて、納得できるアウトプットを出したいと思っています。

日本橋の100年後200年後を考える

――本プロジェクトを企画された朴さんは、2018年度の『nihonbashi β』を改めて振り返ってみて、その成果はどのように感じていますか?

朴:今回の「未来ののれん」というテーマ設定には僕なりに考えがありました。誰もが知っているのにほとんどのクリエイターがつくったことのないモチーフを選ぶことで、単なるグラフィックにも空間演出にもおさまらない、いつものつくり方を飛び越えた発想を期待できると考えました。また、「未来の日本橋をデザインする」からには、100年後、200年後の日本橋にも存在していてほしいモチーフを選ばなければいけませんが、「のれん」はまさにそれに値するものでした。さまざまなモノゴトが新しくなっていくなかで、未来に残すためにアップデートし続けたいものを見つけるのって難しいので、日本橋に「のれん」があってよかったと改めて感じてます。

しかし、ブランドの象徴であるのれんを、若手クリエイターたちに自由につくらせてくれるのか?という問題もありました。「にんべん」さんなんて300年以上の歴史がありますからね。各店舗の方が前のめりにならないとできないチャレンジだったのですが、店舗の方々とクリエイターたちが一緒になって、のれんのアップデートに挑み、実際に中央通り沿いに掲出できたという事実は、成果として大きいです。

朴正義さん

矢後:このプロジェクトのために日本橋に来て、ほかの街との差を感じたのは人のつながりが濃いことです。朴さんと街中を歩いていたら、品のいいマダムが声をかけてきて「あなたたちどこから来たの?学生?」とか語りかけられたり。若い人を気にかけてくれるような接し方がこの街ならではでした。そういう体質の街って東京にはあまりない。若手のクリエイターが入りやすい環境かなと思いました。どしっと構えた、大きな器を持った人がいる街。若手のクリエイターと日本橋の伝統のあいだで、化学変化が起こっていくとおもしろいと思います。

2月には、日本橋を舞台に起こっているチャレンジやコラボレーションを伝えるWebメディア『Bridgine』を新たに立ち上げた。日本橋で活躍するクリエイターや老舗店舗にフォーカスし、未来を描き、歴史に挑む人々のストーリーを発信していく。「未来ののれん展」に続き、今後もクリエイターと日本橋をつなぐ新しいプログラムも計画中だ。

朴:僕としては、『Bridgine』というWebサイト上でいろんな人がコラボプロジェクトを立ち上げる、そういう場になったらいいなと思っています。記事の更新による情報発信をするだけではなく、それをどうやって運営していくとサイトが盛り上がり、日本橋でチャレンジしたいという人たちをサポートできるのかを試行錯誤していく感じですね。

日本橋を拠点にしたクリエイターや老舗の未来に向けたチャレンジやコラボレーションを紹介するWebメディア『 Bridgine』
https://bridgine.com/

街に新しいソフトをインストールするのが『nihonbashi β』の意義

――最後にクリエイターがまちづくりに参加することの意義について、朴さんと矢後さんの考えを聞かせていただけますか?

朴:ものをつくるひとは「そもそもなにをデザインするのがいまイケてるのか?」ということを考えると思うんです。バスキュールはネット時代に生まれたソフトウェア制作会社で、つい5年前まで自分たちのデザイン領域は、CPUやスクリーンのある場所に限られていたんですが、テクノロジーがリアルに染み出していったことで、いま何屋かわからないくらい領域が拡がっています。リアルとネットが溶け合う時代に、デザイン力やソフト開発力を武器に、まちづくりに参加する。言い換えれば、街に新しいソフトをインストールし、そのアップデートに貢献するというのは、僕らのようなクリエイターにとってすごく刺激的です。

ほかの街に比べて豊かな歴史と伝統があることで「これは誰もやってない」と思える領域がまだあって、チャレンジした手応えがはっきりと感じられるのが日本橋です。一方で、「この表現でいいかどうか」と悩んだときに立ち戻れる確固たる軸があるので、目的と手段の逆転を未然に防げるよさもあるんですよね。イノベーションの場としてこんな素敵な場所はないと思いながら取り組んでいます。

みんなに「街は超楽しい」ということを伝えたいんですよ。それが『nihonbashi β』がどんなに大変でも運営している理由です。テクノロジーが進化し、何をデザインすればいいか迷っている若い人にとって、リアルな場のデザインにトライできるのは貴重なチャンスだと思います。今回のような取り組みを今後も続けられたら嬉しいですね。

矢後:僕はラフォーレ原宿でセールの広告やインビテーションをつくっていたりするんですが、これもまちづくりの一貫だと思って取り組んでいます。グランバザールの広告が掲示されたら街の景観がかわる。そこに原宿としてのメッセージを添えたり、直接的に街づくりをしてるとは考えていないけれど、それでも原宿の街をつくることにつながるとは考えています。クリエイターがそういったマインドを持つかどうかが街にとっては大事です。利益だけを考えてものをつくるのと、文化的なことから発想してつくるのとでは、後者のほうがまちづくりといえるんじゃないかな。

クリエイターが街をつくっていくというマインドを持って日本橋の事業に関われば、そういうことの連鎖で街はできていくと思います。特にこのプロジェクトを卒業した人たちにはそういうマインドを持ってほしい。

朴:講義でライフワークの話をしましたが、「これは10年20年続けてもいいかもしれない」という仕事に出会うのは素敵なことです。生まれ育った街以外に、街づくりというカタチで、街と息の長い関係を持てるチャンスってなかなかないと思うんです。『nihonbashi β』にはそのチャンスがあるので、若手クリエイターはぜひ積極的に参加してほしいです!

取材:高岡謙太郎 撮影:川谷光平 編集:瀬尾陽(JDN)

nihonbashi β
https://nihonbashi-beta.jp/