『nihonbashi β』の次なる挑戦。日本橋の象徴「暖簾」のデザイン公募からはじまる、グラフィックデザインの新境地ー(2)

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『nihonbashi β』の次なる挑戦。日本橋の象徴「暖簾」のデザイン公募からはじまる、グラフィックデザインの新境地ー(2)
デザインを社会に機能させていく。これからのグラフィックデザイナー像

朴:昨年の『未来ののれん展』では、来街者に新たな体験を提供することがテーマに据えられていたため、空間デザイナーやエンジニア、プランナーなどの参加が多かったのですが、今回の公募のおもな対象は、グラフィックデザイナーになるはずです。

例えば、エンジニアの世界では制作プロセスの中でプロトタイピングを行う文化がありますが、グラフィックデザイナーの場合は、最終のアウトプットで勝負をするという考え方が一般的です。しかし、グラフィックデザイナーが操る視覚情報には伝達の強度や速度の部分に強みがあり、これらをプロトタイピングなどにも活かすことができるのではないかと日頃から感じています。今回の企画に関しても、情報伝達の強さ、速さをみんなで活用していくことで街にインパクトを与えることができるかもしれないし、グラフィックデザインの新しい側面を見出していく機会になるとおもしろいなと思っています。

戸田:前回の東京オリンピックがあった1960年代に比べると、日本のデザイン人口は増えていると思うのですが、同時にデザイナーの役割は細分化していますよね。デザインによって解決できること、変革できることというのは無限にあり、その領域も多岐にわたるのですが、現代のグラフィックデザイナーは自分たちで活動領域を狭めてしまっているところがある気がしています。1964年の東京オリンピックのシンボルマークやポスターをデザインした亀倉雄策さんたちの世代のグラフィックデザイナーたちは、日本を変えていくという強い意志や知的好奇心を持ち、死に物狂いでデザインの領域を開拓していったところがあるのではないかと感じています。

戸田宏一郎インタビュー画像

矢後:本当にそう思います。1964年の東京オリンピックのデザインには、亀倉さんのシンボルマークやポスターだけではなく、オリンピックで初めて採用されたピクトグラムもありますよね。これらのグラフィクデザインとしてのクオリティはもちろんですが、あの世代のデザイナーたちがすごいと思うのは、社会に対してこういうデザインが必要だという提案をゼロから行っていたこと。デザインを社会に機能させていく力というのは、デザイナーとして最も大切なものだと感じます。

戸田:デザインというのは、社会全体や個人の気持ちを動かしていくことにもっと寄与できるはずだし、力を持っているデザイナーたちはそこにより力を注ぐべきだと思うんです。時代的な背景もあると思いますが、現代のデザイナーには与えられる仕事を待っているような姿勢の人が多く、予熱モードが続いているように感じています。

矢後:優秀なインハウスデザイナーもたくさんいる中で、僕らは企業から仕事を受注している立場だからこそ、与えられた課題に対して上手に打ち返しているだけでは生き残っていけない。これからのグラフィックデザイナーには、自ら課題をつくったり、問題を提起していくような姿勢がますます求められてくると感じています。

戸田:個人的には、ここ5年くらいはいい出会いにも恵まれて、社会の動きを見据えながら話ができるクリエイターが周りに増えてきたのですが、それまではデザイナー同士で話していると、紙やインクなどディテールの話題にばかり向かいがちでした。まあ、それはそれで楽しくはあるのですが(笑)。

矢後直規、戸田宏一郎インタビュー画像

矢後:そうなんですよね(笑)。ただ、グラフィックデザインの領域にとどまらず、もっと社会に出ていかなくてはいけないと最近は強く感じています。例えば、企業が新しいロゴや製品を発表する時などには、それをつくったデザイナーが前に出ていった方がいいと思っています。それによって自分のデザインにもより責任が持てるし、社会との接点も感じられる。そういう意味では、デザインを通して街とつながる今回のような取り組みも、社会とのいい接点になるといいなと思います。

新たな経験から生まれるブレイクスルー

朴:クリエイターが街とつながりを持つということが『nihonbashi β』の大きなテーマですが、昨年の『未来ののれん展』で日本橋の企業と関わりを持ったクリエイターが、その後に別の仕事も依頼されるなど、継続的なつながりも生まれました。今回の取り組みも一過性のもので終わるのではなく、継続的にクリエイターや企業が日本橋の街に関わっていこうとする機運が高まっていくといいなと考えています。

矢後:継続的な関わりというところだと、『未来ののれん展』の優勝チームが、今年の春に行われた『日本橋 桜フェスティバル』でもインスタレーションを発表しましたよね。そのグラフィックデザインを担当したメンバーにアドバイスをさせてもらったのですが、この時のように試行錯誤を重ねるプロセスというのを普段の仕事ではあまり経験していなかったそうなんですね。でも、今回のようなプロセスを踏むことで確実にデザインが高まっていくという実感が彼女の中にあったみたいで。このように、普段とは異なる仕事の内容やワークフローを体験することで自分の意外な個性が見つかることもあるはずですし、それがクリエイターとしてのブレイクスルーのきっかけにもなり得ると思っています。

戸田:今回僕らは仕事を通して日本橋の街と関わるようになりましたが、この場所で普段の仕事ではなかなかできない新しいことに挑戦できるということになれば、それはビジネス云々という話を超えて、ライフワークのような活動になっていくと思うんですね。今回の公募もそうしたきっかけのひとつになるかもしれないし、若いクリエイターにとって新しい意識が開きはじめるような機会になるといいですよね。

矢後:先日、美大で講義をする機会があったのですが、ある学生から、「課題に取り組む時に、教授から言われたことと違うことをするのは良くないと思ってしまい、どうすればいいのかわからない」というような質問を受けたんです。僕からすれば、課題は教授のためにするわけではないのだから、好きなようにやり切ればいいと思うのですが、変に周りに気を使ってしまうようなマインドが若い世代にはある気がしています。

矢後直規インタビュー画像

戸田:僕も若い頃は、デザインというのは相手ありきのものだと思っていたところがありました。でも、いまでは仮に相手がいなかったとしても、こうあるべきだと感じることや、やりたいと思うことがあるのなら、周りを気にせずに社会に対して発信していくべきだと考えるようになりました。それこそがクリエイティブワークの根源なのではないかと思うし、そういうマインドを持っていると自ずと仕事も楽しくなってくるんですよね。困っている人の手助けをすることや相手が求めるものに応えることと同じくらい、自分がこうだと思うものを出し続けていくことも大事で、そのどちらにおいてもデザインを道具として自由に使えるようになりたいと思っています。

朴:おふたりの話にあったように、今回の公募は何かしら課題意識を持っていたり、ブレイクスルーの機会を求めているような人にこそトライしてほしいですね。そういう人たちにはいい意味でこの機会に便乗してほしいですし、「熈代勝覧」のように暖簾が街中に広がる壮観な風景をみんなで想像しながら、参加するクリエイターや企業とともに来街者に楽しんでもらえるものをつくっていけるといいですね。

矢後直規、戸田宏一郎 日本橋での画像

取材・文:原田優輝 撮影:寺島由里佳 編集:瀬尾陽(JDN)

日本橋の新しいシンボルとなる「のれん」のデザイン募集!

2019年秋、日本橋に新しいデザインイベント「めぐるのれん展」が誕生する。

多彩なクリエイターたちが制作した日本橋各企業・店舗の暖簾(のれん)を約1か月間展示し、江戸時代の日本橋を描いた絵巻「熈代勝覧(きだいしょうらん)」の賑わいを再現。暖簾や紋といった歴史や伝統のある表現のアップデートを試みる場として、また、若手デザイナーが日本橋の街づくりに参加できる場として、この展示を恒例イベントにしていくことを目指している。

この記念すべき第1回『めぐるのれん展 デザインコンペ』の参加者を募集!歴史性と先進性をあわせもつ日本橋の魅力を表現する新しい発想が期待される。

【締切】
2019年7月5日(金)作品提出・応募締切

【賞】
合格者(約5名)日本橋で開催予定の『めぐるのれん展』(2019年9月27日~11月4日)での展示権利
※制作にかかる費用は主催者負担

【募集内容】
テーマにそった未発表でオリジナルのデザイン

【テーマ】
日本橋の新しいシンボルとなる「のれん」

【参加費】
なし

【審査員】
野老朝雄(美術家)、波戸場承龍(京源)、波戸場耀次(京源)、中村新(中むら)、戸田宏一郎(CC INC.)、朴正義(Bascule)矢後直規(SIX)

【結果発表】
2019年7月9日(合格者のみにメールにて連絡)

【主催】
nihonbashi β project、名橋「日本橋」保存会、(一社)日本橋室町エリアマネジメント、日本橋文化交流フェスティバル実行委員会

【公式サイト】
https://nihonbashi-beta.jp/