ミラノデザインウィーク2017 インタビュー/中川仁(パナソニックデザインセンター)

織ノ響/西陣織でできたスピーカー織ノ響/西陣織でできたスピーカー
パナソニックの2017年の出展テーマは「Electronics Meets Crafts:」。日本の伝統工芸の高い技術力と美意識を発信するクリエイティブユニット「GO ON(ゴオン)」をプロジェクトパートナーに迎え、人の五感や記憶に響くインスタレーションとプロトタイプを2会場にまたいで出展。映像・音響・照明・調理といった先進のエレクトロニクスと、数100年に渡って日本のくらしを支えてきた伝統工芸が出会うことで、次の100年に新しい豊かさを生み出すデザインを追求した。プロジェクトの中心メンバーである、パナソニックデザインセンターの中川仁さんにお話をうかがった。

伝統工芸×テクノロジーで次の100年の豊かさを表現

「Electronics Meets Crafts:」は、『次の100年の豊かさって何だろう? その豊かさを支える家電って何だろう?』という問いかけから始まったプロジェクトです。

伝統工芸が持つ素材の魅力や、職人の手から生み出される緻密で味わい深いモノに私たちのテクノロジーを忍ばせることで「こころあるモノ」となり、人とモノとの自然な距離感が生まれます。これまでの100年は、いかに簡単・便利かという「機能価値」を追求してきましたが、次の100年を豊かにする家電は、体験を通して心揺さぶるような「感性価値」である、というこれからの家電の方向性を提示できたと思います。

響筒/フタの開閉に合わせてON・OFFの切り替えになっているスピーカー。掌で音の振動を楽しむことができる

響筒/フタの開閉が音のON・OFFの切り替えになっているコンパクトスピーカー。掌で音の振動を楽しむことができる

掌で音を感じられる茶筒型のスピーカー、桶の制作技法でつくられたIH対応の木製冷温桶、竹工芸をつかったLED照明など10種のプロトタイプを展示しました。

月灯/竹工芸を利用してつくられたLED照明

月灯/竹工芸を利用してつくられたLED照明

最も気をつかったのは展示方法です。地上空間で音や映像により感覚を研ぎ澄まし、地下回廊ではモノを主体とした丁寧なプレゼンテーションにより、実際に手で触れて体験し、対話を通して我々の想いを大きなストーリーとして伝えることを試みました。昨今のインスタレーションを主体としたミラノサローネの展示とは一線を画す、新しい見せ方ができたのではないでしょうか。

銀砂ノ酒器/木桶の中にある銀の砂をIHが冷やし、中に入れた飲み物を冷やし続けてくれる

銀砂ノ酒器/木桶の中にある銀の砂をIHが冷やし、中に入れた飲み物を冷やし続けてくれる

空間や体験を通して、メッセージをいかに伝えるか

家電の未来を発信するため、「いかにメッセージやモノを高いクオリティで仕上げるか」が最も苦労した点です。今回の狙いは、これからの100年を豊かにする家電とは何かを日本の家電ブランドとして考え、世界に発信するという壮大なものでした。そのメッセージを言葉や文化、歴史が異なるミラノの地で、空間や体験、対話を通して明確に伝えるための準備は予想以上に時間のかかる作業でした。

また、作品に関してもモックアップをただ展示するのではなく、大人から子供までさまざまな人が触れて体験できるように、完成度の高いプロトタイプに仕上げることに注力しました。手で持った時の重さ、音が鳴るタイミング、香りの広がりかた、湯気の見え方、光の明るさなど、感覚的なチューニングは現地に来てからも調整を続け、徹底的に仕上がりにこだわりました。

デザインに対する理解や興味が高いと感じた、ミラノの人々

昨年秋に京都で開催した展示で手ごたえは少し掴んでいましたが、異国の地での展示ということもあり、期待と不安が入り交ざる心境で会期を迎えました。始まってみると、歴史あるブレラアカデミーという場所の魅力も合わさって、すごい熱量と想定以上の反響がありました。やはりミラノはデザインに対する理解や興味が高く、文化として根付いていることを実感しました。大人はもちろん、子供が本当に楽しそうにプロトタイプを触って遊んでいたのが印象に残っています。

織ノ響/西陣織でできたスピーカー。手を触れると、生地に織り込まれた金銀箔がセンサーとなって音を奏でる

織ノ響/西陣織でできたスピーカー。手を触れると、生地に織り込まれた金銀箔がセンサーとなって音を奏でる

SNSのアップ数が多かったのも嬉しい点で、パナソニックのタグをつけてどんどん拡散され、情報を聞いた駐イタリア大使がローマから駆けつけてこられたほどです(笑)。最終的には2,000以上の出展の中から「Best Storytelling賞」をいただくことができました。私たちの想い描いている家電の未来をきっちり伝えることができ、世界の多くの方に受け入れられたことは本当に嬉しく自信につながりました。

今回の展示はあくまでもプロトタイプで、商品化の予定はありません。ただ、ここで終わることなくこの活動を続け、デザインの思想を未来へ繋いでいくこと、またこのデザイン思想を商品に取り入れていくような活動を続けていくことが大事だと考えています。

GO ON+Panasonic Design
http://panasonic.co.jp/design/goon/

中川仁(パナソニックデザインセンター)
1997年京都工芸繊維大学卒業。1999年同校大学院周士課程修了。同年、松下電器産業株式会社(現パナソニック)に入社し、現所属アプライアンス社デザインセンター。最近の代表的作品は「テクニクスヘッドフォンEAH-T700」「手回しラジオRF-TJ10」など。

構成:石田織座(JDN編集部)