京都の気候や香り、街全体がインスピレーション-手描友禅作家・眞鍋沙智(2)

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京都の気候や香り、街全体がインスピレーション-手描友禅作家・眞鍋沙智(2)

ホームランか三振か?業界に一石を投じる存在になりたい

依頼があって古典柄もつくることはあるんですけど、私は基本的にはオリジナルの図案をメインでやっています。クセが強い作風なのでホームランか三振かってところはあるんですけど(笑)。停滞している業界に一石を投じる存在になっていければ良いのかなって。まったく関心のない人にその石が当たれば、着物に興味を持ってくれるかもしれない、そういうことが私にできることだとは思っています。

私の師匠は老舗問屋の特選作家であり工芸会の正会員で、いわゆる写実調でつくる正統派なんです。そこで働いていたときは、やっぱり師匠の影響を受けたものをつくっていたんですけど、独立したときに何をつくって良いのか迷ってしまって、そこで1回思いっきり逆に振る必要があったのでバーンって全然違うものをつくったんですよ。それで徐々に戻していってバランスを取りながらつくってるという感じです。

70歳を超えても現役の方がいるので、キャリアでは絶対にかないません。友禅は年数で培われていく技術なので、いまだに教えてもらうこともたくさんあります。いまみたいに原価を抑えることをせず、惜しみなく手数を使ってつくっていた時代を知っているので、本当に良い着物の知識も豊富なんですね。その経験からいろんなことを教えてもらってますね。

私はたまたま作家のところで働けたので、そういういろんな財産を得ることができました。お給料は安くて大変でしたけど(笑)。最初から量産系のところで働くと、ひたすら色を塗っているけど、全体のことは全然わからないとか、そういうこともあるんですよ。

あと、なかなか売るところまで関われないのが呉服業界の特徴ですね……。店頭に並ぶまでにいくつも問屋を回っていくので、それでどんどん価格が上がっていく。また、高価な値段がついていても、それがどうやってつくられたのかや、その詳細な品質が消費者に明示されていない状況なんです。

でも、そこで難しいのが、手づくりだからといって必ずしも良いものではないということです。やっぱり、デザイン性とか消費者に欲するものに合っているかは大事ですし、それを踏まえたうえで自分の色が出せて、かつ適正な価格で売ることができる。そういうことをちゃんと築きたいなと思っていますね。以前は「着る」ということを深く考えていなかったんですけど、最近になって着付師と着物講師の資格も取って、ちゃんと「着ること」の視点から考えるようになりました。

「ザ・着物」ではないところから着物の良さを伝える

着物はマーケットがすごく小さいので、ライフワークとライスワークを両立させるために、興味がない人にも使ってもらえる商品の開発も必要だと思っています。2016年に「MID NIGHT FACTORY KYOTO」というブランドをつくりました。友禅アクセサリーや和装小物、カードケースなどの商品があります。デザイナーの友人とかに意見を聞きながら、基本的には1人で小規模でやっています。

「MID NIGHT FACTORY KYOTO」の帯留

「MID NIGHT FACTORY KYOTO」の帯留

やっぱり、自分でオーダーして染帯がほしいという人が増えたら良いなとは思っています。そういう人を増やしていけるように、ブランドのバッグを買うくらいの感覚で買える値段でつくっているんですね。着物の人が洋服の人と一緒にいても違和感がないような、「ザ・着物」ではない、でも着崩しすぎてないみたいなところを、もっと広められたらいいなと思っています。

撮影:衣笠名津美 構成・文:瀬尾陽(JDN編集部)

眞鍋沙智
http://www.manabesachi.com/

眞鍋沙智さんもゲスト参加
「京都移住茶論イン東京」レポート

日時:2月18日(土)13時30分~
場所:the C

京都で暮らしたい人の想いを形にする「京都移住計画」が企画・運営する、「京都移住茶論イン東京」が東京・神田の「the C」で2月18日に開催された。

「京都移住計画」は、首都圏から京都にUターンや、Iターンしてきた仲間と共に「居・職・住」という移り住む人にとって必要な情報などを届ける任意団体。それぞれ専門性を持ったメンバーが、プロジェクト的に関わるかたちで活動している。

「京都移住茶論イン東京」は、首都圏に住まう京都が好きな人や、京都にゆかりのある人が集まり、毎回移住の実践者であるゲストを迎えながら、移り住む先の暮らしを探っていくというものだ。

今回のテーマは「自分を活かして働く」。ひとつの会社組織で働くのではなく、ゆるやかに京都のつながりの中で、自分の仕事をつくるという選択をした小嶌久美子さん(企画やマーケティングのフリーランサー)と、京都の伝統産業の世界に飛び込み、伝統産業の若き担い手として活躍する眞鍋沙智さん(手描友禅作家)、ふたりのゲストが迎えられた。

小嶌さんは、京都で仕事をつくっていくためには、「京都に移住することを移住前に吹聴しておくこと」と「興味と得意分野を明確にすること」の2つが重要だと語った。眞鍋さんは、伝統産業の過酷な状況と体調を崩して地元に戻ったこと、そこからもう一度染色と向き合い再び京都に住む決意をしたことなどが中心に語られた。

ゲストのトークのあとは交流会が行われ、参加者それぞれが情報交換の場として有効活用していた様子が印象的だった。

会の終了後に、京都移住計画代表の田村篤史さんに「京都移住計画」が目指していることもうかがった。

「京都に移住する人が増えたらいいなと思っています。ただ単に数字的に人口が増えるというわけではなくて、街に関わることであるとか、地域の人脈を大事にしてくれるか、そういう人が増えることが街として大切なことだと思っています。

京都もほかの街と同様に、これまであった事業がどんどん閉じていっています。そうすると、京都の多様さが失われていきます。すごいわかりやすい例で言うと、日本らしい町家が引き継がれなくて空き家になり、それがコインパーキングやマンションになるということが起きています。あとは、地域のお祭もそうなんですけど、祇園祭とかも担い手が高齢化しています。祇園祭を見に来る人も大事だけど、祇園祭を引き継ぐ人が増えて欲しい。そういう地域に根ざしていることが起きてくれると良いですね」

新しい働き方と暮らし方を京都で考えてみたいと思う人は、一度参加してみてはいかがだろうか。

京都移住計画
http://kyoto-iju.com/
京都市移住サポートセンター「住むなら京都(みやこ)」
http://cocoronosousei.com/