リサーチとプランニングにしっかり向き合える会社をつくりたい-松倉早星インタビュー(2)

リサーチとプランニングにしっかり向き合える会社をつくりたい-松倉早星インタビュー(2)

街を巡回させる音楽祭「OKAZAKI LOOPS」

OKAZAKI LOOPS

無茶を許容する京都ならではのカルチャー

このプロジェクトは、京都市交響楽団、MBSチーム、エピファニーワークスの林口砂里さんから、「ロームシアターや岡崎エリア一帯を使った音楽祭を一緒にやりませんか?」という相談がいただいて、おもしろそうだなと思い「やるやる!」とノリで即答した感じです(笑)。その頃にはもう、この街を巡回する「LOOPS」という言葉は生まれていました。最初の大きなコンセプトを京都市交響楽団の方がつくってくれていたので、そこをもう少し深掘りするというか、このお祭りをどう伝えていったらいいか?どうやってそれを広げていくか?そんな話からスタートした記憶がありますね。

MBSチームとも林口さんとも、別々でいろいろとお仕事をしてはいたんですけど。同じタイミングでみんなでというのははじめてでした。やっていることがバラバラだった人たちが集まった、「OKAZAKI LOOPS」のチーム編成がおもしろいから参加してよかったですね。

「OKAZAKI LOOPS」が開催できたのは率直にすごく嬉しいです。この場所(現ロームシアター京都)もかっこいい外観を守ったままリニューアルオープンしたし、岡崎エリアは文化が集まっているすごくいい場所なんですよ。京都の人たちもちょっとずつ期待してくれてる。1年目から無茶な内容でよくやったねってみんなに言われますけど(笑)。でもそういうカルチャーを許容するのがとても京都らしいというか。

図書館のための図書館らしい演奏会「CALM -NIGHT LIBRARY LIVE-」

今年ディレクションを担当したプログラム「CALM -NIGHT LIBRARY LIVE-」は、閉館後の時間を利用して、最小限の音響機材と穏やかで美しい音楽を奏でる図書館のための演奏会です。この企画の言い出しっぺは僕ですが、「図書館でやりたい!」って言ったものの、正直無理かなあと思ってました。今年のはじめくらいにアタックしたら、すんなり「やりましょう!」と言ってくれて、びっくりするくらい積極的に関わってくれました(笑)。本当に一緒につくってきたという関係性なので、打ち上げの時も抱き合って喜びましたねー。

京都府立図書館は学生時代から好きな場所で、昔の演劇の台本がアーカイブされていたり、アートとかかの蔵書もすごく多いんですよ。あの敷地の地下が全部書庫になってる、めちゃくちゃかっこいい場所です。そこでイベントとしてやりたかったことが実現できたし、何よりもこの地区との関係性を築きながらお祭りができたのがいちばん嬉しいです。

次はもうちょっと読書体験とか、図書館という「空間」にもっと寄せてもイイかなと思いました。館内は少し暗くしたんですけど、演奏を聞きながら読書してる人や、勉強をしている人もいたんですよ。そこまでイケるんだったら、来年はもっと振り切ってしまえる新しいビジョンが見えてました。もちろん図書館に迷惑がかからない範囲で(笑)。最初から図書館の方たちが積極的に関わってくれたから、現実的にここは厳しいなとか、これは大変そうだなというラインが見えてきたのも大きいです。

あと図書館カードがいっぱい発行されたみたいです。京都府立図書館の人がアーティストの曲を聴いて、それに合う本を選書してくれたんですね。そのリストをお客さんの座席に置いておいたので、公演が終わったらそれを借りて帰ってくれるた人もいたし、それとは別に何か読んでる人とかもいたし、いい感じに音楽と読書体験が繋がっていく感じがしました。公演時間は1時間くらいだったので、もうちょっと体験として長くゆっくりっていうのが本当は理想ですね。図書館の通常営業に支障をきたさずに、次は何ができるかなって考えていきたいなあと。

松倉早星がこれから目指すこと

リサーチとプランニングにより特化するために独立

「オバケ」に在籍していたのは2017年の6月20日までです。共同代表としてはじめた仲間が経営をやっていて、僕はずっとつくってるだけだったんですけど、僕がやっている仕事の領域が変わってきました。毎回課題も違うので、思い切ってリサーチとプランニングに特化した会社をつくっちゃいました。それと、僕の仕事が特殊なのが多いせいか、「オバケ」はそういう仕事をやるチームだと思われがちになっちゃったところがあります。他のメンバーはそれ以外にもすごくいい仕事をしてるんですけど、僕がいることで「オバケ」という会社ができることが過小評価されていると感じることが若干ありました。

僕以外はデジタル領域にすごい強くて、超巨大な企業の案件とかもしてますし、逆に僕はWebは年に1回あるかなって感じになってきてました。今後、仲間を増やそうとした時につくるものが違いすぎると、どういう人を採用したらいいかわからないという問題が出てくるなと思って。これから自分のやってみたいことを考えた時に、僕の仕事の領域がぜんぜん違う方になってきたから、ピンで動いた方がいいかもなって話をふつうにしました。「OKAZAKI LOOPS」が終わり、すぐに新しい会社として動いています。僕がやることはあまり変わらないんですけど、リサーチとプランニングとクリエイティブの話をしっかり向き合える会社にしていこうかなって。

実は会社の屋号も決まらないうちに、契約がもう1社決まっちゃってて(笑)。「OKAZAKI LOOPS」の準備が超忙しい時に、契約を交わす上で社名が必要だという話になり、たまたま公園で妖怪の「鵺(ぬえ)」の石碑があったんですね。で、「“鵺”でイイです」と言って「株式会社ぬえ(Nue inc.)」に決まりました(笑)。「オバケ」としてやってきたので、もうちょっと実体化して「鵺」になりました。

これまでは名刺に「オバケ」と書いてあったからめっちゃ怪しまれてましたけど、おじいちゃんおばあちゃんはすぐ覚えてくれるんですよね。「オバケさん」って言われて(笑)。これからは「ぬえさん」になるのかな。

「Nue inc.」のロゴ。デザインを担当したのは「OUWN」の石黒篤史さん

「Nue inc.」のロゴ。デザインを担当したのは「OUWN」の石黒篤史さん

腰を据えて丁寧に語りかけていく

そもそも新しい会社にしなきゃなって思った経緯のひとつに、何かひとつクリエイティブで課題を解決しても、プランナーなのでそこの奥にある課題が見えちゃったりします。本当はそこも手をつけたい!でも、依頼としてはすでに終わっているので「お疲れ様でした!」で終わってたんです……。でも、どうしても言わずにはいれなくなって、伝え出したのが去年あたりからです。「言われるまで気づきませんでした」としっかり聞いてくれて、いままで点だったできごとが線になり、面をつくれる手応えを感じました。

一過性のもので人の行動とか価値観、さらには人生観を変えることはできないけれど、丁寧に積み重ねて、語りかけていくことで実現できる、数年前からそう感じています。そこに対して、もうちょっと腰据えて向き合っていきたいなという思いで会社を作りました。

性格にもよるのかもしれないですけど、僕は同じことをずっとやるのが苦手なので、ゼロイチの相談の方がおもしろいと思いますね。常に第三者でいられるので、率直な意見を言うことがクライアントにとっては重要な情報だったりします。そこがこの仕事のすごくおもしろいところですね。ちょっとずつわかってお互い歩み寄っていく感じが。

常にいろんな人たちの表現をチェックしているので、いつか一緒にできたらと思っている人がいっぱいいます。めちゃくちゃいい仕事してるなって人と出会ったら、即連絡するんですよ。仕事の相談もまだ何にもないですけど、とてもイイと思ったので連絡しましたって(笑)。特に若い世代の人たちはまったく見ているものも違うし、言葉や価値観すらも変わってきているので、もっと若い人たちとつくってみたいなあって思います。気付けば30代になっちゃったし、20代の学生と話しててもぜんぜん価値観が違う。じゃあ、彼らが共感するモノやコミュニケーションって何かな?と考えていくと、それはまだ僕が手をつけられていない領域なので、ぜひ挑戦してみたいですね。

あと、いまの野望はラジオ番組がほしいんですよね。日曜日の深夜とかにテスト波を流しているじゃないですか?、それこそ「OKAZAKI LOOPS」にもラジオ関連の人たちがいっぱいいるから使わせてくだいって話はしてるんですけどね(笑)。テスト放送って、音がちゃんと出てるかのテストをしているものなので、そこでまだほとんどの人が気づいてないアーティストを紹介したいなぁと思っています。お酒のメーカーとかをスポンサーにして、そのメーカーのお酒を飲みながら好きな曲を流してオススメする……最高の趣味ですね(笑)。

取材・文:瀬尾陽(JDN) 撮影:片岡杏子