第306回 中村友美 (金工家)

[we+の推薦文]

中村友美さんは、金属という硬質な素材を柔らかく温かみのある表現へと昇華させる、独自の世界観を持つ金工家だ。1枚の金属板を金槌で丁寧に叩き、形を立ち上げる「鍛金」という技法によって生み出される作品は、静かな佇まいながら、繊細さと力強さが調和した魅力を放っている。

素材そのものの声に耳を傾け、対話するように手仕事でつくり上げるそのプロセスは、自然と人による原初的な営みを想起させる。インテリアデザインを学び、工芸の領域で活動するからこそ、作品が置かれる空間への作用まで考えるという。

伝統を受け継ぎながらも新たな価値を生み出す作家として、これからの活動がますます期待される。

we+(コンテンポラリーデザインスタジオ)

リサーチと実験に⽴脚した独⾃の制作・表現⼿法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオ。林登志也と安藤北⽃により2013年に設⽴。日々の研究から生まれた自主プロジェクトを国内外で発表しており、そこから得られた知見を生かした、R&Dやインスタレーション等のコミッションワーク、プロダクト開発、空間デザイン、アートディレクションなど、さまざまな企業や組織のプロジェクトを手がける。FRAME Awards、Wallpaper* Design Awards, Dezeen Awards、ELLE DECO International Design Awards等受賞多数。作品はドイツのVitra Design Museumなどに収蔵されている。

http://www.weplus.jp

編集部からの推薦文
金属と向き合い、叩き、打ち続けて形をつくっていく行為について、「そのものの存在や纏う空気、それらが空間におかれた時の佇まいを想像しながらつくっています」と、中村さんは話す。経験則や五感をフル活用して振る一打一打は、金属と対話するような感覚に近い。

中村さんがつくる作品は、金属という素材ゆえの冷たく凛とした空気を纏いながらも、触れてみたい、近くで見たいと思わせる、特有の佇まいがある。薬缶や急須から、ファッションブランドのヘッドピースまで手がける中村さんの、今後の作品が楽しみだ。
中村友美(金工家)

中村友美(金工家)

1981年埼玉県生まれ。2005年武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科 インテリアデザイン専攻卒業。2008年に金工をはじめる。2012年奈良県に移住し、工房を構え制作。2024年東京に拠点を移し、制作をはじめる。国内外で個展を開催。最近は工芸の領域にとどまらずアートやファッションとのコラボレーション作品にも挑戦している。2022年に写真家ホンマタカシ撮影による初の作品集『Little Kettle』を出版。2025年は大阪、Berlin、LA、東京で展示を開催予定。

https://yuminakamura.jp/