デザインの立ち話-nomena(ノメナ)の武井祥平さん、大阪・関西万博で取り組む“前例のないものづくり”

デザインの立ち話-nomena(ノメナ)の武井祥平さん、大阪・関西万博で取り組む“前例のないものづくり”

こんにちは、JDNの山崎です。日頃、さまざまな展示を見てますが、メカメカしたものや動くものは結構好きです。こうした機構を伴う展示を見て感動してクレジットを見ると、「nomena(ノメナ)」という名前があることがしばしば。2021年の東京オリンピック・パラリンピックの聖火台の機構設計を手がけたことでも知られます。

そんなnomenaの武井祥平さんは、いま何をしているか、何を考えているかをお聞きしました。

武井祥平さん

武井祥平さん

■大阪・関西万博で、水の一生を眺める巨大立体展示

2025年4月からはじまる大阪・関西万博を控えた1月末、スカイツリーがよく見える事務所に武井さんを訪ねました。まさに万博の展示に取り組んでいる最中とのこと。超はっ水加工を施したスロープを水が駆け巡る巨大な装置をつくっているそうです。

これはNPOゼリ・ジャパンの「海の蘇生」をテーマとする万博パビリオン「BLUE OCEAN DOME」のための装置で、地球の水の循環を見せるものだそう。パビリオンの建築プロデューサーは坂茂さん、総合プロデューサーは原研哉さんです。WOWが手がける映像もあり、万博における必見スポットのひとつになるのではないでしょうか。

事務所のリラックススペースにて

武井さんと久しぶりにお会いして、大仕事に取り組んでいる充実感がありました。

武井祥平さん(以下、武井):ここ3年くらいで、これまでの人生の経験が全部つながってきた感じです。以前は自分の専門性をよくわかっておらず、そのことが悩みでもありました。

ただ、聖火台の機構設計に取り組む過程を振り返ってみると、エレガントな動きの印象を守りながら、それをエンジニアリングとして実現するということは、自分だからこそできた仕事ではないかと少し自信が持てるようになってきました。

nomenaオフィス

もとは倉庫という奥行きのあるオフィス、大きな窓が並ぶのも倉庫としては珍しい

■万博にいたる総合力を生んだ、武井さんのユニークな経歴

武井さんの経歴は少し珍しいかもしれません。ご実家は工作機械の制御盤を扱う町工場。父親がエンジニアで制御盤のプログラムを書き、母親も家業を手伝い電気工事をする環境。

ご自身も子どもの頃から、はんだ付けや電線の製作はもとより、制御盤を納めるさまざまな工場に連れられて、たとえばペットボトルのブロー成型、コンベヤで流れてくる部品を画像処理で検査する機械、段ボールを次々に組み立てるロボットなどを見てきたそうです。

nomenaオフィス

1階には旋盤や工具が並びます。この写真の左型には大きなNC加工機もありました

■驚異を実現する方法、その探求を自らに課したnomena創業期

武井:起業してしばらくは、世の中で話題になっている演出技法や自分で見て驚かされたものを調べて、どう実現されているかを研究していました。世の中の一見不思議に見える物事がどのような仕組みで実現されているのか、すべて説明できるようにすることを自分に課していました。

聞かれて何でも答えられないと自分の存在意義がないなと思ったんですね。研究はだいたい5~6年やっていて、そこで学んだことを応用することで、だいたい何でも説明できるようになりました。

nomenaオフィス

エントランスから見えるスカイツリー

5~6年を長いと思うか思わないか、人それぞれかと思います。当時を振り返る武井さんの表情には、長かったという印象は読み取れませんでした。

起業して収益を出して事業を軌道に乗せるまでの焦燥感や緊張感は、社内新規事業という恵まれた条件でJDNを立ち上げた私でもヒリヒリと記憶しています。武井さんのヒリヒリ感はもっと大きいと想像しますが、心底好きなことだから続けられたのだろうと思いました。

■これからの話、何かしたいことは?

武井:もともと野望がないので困っていたのですが、2024年に開催したnomenaの個展で、すばらしい技術を持っている日本の企業とコラボした作品を展示しました。

精度に対するこだわりや感覚というような、日本のエンジニアリングの独自性、おもしろさを海外に発信していきたい。そうしたすばらしさが伝わるようなものづくりをしたい。昔から技術を培ってきた企業とご一緒できるといいな、と考えています。

nomenaオフィス

屋上からは隣接する待乳山聖天が見えます

武井:いろいろな技術部門の方とお会いして、「もっと自信を持ってよいのでは」と思うことがあります。ビジネスの枠組みで効率や合理を求め行き詰まったとしても、ポエティックな表現とか、論理じゃないけどなぜか好きなんだよねという領域で新しい光を当てると輝いてくることがあります。これは人間にとって本質的なことだと思います。

利便性を高めることでは人間の幸福につながらない、そういう時代になりつつあるように感じています。もともと効率や合理を実現するのがエンジニアリングですが、ポエティックなものにエンジニアリングを使っていきたいと思っています。

武井祥平さん

武井さんの仕事をはじめて見たのは2014年のミラノサローネ・サテリテです。JDNの親会社である丹青社の知人から「山崎さん、今年もミラノ行きますか?元・丹青社の人が関わっているグループがサテリテに出るので見てきてくださいよ」と連絡を受けました。

それが武井さんが加わっていたKAPPESというクリエイティブチームによる「MOMENTum(モメンタム)」でした。そういえば、これも水が主役かつ超はっ水を用いたもので、とにかく会場での注目度が頭抜けていたことをよく覚えています。

“心理学を学んで内装業というニッチ業界を見つけて丹青社に就職”という武井さんの経歴は私も同じなので、「わかる~」という感じでした。これからの活躍も楽しみにしています。では、また!

nomena
https://nomena.co.jp/

BLUE OCEAN DOME ブルーオーシャンドーム
https://zeri.jp/expo2025/

JDN 注目のデザイナー 武井祥平
https://www.japandesign.ne.jp/kiriyama/225_takei_shohei/momentum/

JDN 2014 ミラノサローネ国際家具見本市会場 フォトレポート
https://www.japandesign.ne.jp/salone/2014_fiera.html