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vol.03 山根Yuriko茂樹(イラストレーター・クリエイティブディレクター)

vol.03 山根Yuriko茂樹(イラストレーター・クリエイティブディレクター)

先輩の背中を見れば、向うべき道は自ずと見えてくる

2012グッドデザイン賞のカーリング女子「チーム青森」WE ARE TEAM-AOMORIキャンペーンでは「大漁旗」を使ってのアートワーク、サントリー「オランジーナ」のWebサイトやテレビ番組「モノランモノラン」まで、メディアを問わず縦横無尽の方法で活動する山根Yuriko茂樹さん。この数カ月を見ただけでも「あれもこれも知っている!」という作品数、まさに驚きの仕事ぶりです。インタビュー後半では、多くの作品を生み出し続けるための秘密と、被災地の仮設住宅をイラストレーションで彩る支援活動「くらしのある家プロジェクト」について伺いました。

クオリティを落とさないスピードを維持すること

彼らがいつも意識する、多くの作品と出会うための心構えとは…?
彼らがいつも意識する、多くの作品と出会うための心構えとは…?

茂樹(以下S) : 僕らが活動の上で大事にしていることには、お話してきた「クオリティ」に加えて「量」があるんです。クオリティを落とさないスピードってすごく大切なんですよ。常時仕事で頭と手をフルに動かしていれば体はきついですが、すんなりニュートラルからはいれて一気にトップにギアが入れられる。大きなキャンペーンが重なっている時に、声がかかっても頭が切り替えられ、すぐ臨戦態勢をとれる。なんせずっとエンジンに火が入った状態だから。
Yuriko(以下Y) : でもね、その状態が重要なんです。一旦火を消してしまうと、火をまた付けてアイドリング回して回転数上げて…って作業モードに入るだけでも時間がかかっちゃうから。

S : だってまだまだやり足りないじゃない。いつでも面白くて刺激的な仕事がしたいと思ってるから、全然時間も足りない。
Y : そうだよね。表現方法やイメージの異なるお仕事が平行して進むので、一日を区切って制作したりするんですが、さらに新しいことはやっていきたいですね。

被災地の仮設住宅を少しでも住みよく、心地良くするために

『くらしのある家プロジェクト』会津若松で子供たちと共に描いた
『くらしのある家プロジェクト』会津若松で子供たちと共に描いた

S : 広告制作などとは別に、2011年から被災地での『くらしのある家プロジェクト』に参加しています。東日本大震災の復興支援を続けているクリエイター達の活動なんですが、とても大切にしています。「被災地の仮設住宅を少しでも住みよくできないか」という視点で僕たちは、そこに住む子どもたちと共に案内表示を作ったり、壁面へペインティングするんです。このペインティング前には必ず、参加者の方々にウォーミングアップを兼ねてワークショップを開きます。絵が苦手な人でも楽しく参加できるように、手近なものや体の一部を使っての自由な表現の幅を身をもって知ってもらいます。するとみなさん、時を忘れるほど楽しんでくださるんです。実際に壁に大きな絵を描いた時なんて、子どもたちは喜びや楽しさで顏をピッカピカに輝かせていたんですよ。
Y : そうなんです。その喜びに、私たちが逆に感動をいただいているんです。「今日が一番楽しかった!」って感想を聞いた時には、このプロジェクトに関わることができて本当によかったと…またあの笑顔を見たいと思いますね。
S : 短い滞在期間だとどうしても一部の棟しか描けなくて、他の棟の方から「うちはどうして描いてくれないの?」と言われることもあるんです。僕たちも相当な熱量と責任感で取り組んでいるから、もっと頻繁にやりたくて仕方がない。ただ、仮設住宅の規定や事務手続きが想像以上に大変で、思うように進まないのがもどかしいです。昨年、岩手県の仮設商店街からいただいたたオファーもまだ実現できていないんですよ。もう少し行政や企業が柔軟に対応して下さるといいんですが…。
Y : 「うちにも描いて!」と言ってくれるおばあちゃんもいるのに、その棟には許可が下りてなかったりするんです。でも、このプロジェクトで改めて、イラストレーションが持つ未知の可能性を実感しましたね。まだまだ自分たちの力を生かせる場があるんじゃないかって。

すべての壁を破る突破口になりたい

判断基準はすべて「良い作品をつくるため」の想いに基づくものだ
判断基準はすべて「良い作品をつくるため」の想いに基づくものだ

S : 僕たちはイラストレーターだからといって、平面だけじゃ満足してないんです。今後もいろんなところにアプローチしていきたい。先日、初演出をも経験したアニメーションは積極的に制作していきたいですね。ただ、アニメーションに限らず、大がかりなセットを組んだり、タレントさんが出演するTV-CMの現場などは当然僕らだけでは実現できないし、いろんなジャンルのスペシャリストの方たちの手を借りないといけないので、難しい部分も多い。意見を戦わせることもあるでしょう。でも、高め合える人たちとどんな化学反応が起きるかも、楽しいじゃないですか。良い意味でも悪い意味でも自分の中での想い出度数が高い仕事は、特に悪い意味の方を徹底的に分析して、何故うまくいかなかったのか?どこに欠陥があったのか?原因を割り出せばクオリティや経験値の上昇につなげられると思う。現場の小さな奇跡を味方につけて、古くからの慣習や常識を打ち破る突破口になりたいと常々考えています。
Y : 稀に誤解されることもあって難しいけれど、すべては良いものを作るためです。
S : そんな僕らが若い人たちに言いたいのは、とにかく怖がらずに「ぶちかましてくれ」ということです。もちろん、年上に囲まれて怖じ気づく時はあるでしょう。昔を思い返せば「あの時怖がらずに言えばもっと良くなったのに」と思う仕事があります。でもね、先輩って経験豊富だから心からの敬意と熱意さえあれば受け止めてくれるものですよ。若い内は熱意しかないのだし、思いっきりぶつかればいい。やらなければ何も始まらないからね。
佐藤可士和さんのようにあらゆる境界を越えて活躍する先輩もいるわけです。そこは昔と同じで、彼らの背中を見れば自分がどこに向うべきか自ずと見えてくる。真剣に追いかけていけばなんらかのヒントは見つかると思うんですよ。イラストレーターって小さい枠の中でやっていても仕方がない。行かないと見えてこない景色もあるしね。さらに活躍できるステージはあるはずなので、できるだけ自分たちに合うステージを見つけ自分たちの色を加えていきたいです。

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