デザイナーのこれからのキャリア

デザイナーのこれからのキャリア
第1回:バスキュール代表/クリエイティブディレクター 朴正義氏

2014/12/24 UPDATE

Vol.2「無限の入力がある永久エンジン」を作れるか?
デザイナーに必要なのは、プログラム能力ではなく“構想する力”

朴正義氏 (4)

― バスキュールの作るものは、どれもとてもクオリティが高いですよね。朴さんはクリエイティブディレクターとして、どの点をチェックしているんですか?

朴 : 僕が気にしているのは「継続可能な入力を作れるかどうか」です。インタラクティブなコンテンツは、基本的には装置。外部からの入力がないと作動しないし、入力に対して出力して、それがまた次の入力を促す、いわば“永久エンジン”みたいなモノを作らないといけないんですよ。それができれば人気コンテンツになるし、できなければ失敗を認める。間違ってもアートを気取っちゃいけない(笑)。

― 朴さんは、グラフィックデザイナーでもインタラクティブ領域にどんどん入ってきて欲しいとよくおっしゃっていますよね。グラフィックデザインや建築の分野からデジタルの領域に入るのはハードルがあると思うのですが。

朴 : うーん、まあ、いきなり車やカメラのプロダクトデザインをしろと言われても構造がわからないとできないと思うけれど、毎日自分がユーザーとして使っているWebサービスなどが対象であれば、すぐにやれると思いますけどね。むしろ、ハードルが全然無いことがハードルなんじゃないかな。従来のグラフィックデザインの世界である程度ヒエラルキーの上に位置した人でも、また肩を並べてゼロから始めることになるので、自信がない人は辛いかもしれない。でも逆に、自信がある人は間違いなく成功すると思う。

それと、デジタルの利点であり、厄介なところでもあるのは、リリース後にカンタンに直せちゃうところ。悩んでいるヒマがあったら、作って直す。まあ、それがプライドに触る人もいるかもしれませんけれど。デジタルのデザインには、残念ながら明確な仕様上の制限がありません。自由度が高いからこそ、かくあるべしと自分でルールを設計する必要がある。それが構想できるアタマがある人は、きっと向いている。あっという間に一流ですよ。

あとは、タフな心ですね。従来のグラフィックデザインの世界では、デザイナーにネガティブな声は届かないものだと思うけれど、ネットは直撃をくらいますから。

― 私も元々はデザインをやっていて、ネットが出てきて検索サイトで何でも用が済んでしまう時代になったと感じて、「デザインの居所はどこだろう」と不安に思ったことがあります。

朴 : Googleみたいな検索サービスだって、一見そうは見えないけれど、実はすごくデザインされていると思いますよ。デザインは見てくれだけじゃなくて、キチンと機能しなくちゃならない、という考え方が定着してきたんじゃないかな。そこに、デザイナーと呼ばれる人が入っていけば、もっともっと良い世の中になると思う。

朴正義氏 (5)

― ネットのデザインはプログラミングの知識が必要だと思っている人も多いようですね。

朴 : いや、必要無いですよ。だって、僕が一切出来ないですから(笑)。必要なのは、構想する、シミュレーションする力です。構想していないデザインは、見てすぐわかる。ただ「こうして」って指示されたからやっただけで、何のためにソレが必要なのかわかってない。そういうのが見えると、僕は“激おこ”ですよ(笑)。印刷物だったらデザインのデータ入稿をしたらあとは印刷するだけなんだけど、ネットはそれを受けてエンジニアが動くように組み上げなくちゃいけないんですよ。だから、十分な体験フローを考えていない適当なデザインを渡すなんていう仕事ぶりは認められないです。

エンジニアは動くものを作らないといけないので、デザイナーのオリエンを聞きながら、その場でシミュレーションをしてくれる。だからデザイナーが「プログラミングが出来ないと」なんて思う必要はない。こうしたいんだという思いをしっかり伝えさえすれば、エンジニアが吸収してくれます。エンジニアの方こそ、デザイナーがどうしたいと考えているのか、その思いをしっかり拾いたいんです。それに美しいグラフィックの方が、気持ちも盛り上がるし、嬉しいと思ってくれるんです。

― デザイナーとエンジニアが、良い“化学反応”になるのですね。

朴 : エンジニアだって、良いもの、美しいもののほうが触っていて楽しい。そうした単純なことに、デザイナーがもっと気づけば良いんだと思います。