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12カ月のパリ
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第16回 (5)
Masayo Ave in France ── 後編




本稿を書き始めた頃、阿部さんは再び南仏マルセイユ市に招聘され、プロジェクトを手がけ始めていた。マルセイユ市の企画で、デザイナーと仕事をしたこともないし、デザインが何かもよくわからないという、地場産業を支える地元の中小企業とデザイナーを組ませて製品を開発する、という実験的な試みである。装飾や芸術文化の歴史は深くとも、地元の産業とデザインの関わる歴史が浅いフランスの地方都市において、一般の人々とデザインとの関わりは始まったばかりである。またそれは、パリを中心にして、広告的な効果だけでデザインと関わっていた浮かれた時代を過ぎて、政治的にも経済的にも不安定な要因を多く抱える現代において、地場産業の存亡を賭けた解決法を求める関わりである。しかし、このような状況の中で、未知の土地の産業に関わる人々と、「外の目」を生かして一つずつ一緒にデザインを育てて行く仕事は、難しくとも、むしろやりがいがあり、希望が持てる仕事だと阿部さんは言う。「デザイナー」の興行看板をあえて前面に掲げず、個人として一つずつ仕事を育ててゆき、それが次のリクエストを呼ぶという方法で、阿部さんのフランスでの仕事は、静かに進行している。

今回の4名の方々のインタビューを通して気付いたことは、阿部さんのフランスでの仕事は、ヨーロッパのデザイン界の粒よりの理解者はもとより、ごく一般の人々にも支えられ、慕われていることである。

また言い換えれば、フランス及びヨーロッパという枠組みを越えた、「好奇心」を日々の創作アンテナにして、「直観力」を働かせ、「繊細さ」と「コミュニケーション能力」をデザインの原動力にすることが、現代の、またこれからのデザイナーに求められることなのだろう。経験を重ね、実力をつけるほどに、更なる目標のためにトレーニングに励む阿部さん。彼女が言う「デザインは育てるもの」という言葉に、何事においても「育む心」を自覚していくことの大切さを教えられた。この言葉が、明日のデザインがどうあるべきかを模索する現役デザイナー、もしくは将来のデザイナーを目指す人々にも大きく波及し、影響していくことを大いに期待する。

デザイナーの任務は、世にデザインを誕生させた時点で終了するのではない。生命を授け、命名した提案に、社会で成長していくための道のりを築いていくことこそが、デザインへの真の挑戦であり、はじまりである。

最後になるが、今回の記事を発表するに至り、阿部雅世さんの多大なご支援があり可能となった。ご多用中、快くインタビューに応じて頂いたFR66のマリリン、フレデリック、遠隔からメールにてご協力頂いたハンス・マイヤー・アイヒェン氏、INDUSTRIELLEのジェローム・ラール氏に心より御礼を申し上げる。


注)文中のインタビュー箇所では、アルファベット表記でMasayo Aveとさせて頂きました。

 Masayo Ave creation サイトアドレス
 http://www.macreation.org



※関連コーナー → JDN /Gallery /阿部雅世






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【 16 】 calisson(カリソン)=エクサン・プロヴァンス地方名産のアーモンド菓子

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【 17 】 chocolaterie de Puyricard(Marseille, Aix-en-Provence)との協力で、デザインされた新しいチョコレートの試作品。Design: MasayoAve 2003
calisson-offは、菓子を構成する型抜きされたウェハース部分を使用している。

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【 18 】

写真は一部を除き、全て ©Masayo Ave Creation



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