2012/07/18 UPDATE
文田昭仁氏は、店舗デザイン業界大手であるリックデザインを経て1995年に独立。以来、数多くのアパレルブティックやショールームを手がけてきた。代表作である「日産銀座ギャラリー」や「東京モーターショー日産ブース(2002年)」などの革新性は今なお語られる。店舗デザインの現場におけるVectorworksの文田昭仁流活用術を、近年手がけた事例を通して紹介する。
理想を現実に落とし込む
店舗デザインの仕事のスタートは、区画図面を受け取るところから始まります。定期的に手がけているアパレルの物件などでしたら、百貨店や商業施設に出店が決まったタイミングで売場の図面を渡されます。まったく新規に手がける物件も同じように、場所が確定した段階から参加していきます。
僕は基本的に、クライアントの要望や理想はすべて聞いて、それがどうやったら実現できるかどうかを考えるタイプです。僕自身も常に成長していきたいと考えているので、自分のキャパシティを越える要望だったとしても、それは僕にとってもチャレンジになると思っています。もしクライアントの理想があまりにも膨らみ過ぎていたら、それを現実に落とし込むように、徐々に具体化していきます。
最初からCAD図面でデザインを提案しますね。僕自身のデザインがおおよそ整ってきたら、スケッチをスタッフに渡します。スタッフは僕のスケッチを解釈しながらCAD図面にしていきます。スタッフが単なる“図面描き屋”にならないように、彼ら自身が思考しながら描くプロセスがあることが、成長のプロセスに欠かせないと考えています。描いたCAD図面の出力に、僕がペンで指示や再検討してほしい部分を実際に描き加えて戻す、といったことを繰り返しながら、デザインの精度を上げていきます。
通常は模型を作りません。理由としては、2次元で進めていれば修正も臨機応変にできるというCADのメリットが大きいのですが、模型を作ったというリアルな作業の充実感やスタッフの苦労を思うと、ダメ出しの決意が鈍るというか(苦笑)。もちろん、僕自身が手描きの世代なので2次元の図面から3次元をイメージすることに問題はありませんし、若いスタッフにも図面の読解力、実際の空間を想像する力は必要だと思っています。こうした考えのベースがあってのことです。とはいえ、特殊な立体形を提案する場合には、ラフな3Dデータを作ったり模型を作ることはあります。イメージした形を確かめ、実際に作れる形なのかどうか検証するためです。
Vectorworksの線で色を意識的に使い分ける
図面を描く上では、“どうしたら伝わるか”ということを、最も重視しています。VectorworksのCAD図面は自分の手のスケッチの延長線上にあって、より高い精度で自分のイメージを確かめられるものです。
図面上で意識的に使い分けているのは、色です。
同じ細さの線でも黒と赤と黄色で色分けして、それをモノクロでプリントすると、色によって線に強弱が出ますよね。そのニュアンスで奥行き感や強調したい部分を示しています。
最近はデータで図面の提出を求められることも多いのですが、相手方がモノクロでコピーすることまで想定すると、色がついている図面データが、そのままモノクロになっても同じように分かってもらえるようでなければいけませんよね。スタッフにも『色がなくなった途端に分かりづらくなる図面はダメだよ』と常に言っています。この色分けも、階調を少しでも増やすためにスタッフが考案した手法です。
自分のことを振り返ると、ドラフターからMacに乗り換えた当時、CADに変えたときは感覚が慣れないせいもあって、なんだか気持ち悪かったんですね。やけにペタっとした図面に感じられてしまって…図面は3次元のものをいかに2次元でイメージさせるかが大事だと思っていたので、多少の違和感はありました。
いまは、図面のルールをガチガチに管理しているわけではないのですが、事務所内ではこうした色使いは共通ルールとして運用しています。新しく入ってきたスタッフにもすぐに理解してもらえますよ。みなさんにも、どんどん真似してほしい手法です(笑)
vol.2:「CORE JEWELS」の場合
空間を扱うデザイナー、設計者にはお馴染みのVectorworks。最新版の2012は、Designer(デザイナー)、Architect(アーキテクト)、Fundamentals(ファンダメンタルズ)の3種。全てレンダリング用のRenderworksを伴ったシリーズがあり、仕事の領域によって選択できるようになっている。
http://www.aanda.co.jp/Vectorworks2012/
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