福岡市の筥崎宮参道に面して建つ、住宅併用のオフィス「TETUSIN DESIGN RE-USE OFFICE」。
建物を真っ二つに両断し、一方をスケルトンにしてしまったようなアート作品にも見える建築を手がけたのは、yHa architectsの平瀬有人さん・平瀬祐子さん。空間のコンセプトや特徴などについて、コメントをいただきました。
■背景
クライアントがキャンパス跡地の歴史的建築物の保存活用に取り組んでいたこともあり、建設にあたっては、九州大学箱崎キャンパス跡地で解体直前だった洋館建築「九州大学松浜厚生施設」(1928年竣工)の部材を大学より譲り受けることになった。取り壊し直前の限られた時間と予算の中で象徴的なファサードと室内の建具・階段を生け捕りし、新しい敷地で部材の再構築を行った。

解体前の「九州大学松浜厚生施設」 ©yHa architects
■コンセプト
いわゆる文化財保存のように跡を元にした厳密な修理を行うのではなく、歴史的要素の選択的転用により、歴史的価値を新しい建築に繋ぎ合わせる「スポリア(西洋建築において彫刻や円柱などの要素を別の建物に転用し再利用する行為)」的な記憶の継承をコンセプトに掲げた。
新しい建材の横に古い建具枠が配置されるなど、時間差を感じるエレメントを並置することで重層的な意味を与え、ものを介した記憶の継承を試みた。これは複数のエレメントの同時併存を許容する論理であり、デザインの前提条件に「時間」のパラメーターを加える作業とも言える。

©Yousuke Harigane
■特徴
元の敷地から約800m離れた新しい敷地への部材再構築にあたり、周辺環境への調和や準防火地域などの敷地条件に適応しつつ、3つの記憶の継承が必要だと考えた。その記憶とは、まちの風景の一部となっている外観の象徴的なファサードの「都市的記憶」の継承、気積が大きく荘厳さを伝える階段室の「空間的記憶」の継承、特徴的なファサードの色や力強い建具枠といった建築の持つ「物質的記憶」の3つである。
新たなファサードは、「実」としての歴史的建造物のボリュームを再解釈し、「虚」として鉄骨フレームで骨格をつくることで、対比的な構成とした。既存の形態を想起させるような鉄骨フレームは、緑化による立体的なランドスケープや居住者の環境の変化に合わせた拡張性などを担保している。

©Seinosuke Kaneda

©Yousuke Harigane
テント膜の屋根により室内はやわらかな光で満たされ、外部には行灯のように光を優しく拡散する街の新しいシンボルとなる。お祭りシーズンには建物前の筥崎宮参道沿いに約500軒並ぶ白テントの露店との一体感のある風景が生まれ、地域づくりにも取り組むクライアントを中心に、まちの人びとが集う新たなカルチャーを生み出す場所になっていくだろう。

©Yousuke Harigane
所在地 | 福岡県福岡市東区箱崎 |
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設計 | yHa architects |
施工 | イクスワークス |
構造 | 木造 |
敷地面積 | 310.71m2 |
延床面積 | 117.27m2 |
竣工日 | 2021年3月 |
撮影 | ©Seinosuke Kaneda、©Yousuke Harigane、©yHa architects |