Nagasawa COFFEE

テーブルの余白、コーヒーの背景

岩手県盛岡市にある「Nagasawa COFFEE」は、2018年9月にリニューアルオープンしたコーヒーショップです。コーヒー生豆の仕入れ、焙煎、抽出、提供までを一貫して手がけ、コーヒー豆の購入はもちろん、カフェスペースでコーヒーやスイーツをゆっくり味わうことができます。

リニューアルの設計を手がけた、アリイイリエアーキテクツの有井淳生さんに、リニューアルの背景やコンセプト、特徴についてうかがいました。

■制作背景

Nagasawa COFFEEは2012年のオープンから6年以上経ち、すでに街に定着している店でした。

移転に踏み切った大きな理由は、クライアントがずっと思い描いていた1960年代の焙煎器を導入することでした。この焙煎器は当時の店舗には大きすぎたそうですが、ちょうど元の店舗の隣に、良い広さの物件が空いたことも理由のひとつです。

■コンセプト・特徴

興味深かったのは、元の店舗からおおむね倍になる面積に対して、席数を増やさないというクライアントからの依頼です。広がった分は焙煎器やキッチン、作業場にあてられ、お客様用のスペースが割合として縮まる方向となりました。カフェや喫茶店はお客様の居場所という側面が強いなか、求められているのは純粋なコーヒーのための場所なのだと感じました。

私たちは、彼らに大きな低いテーブルを提案しました。6×1.5mサイズのテラゾタイルでできたテーブルは、店の前面の通りに直交するように店の中央に置かれ、コーヒーを飲む人、雑談する人々、焙煎作業をする人が取り囲み、カップやお菓子、商品が鎮座するコーヒーのランウェイ、コーヒーにとっての特別な床のようになりました。

可動家具の自由さはあえて持たせず、固定のテーブルをスペースの許す限り大きく作ることで、真ん中に不可侵の余白が生まれました。それは自然とコーヒーが供されるときの背景になり、コーヒーを主役にさせます。訪れる人々がふとコーヒーと向き合える、そんな瞬間を思い描きました。

地方の都市において、小さな商店が時として大きな文化的役割を担うことがあります。私たちの設計した大きなテーブルが、盛岡という都市の家具となり、一つのシーンをつくっていくことを願っています。

アリイイリエアーキテクツ
2015年に有井淳生さんと入江可子さんによって設立された建築事務所。東京を拠点に、住宅からインスタレーション、公共建築、都市空間にいたるまで、さまざまなプロジェクトを手がけている。
http://www.ariiirie.com/
所在地 岩手県盛岡市
設計 有井淳生、入江可子/アリイイリエアーキテクツ
施工 岩井沢工務所 
構造 木造
延床面積 98.56m2
竣工日(開業日) 2018年9月16日
撮影 中村絵