菱形で組まれたファサードが特徴的なこちらの建物は、岡山県の集成材メーカー・銘建工業株式会社の本社屋です。
設計を担当したのは、福岡を拠点として活動する一級建築士事務所のNKS2アーキテクツと、大阪の建築構造設計事務所の桃李舎。同建築の特徴などについて、NKS2アーキテクツさんにコメントをいただきました。
■背景
はじまりは「1,000m2のオフィスをCLT※の長尺材を活用してつくる」ことを目的とした日本CLT協会主催のコンペでした。施主の銘建工業は集成材とCLTの製造と施工を手がける企業で、本社屋はCLTが活きるショールームを目指しました。
※CLT:ひき板を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料
3m×12mという大判サイズのCLT材を使い切ることや、木肌の温かさを実感してもらえる架構システムなど、大まかな建築計画はほぼコンペ時に固まっていましたが、本社屋の使い手となる社員のほとんどにとって、コンペは遠くで起きている他人事でした。そこで設計開始と同時に若手社員から選抜されたプロジェクトチームが結成され、設計は彼らと一緒にコンペ案を見直し、お互いのギャップを埋め、再構築していく作業となりました。
施主は木造施工のプロのため、プロジェクトチームに加え、意匠や構造、設備、施工、製造、調達など専門性を持つ社員が代わる代わる参画しました。彼らと一緒に建物の使い方やつくり方、見せ方を同時に考え続けた2年間でした。
■コンセプト
設計上の目標の一つに掲げたのは、主要な構造体であるCLTの存在感をできるだけそのまま表現することです。大判のCLTを接合するラチス状の金物やV梁を接合するボルトなど、構法的に必要な取り合い部分を合理的にデザインし、そのまま意匠的にも見えるようにしています。これはたとえば、伝統的な日本の木造建築において、柱と梁が取り合う仕口の形を工夫しながら構法的に必要なくさびをそのまま表現していることと同じ考え方です。
また、将来的に起こりうる調整やメンテナンスに対しても柔軟に対応できる仕組みであるとも言え、木という素材だけでなく、構法も含めて直截的に表現することが、伝統的な日本の木造建築の系譜に連なると考えました。
■課題となった点、手法、特徴
架構システムは、「菱組」と名付けた集成材の斜め格子を並行に配置し、CLTを用いたV型の梁と折板構造の屋根を橋のように掛け渡す構造になっています。菱組は耐震要素なので、CLT耐震壁は菱組に直交する方向だけでよく、よってCLT(壁式)構造の課題でもある閉塞感をなくして開放的な空間を実現しています。
CLTは大判を活かして最小枚数で構成し、鉄骨を溶接した「ラチス」を接合金物として用いました。CLT自体には孔を開けず、ラチスで繋ぐことで連続した隙間をつくり、そこに光と風を通す窓を配置しました。

敷地形状に合わせ、建物を分割してずらすことで、内部の構造や空間にもずれと動きが生じ、菱組がゆるやかに空間を分節しながら動線がつながる一体空間ができあがりました。東側のエントランスまわりには共有スペースがあり、そこから半層下がった1階と2階にある執務室までが、中央の吹き抜けを介して一体的につながっています。
この一体空間の外皮を十分な断熱材と気密性を保つエアバリアでくるみ、室内に温湿度調整した新鮮な空気を循環させるシステムを構築しています。南側に大きく開いた窓や吹き抜けのトップライトから光が取り込まれ、コンディションの異なるさまざまな場所を生み出すとともに、そこに加わる大小の階段、小部屋、照明、空調がそれぞれの居場所をさらに特徴づけました。複数の建物に分散していた部署がひとつ屋根の下に集結し、フリーアドレス席やカフェスペースを活用した新しい働き方も始まっています。

展示スペースとして活用される大階段

交流の場となるキッチン

吹きぬけに面した執務スペース

フリーアドレススペース
所在地 | 岡山県真庭市 |
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設計 | NKS2アーキテクツ+桃李舎 |
施工 | 大本組、銘建工業、双葉電機 |
構造 | 桃李舎 |
敷地面積 | 1398.17m2 |
延床面積 | 991.91m2 |
竣工日 | 2019年12月 |
撮影 | エスエス企画、銘建工業 |