K8ビル

木製ルーバーがテクスチャーになったファサードと、階層に縛られない繋がりのある内部空間

デザインコンセプト
担当:フロリアンブッシュ建築設計事務所

京都・四条河原町から木屋町通を高瀬川に沿って上り、町割りの名残を留める小さな間口のビルが建ち並ぶ、わずか幅5m、50平米の隙間が計画地である。東に鴨川が流れる先斗町は、都市の規制によって残された低層の木造家屋が独特なアイデンティティを生んでいる。一方、先斗町の西を走る木屋町通ではこのような規制が無かったために、煩雑でありふれた繁華街ができあがった。そのふたつの川によるコントラストの狭間によってできた独特な雰囲気のなかにK8ビルが建つ。

景観条例や京都ならではの狭小敷地など、さまざまな制約の中で、今までとこれからの先斗町らしさを引き継ぐ建築とはなにか、という手がかりを都市空間から見出そうとした。先斗町の路地空間に着目し、路地から小路が直行するように伸びていくさま、小路のその先に魅力を感じる空間体験を建物内部に取り込もうと考えた。水平に広がる路地空間を垂直方向へ展開すると、4層の建物の中心に階段を挿入することになり、それは建物中心を貫く路地となる。それに絡み付く8つの空間は、階高のすべて異なるスキップフロアとして小路のような場所となった。垂直方向の人の動きが空間を緩やかに繋げながらも分割する、路地のようなシークエンスが先斗町の路地へと繋がっていく空間が立ち現れた。

・階段
都市空間から着想したコンセプトと狭小の敷地条件を考慮した結果、エレベーターではなく階段を効果的に使うことで、階層に縛られない繋がりのある空間を提案。垂直方向のみならず、さまざまな方向に視線や人の動きを繋げる効果を空間の軸となるこの階段に求めた。そして空間を繋げつつも階段それ自身の存在感を抑えるために、できる限り小さな断面の鋼材で階段を検討。9mmの鉄板を折り曲げ、桁を無くすために一段一段を直径12mmの丸鋼で構造体から吊るす。すると相当数の丸鋼が空間のなかに現れてくることになる。後述のファサードの垂直ラインと混ざり合うような見え方となり、空間全体に程よい粗密をつくりだす効果をもたらす。

・ファサード
均質さを保ちながらも変わり続ける表情、京都の伝統的な建築から感じる経年変化や透明性といったある種の曖昧さを表現。数百の木製ヒノキルーバーの角度を緩やかに調整することで動きの感覚を呼び起こすファサードをつくり、それが都市のテクスチャーに連続するような効果を生み出すよう設計した。街ゆく人々にとってこの建築は何階建てなのか、どのくらい奥行きがあるのか、内部が見え隠れする繊細な存在感をつくり出すために角度の検証を緻密に行った。

両端部に向かって角度を浅くし、端が視覚的に密になることで物質性を帯び、両側の既存ビルの静止した表情に切れ目無く繋がる。また逆に、中心部に向かっては透明度が高くなるように調整することで、内部へのかすかな手がかりを外部へ与えるようにした。建物から離れて歩くほどにその効果は大きくなる。

先斗町という京都のまちなみにとって意味を持つ場所で、物理的な内部空間とともに外部への表情を再考することで、伝統や歴史を現代の秩序につなげる建築となった。

所在地 京都市河原町
設計 フロリアンブッシュ建築設計事務所
主要用途 商業施設
竣工年 2015年12月
延床面積 155.98m2
最高高さ 16.7m
階数 地上4階
主要構造 鉄骨造
撮影 Nacasa & Partners