「新しい生活様式」が注目されている今、さまざまな業界で新たな取り組みが求められています。今回ご紹介する「ドライブスルー査定 ガリバー高松中央店」は、そんな時代を先取りした取り組みを空間で実現しています。
設計を担当したのは、株式会社スタジオモブの齋藤慶和さんと中尾彰宏さん。どのようにしてこの「ドライブスルー査定」というコンセプトが誕生したのか、お話をうかがいました。
■背景
香川県高松市の国道沿いに位置するガリバー高松中央通り店。クライアントである株式会社IDOMは中古車ガリバーを展開する上場企業です。従来は国道沿い地域エリアに店舗を点在させ、店舗数を増やしていくというビジネスモデルでしたが、近年はショッピングセンターなどの大型店舗に集客させることが主流になっており、既存の小店舗の活用方法について相談を受けました。
クライアントと打ち合わせを進める中で、国道沿いという敷地条件に対し、ランドリーの併設やカフェ事業の展開などいろいろな新規事業の提案をおこなっていましたが、その一案として「ドライブスルー」が挙がっていました。
ちょうど同社が開発していたITシステムと「ドライブスルー」という仕組みがうまく融合するのではということで方針が決定し、最終的に接客をメインとする既存の店舗から、直接対面せずとも車を査定できるドライブスルーシステムを導入した「リアル店舗型ドライブスルー店」の出店が具体的な要望となり、計画がスタートしました。
■コンセプト
「ドライブスルー査定」という革新的な取り組み自体を、国道沿いのシンボルやアート、そして建築的な視点から人々が待機する行為や情景として捉え、それらを含めた世界観を表現できないかと考えました。国道沿いであることから、ドライバーの視点や車の速度を考慮し、文字やアプローチとなる矢印が国道沿いに浮き立つよう、「看板としての建築」をつくることを提案しました。
あくまでここで求められたことは、第一にドライブスルー査定であり、第二にその運用が外部からも明確に伝わること、つまり看板やサイン計画、誘導方法です。ガリバーにとって店舗設計における看板は、集客と来店促進の役割を担い、そこに店舗があるということを顧客へ伝えるための有効かつ重要なコミュニケーションツールだと考えられていました。
僕たちは建築家であるからこそ、表層的に看板を捉えるのではなく、目的に応じたシンボルにも成り得る「看板としての建築」をつくる必要があると考えました。
■課題点、手法
課題になったのは、今後の多店舗展開を考えた際に、地域や規模によって建築制限が出ないようにすることです。そのため、法的条件を考慮して「看板という機能を持ちながらも工作物未満」となるように設計を行いました。
手法としては、査定システム専用アプリ「ガリバーオート」のアイコンカラーとトンマナを合わせ、「ドライブスルー査定」という世界観を実空間に再現しました。透過性のあるエキスパンドで壁をつくり、そこにサインや誘導矢印をアートやオブジェクトとして設置することで、アイキャッチの役割を与えました。
壁面だけでなく、路面では大小さまざまな形状の矢印を必要以上に描くことにより、誘導という機能性だけではなく、それ自体をアートへと昇華させています。サインとしての必要事項を、形態が機能を超え、さらに世界感を表現するということへの挑戦でもありました。
また、従来のように箱型店内という閉鎖的な環境で待ち時間を過ごすのではなく、「外で過ごす待ち時間」そのものが豊かさに繋がるのではと提案したところ快諾いただき、時代の先駆けとなる遠隔運用可能な店舗形式の建築が誕生しました。
エキスパンドの軽やかで透過性のある壁を雁行させ、人や植物、サインを等価に考えることで公園のベンチのような存在となり、専用アプリ「ガリバーオート」のメインカラーを踏襲した世界が日本各地に立ち現れることを期待しています。
所在地 | 香川県高松市東ハゼ町17-24 |
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設計 | 株式会社スタジオモブ |
施工 | 株式会社土手工芸 |
構造 | 鉄骨造 |
敷地面積 | 敷地面積 |
延床面積 | 約50m2(塗装部分まで含むと約100m2) |
竣工日 | 2020年4月 |
撮影 | Atsushi Shiotani |