そんなミナ ペルホネンのものづくりのあり方を「つぐ」という言葉からひも解く企画展「つぐ minä perhonen」が、2026年2月1日まで東京の世田谷美術館で開催されています。

本記事では、「つぐ」をテーマにしたミナ ペルホネンの想いや、展示の内容をレポートします。
すべてが繋がり、継がれていく
開幕に先立って開催された内覧会では、ミナ ペルホネン創設者の皆川 明さんと、デザイナー兼代表の田中景子さんが登壇し、展覧会のテーマや展示作品について語りました。

左から、ミナ ペルホネン創設者の皆川 明さん、デザイナー兼代表の田中景子さん photo:山本倫子
ミナ ペルホネンの展覧会といえば、2019年での東京都現代美術館を皮切りに国内外で巡回された展覧会「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」が記憶に新しいでしょう。
皆川さんは、「『つづく』展はその言葉の通り、継続性やさまざまなものが“続いていく”という表現を私たちのデザインを通してご覧いただきました。さらにそこから私たちは、『続いている様子とはどのようなものなのか?』ということを深掘りしていきました。
『つぐ』という言葉にいたったのは、デザイン一つひとつから次のデザインへ派生していったり、同じテクニックから次の新しい開発へと向かっていったり、すべてが繋がり、継がれていくことが起きているのを感じたからです。
この展覧会では、工場の様子も同じスケール感でかなりリアルに再現しています。ひとつのアイデアから職人さん、素材へとさまざまなものが継がれてく。ものづくりの中にある『継ぐ、告げる、注ぐ』など多様な『つぐ』があることをお伝えしながら、『つぐ』ということから何を感じて日々のものづくりをおこなっているかを、ご覧になったみなさまに考えていただけるような展覧会にしたいという想いで準備してきました」と、内覧会で語りました。
多彩に、豊かに、広がり続けるミナ ペルホネンの世界
本展は、普段は世田谷美術館の所蔵作品展をおこなうことが多い、2階の展示室も含めた空間で展開。「chorus(コーラス)」や「score(スコア)」「ensemble(アンサンブル)」など、音楽にまつわる言葉になぞらえ、6つのテーマで構成されています。

館の特徴でもある展示室へと続く空間。2017年に発表された「jardin(ジャルダン)」が彩る
エントランスに入って最初に出会う空間「chorus」には、ミナ ペルホネンがこれまでに発表してきた1,000種類を超えるテキスタイルの中から、180種類ほどが並びます。

隣接する砧公園の自然との調和も楽しめる「chorus」 photo:山本倫子
鳥やうさぎなどの生き物の柄や、さまざまな種類の花をモチーフにした柄、幾何学やプリズムを発想源としたデザインまで、それぞれのテキスタイルがまるでハーモニーを奏でながら広がっていくような、あたたかくもワクワクするインスタレーションが展開されています。
続く「score」の大空間にも21種類の柄がピックアップされ、譜面の中の音符のように展示されていました。ここでは、どのような構想から柄が生まれたのかを紹介しています。

「score」。本展の会場構成は建築家でデザイナーの阿部真理子さんが担当
想いがアイデアになり、そのアイデアが試作を繰り返すことでデザインに落とし込まれ、その後、実際に生産されるテキスタイルとなる。会場では、ミナ ペルホネンの構想が読み取れる貴重な原画やプリント・刺繍の指示書、そこから生まれたアイテムが一緒に展示されていました。
展示されていた柄のひとつ、1995年のブランドスタート時に初めての刺繍柄として発表された「hoshi*hana(ホシ・ハナ)」は、手で刺繍したかのような有機的な仕上がりを機械で表現したシリーズ。人間が描いたデザインのイメージと機械の機能が協働することで、ブランドを象徴する表現方法になると気づくきっかけになったそうです。

1995年にブランド初の刺繍柄として発表された「hoshi*hana」
また、デザイナーとして入社して間もなかった田中さんが、紙に絵の具を塗って色紙をつくり、細かな切り絵で原画を制作した「triathlon(トライアスロン)」は、それを忠実に表現しようと取り組んだプリント工場の高い技術力によって生まれたテキスタイル。
2003年に発表されて以来、幾度となくアイテムに使用され、前回の『つづく』展では図録カバーのデザインにも用いられるなど、ブランドを代表するテキスタイルのひとつになっています。

2003年にデザイナーとなった田中さんが初めてデザインした「triathlon(トライアスロン)」
会場では展示物の傍らに、テキスタイルの名前や、デザインのアイデアが生まれたときのエピソードなどのテキストも綴られています。一つひとつのテキスタイルに広がる物語の奥深さに、多くの方がぐっと引き込まれることでしょう。
「score」のさらに奥の空間へ進むと、テキスタイルづくりの中心にある3つの技術「刺繍」「プリント」「織」と、それらを担う国内の工場での制作過程を紹介する展示「ensemble」が広がります。

「ensemble」
デザイナーが手作業で描いた図案を、テキスタイルとしてどのように魅力的に表現するのか。ここでは、ミナ ペルホネンの最大の魅力と言っても過言ではない、機械と手仕事の“ちょうどよい関係性”によって生み出された唯一無二のアイテムがどのようにつくり上げられているのか、さまざまな対話や試行錯誤の様子を臨場感あふれる映像と道具で伝えています。

プリントを紹介するスペース
刺繍の場合、人の手でひと針ひと針刺繍しているような糸運びを機械で表現するために、熟練の職人が「パンチデータ」と呼ばれる情報をつくります。糸で描いていく刺繍でデザイナーの手描きの図案をどう表現するのか、線の強弱や筆致の濃淡などの表情・表現のニュアンスをデザイナーと職人が相談し、試作を重ねながら微調整してつくり上げています。

刺繍を紹介するスペース
プリントにおいても、デザイナーの原画をもとに工場の職人が工程や仕上がりを想像しながら、刷る版の数や、何色から染めていくのかの調整などをおこなっているそうです。さまざまな工程を経て、丁寧にプリントされているミナ ペルホネンのテキスタイルでは、なんと10枚以上の版を重ねて表現する柄も珍しくないとのこと。

プリント作業をおこなう様子を実寸大の映像で投影
また今回、皆川さんが面白い試みと紹介してくれたのが「humming(ハミング)」のスペース。1階展示室の少し奥まった場所ながら、大きな窓からさんさんと光が差し込む明るい小部屋で、ミナ ペルホネンのアトリエが再現されています。

「humming」
さまざまな画材や道具が置かれた大きな机に、横並びに置かれた椅子。壁にはメッセージが書かれたカードや便箋などが貼られ、思わずすみずみまで観察したくなってしまいます。
会期中には、皆川さんと田中さんがオフィスへ出勤して仕事をするように、この場所へおもむいて普段と同じように仕事をするとのこと。出勤日は、展覧会の公式サイトイベントページに随時掲載されるので、ぜひチェックしてみてください。
持ち主一人ひとりの人生に寄り添う、ミナ ペルホネンの洋服たち
続く2階の展示室では、リメイクをおこなう公募制プロジェクトの展示「remix(リミックス)」が展開されています。これは、長く着続けてきたことでサイズアウトしたり、ほつれやスレ、シミがついてしまったりと、修繕が必要になったアイテムを募り、デザイナーらが新たなデザインを加えてリメイクをおこなう、初めての試みを経て実現したもの。

「remix」
今回、リメイクを施した12点の洋服には、持ち主の喜怒哀楽がつまったエピソードと、リメイクに際しての要望、そしてそれを受けてデザイナーがどのようにリメイクをおこなったのかなどの詳細なテキストが添えられています。リメイク前の写真の横にリメイク後の実物が置かれ、とても興味深く、思わず泣きそうになるエピソードもありました。
なお2階では、皆川さんや、ミナ ペルホネンとの協業や親交がある方々が登場するインタビュー映像が紹介されている「voice(ボイス)」の展示もあります。残念ながら取材当日は撮影ができなかったため、ぜひ直接美術館を訪れてお楽しみください。

本展のためにミナ ペルホネンのテキスタイル仕様になったベンチ。2階にあがる前の廊下に設置されている
音声ガイドや特設ショップでのアイテムも必見
本展の展示内容をより深く味わうことができる、音声ガイドの利用もおすすめです。普段からミナ ペルホネンの洋服を愛用しているクリス智子さんがナビゲーターを務めており、親交のある皆川さんや田中さんとの対話など、ここでしか聴くことのできないエピソードも楽しめます。
また、2階展示室を出た後に併設されたショップでは、本展公式図録「surplus」の通常版カバーに加え、7種の会場限定版カバーを購入できます。

「せめて100年つづくブランドに」という想いのもと、1995年にミナ ペルホネンをはじめた皆川さんは、その当時から、自分たちのものづくりには国内の工場や職人の素晴らしい技術が欠かせないと考え、仕事を継続して依頼し続ける仕組みを構築し、現在まで続けてきました。その歩みを改めて深く辿ることのできる本展は、多彩な魅力に満ちた空間でした。
余談ですが、筆者自身、かれこれ20年近くミナ ペルホネンのものづくりに魅了され続け、コツコツとそのアイテムを買い集めて愛用しています。最高の素材を選び抜き、日本国内でゼロからファブリックをつくり、多くの方の手を経て丁寧につくり出されるアイテムの数々は、これからも大切に愛用し続けていきたいと再確認する機会となりました。
ミナ ペルホネンが多くのパートナーたちと丁寧に積み重ねてきた仕事の数々を通して、ものづくりにおける豊かさとは何か、そして自分にとっての“つぐ”とは何だろうと考えるきっかけを得てみてはいかがでしょうか。

美術館ロビーで来館者を迎える「tori bag」と、ブランドを象徴するテキスタイル「tambourine(タンバリン)」
なお、本展は東京会場以降、松本市美術館(長野県)や熊本市現代美術館、富山県美術館、宇都宮美術館(栃木県)での巡回展が予定されています。詳細は決定次第、展覧会公式サイトで告知されますので、続報を楽しみにお待ちください。
取材・文:Naomi 編集:岩渕真理子(JDN)




