ますます多様性を増す「文化庁メディア芸術祭」、編集部の私的おすすめ作品を紹介

ますます多様性を増す「文化庁メディア芸術祭」、編集部の私的おすすめ作品を紹介

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰し、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル「文化庁メディア芸術祭」。19回目の開催となる今年度は、世界87カ国・地域から過去最多となる4,417 の作品が寄せられた。

現在、国立新美術館ほかで開催中の「平成27 年度[第19 回]文化庁メディア芸術祭受賞作品展」では、シンポジウムやプレゼンテーション、ワークショップなどのプログラムが用意され、国内外の多彩なアーティストやクリエイターが集い、同時代の表現や創作の世界が紹介されている。

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すでに19回もの開催を重ねているので、いまさらアレコレ説明する必要のないくらいのビッグイベントではあるけれど、そもそも「メディア芸術ってなに?」という問いに対して、明確な回答を用意するのはなかなか難しいと思う。この「文化庁メディア芸術祭」で紹介されている作品が、代表的な「メディア芸術」の作品と言い切ってしまって良いかは自信がない。とはいえ、テクノロジーの進化や社会の変容、ポップカルチャーの拡大など、「時代の空気」のようなものは確実に反映されていると思う。

実際のところは予備知識なしで鑑賞しても意味がわからないものあるでしょう。しかし、せっかく入場無料で様々な作品を体験できるだから、ぜひとも「メディア芸術」の一端にふれてほしい。

ここでは受賞作品を中心に紹介するメイン会場、「国立新美術館」の展示作品から(完全に筆者の独断で)印象的な作品を紹介します。

■アート部門 優秀賞
(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合/長谷川愛

長谷川愛氏

長谷川愛氏

実在する同性カップルの一部の遺伝情報からできうる子どもの遺伝データをランダムに生成し、それをもとに「家族写真」を制作した作品。現在の科学技術では同性間の子どもを誕生させることは不可能だが、遺伝子解析サービス「23andMe」から得ることができるカップルの遺伝データを、簡易版シミュレーターへアップロードすると、できうる子どもの遺伝情報が外見や性格、そして病気のかかりやすさにいたるまで情報リストになって出力される。

「審査会で議論になった作品である。ヒト遺伝子操作の是非と、愛と、アートの役割という題材の強さ並びに現実との接続や論文参照の努力は、いかにも優等生的で、ポリティカル・コレクトネス(社会正義)的な手法をとった芸術の一例だ。(中略)SFを美術に仕立て問題提起を装いつつ、虚実ないまぜに人々を感動させるプロジェクトだとすれば、美術としては嫌悪感を抱かれかねない前述の指摘はすべて、むしろ称揚されるべき諸点へと反転する。この構造を評価した」と、審査員の中ザワヒデキ氏が指摘しているとおり、一見すると問題提起していながらも、リアリティを積み重ねてフィクションを成立させたプロジェクトだと感じる。ある意味、アートの懐の深さを信じてなければできない作品というか。観る人によって感じ方が異なる作品ではないでしょうか?

■エンターテインメント部門 新人賞
group_inou 「EYE」/橋本麦・ノガミカツキ

「なんてかっこいいんだ!」とただただ感嘆しました。

Google Street View™上の画像を繋ぎあわせ、その上を「group_inou」の2人が駆け抜けるというミュージックビデオ。世界中で撮影された膨大な量の画像をもとに、インターネット上に再構築された「視点」の連続をキャプチャーして映像化した作品です。

ノガミカツキ氏(左)と橋本麦氏(右)

ノガミカツキ氏(左)と橋本麦氏(右)

デジタル・ツールを駆使しながらも、人物の合成を一コマずつ緻密につくりこむという気の遠くなるような作業を経てつくられた本作は、見れば見るほど中毒になるような独特の視覚的な快楽がある。若き俊英というべき、橋本麦とノガミカツキの両氏にお話をうかがったところ、「group_inou」のコマ撮りの撮影枚数は約3500枚にもおよぶという。シンプルなアイデアゆえの強さ、そして尋常ではない執念のようなものを感じさせる。展示会場では、4つのスクリーンを使った疾走感あふれる映像体験が得られるので、YouTubeで観ただけで満足しないでほしい。なお、本作の制作方法やそのツールはすべてオープンソース化し公開している。

■アニメーション部門 新人賞
台風のノルダ/新井陽次郎

「台風のノルダ」で初監督を務めた新井陽次郎氏

「台風のノルダ」で初監督を務めた新井陽次郎氏

2011年設立、20代を中心とした若手クリエイターたちの集まる、スタジオコロリドがアニメーション制作した劇場公開作品。スタジオジブリ出身、本作で初監督を務めた新井陽次郎氏は、「自分も含めた20代の若いスタッフにとっても、スタジオ(コロリド)にとっても挑戦だった」と語る。ノスタルジックな風景と躍動感のある演出が瑞々しく、手書きの質感にもこだわった熱量あふれる作品。

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■マンガ部門 大賞
かくかくしかじか/東村アキコ

東村アキコ先生

東村アキコ先生

少女マンガ家を夢見ていた頃から、夢を叶えてマンガ家になるまでとその後の半生を題材にした自伝的作品で、東村アキコ先生いわく「恩師への感謝と懺悔」。自身を題材に描くことの多い東村アキコ先生ですが、「思い出したくないことを無理やり引きずりだすようなつくり方」だったそう。「ただひたすら無我夢中で描きつづけ、あれよあれよという間に完結を迎えることができた」と語るように、個人的な経験をベースにした作品でありながら、一気読みさせてしまうパワーはさすが!

展示パネルに、主人公の林明子を描き足す東村アキコ先生

展示パネルに、主人公の林明子を描き足す東村アキコ先生

最後に、内覧会には出席されていませんでしたが、長いこと大ファンである志村貴子先生の「淡島百景」(マンガ部門 優秀賞)の生原稿を観ることができ、眼福というほかありませんでした!

マンガ部門 優秀賞の「淡島百景」の生原稿

マンガ部門 優秀賞の「淡島百景」の生原稿

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■第19回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展
会期:2016年2月3日(水)~2月14日(日)
会場:国立新美術館ほか
http://festival.j-mediaarts.jp/