インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る
エイトブランディングデザイン西澤明洋氏インタビュー「デザイナーの成長、成功とは?」
ブランディングデザイナーとしてどのようにキャリアを形成してきたか
2015/04/30
JDN編集部
能動的になれ
学生や若いデザイナーは、もっと自分の頭で考えて能動的に動くべきです。学校で出される課題に取り組んでいれば、先生が就職活動のお世話もしてくれてとりあえず順調、という時代は、生きるには楽かもしれませんが、デザイナーの本質を磨くチャンスを失っていると思うんです。
自分自身を振り返ってみると、不況の時代で辛い思いをしている人もたくさんいる中で切磋琢磨したことがとてもよかったと思います。
コンペへのトライは、自分でデザインができる環境を作り出す、つまり自分で自分の場所をセッティングすることでもありました。課題に対して深読みする行為や、問題の枠組みそのものを設定したり、もっと大きく言えば座組を考えたり‥‥‥。どういう人の配置にするか。どういうチームが成立するのか。そこまで考えるのが、これからのデザイナーに求められるスキルだと思っています。
僕だって最初からできたわけじゃありません。自分なりに考えて、できることを自分のやり方で解決していく。それを自分の人生にどう活かすか。それを真剣に考えていたので、若い人にはそれを知ってほしいです。
ブランディングデザイン、デザインマネジメント
ブランディングデザインの依頼は、僕が興味を持てる業種だったら何でも引き受けています。多種多様でたとえば、絨毯、和紙、ハウジングメーカー、おにぎり屋さん‥‥‥。新しい業態を作ってしまうことも多いです。
それが可能なのは、僕らはグラフィックデザインの能力だけでブランディングをしていないから。アウトプットのスキルの中にグラフィックが含まれているだけに過ぎません。
そうしたプランディングデザインに不可欠な思考体系や、ブランド開発の一連の手続きや手法のことを「フォーカスRPCD®」と名付けています。僕が執筆した『ブランドをデザインする!』(パイ インターナショナル)という本の中で詳しく紹介していますが、エイトブランディングデザインの仕事はほぼすべて、このフォーカスRPCD®で成立しています。
今はさらに、次の方法論のトライアルを始めました。だいぶ検証できたので、もう少ししたらまた本を書き上げる予定です。
エイトブランディングデザインでは、全員がデザイナーです。リサーチ、プランニング、コンセプト開発、コピーライティング、グラフィックデザイン、デザインディレクションまで、すべてできる能力のある人をデザイナーと呼んでいます。
もしデザイン経験者が入社してきても、まずはアシスタントからスタート。ブランディングデザインの会社でデザイナーと名乗れるのは、統合した力を持っている人なので、たとえばパッケージデザインに従事していました、という人にもアシスタントから始めてもらって、トータルの力が身に付いてから案件を担当することになります。
だからディレクター職がありません。ブランディングデザイナーというすべてを掌握する立場が僕で、次にデザイナーがいて、次にアシスタントがいます。その3階層がチームになって案件に関わっています。
僕のデザイン人生のコンセプトは、デザインマネジメントを極める、ということに尽きると思います。極めて幸せになるのは僕自身なので、はっきりいって趣味ですね(笑)。
いまのモチベーションは「わかりたい」こと。単純に、わかることが楽しいんです。ある業種の企業をブランディングしたら、その業界についてはかなりマニアックに調べて詳しくなります。そうすると、また違う業種にも次々と興味が向いていきます。
僕が多業種のブランディングを手がける中で最も真剣に考えるのは、「自分がそこの経営者だったらどうデザインするか」、ということです。僕はテクニカルに行動していますが、自分が相手の立場だったらなにがベストかな、と常に思い巡らせます。それを本当にベストなデザインをしようと思うと、経営者並の思考力がなければならないと思いますし、僕もそうありたいと常に志しています。
それが、デザイナーでマネジメントをするという本当の意味です。経営者と同じくらい必死に考える。実際に企業を経営する責任は経営者にあります。でも、どれだけその企業を良くするのかを考えるのは、デザイナーでもできるということを知っていてほしいですね。
若い読者へ
「やりたいことを、やろう。クリエイターたるもの、仕事のモチベーションは自分の源泉にあるはずです。だからこそ、やりたいと思うことを本気で、本当にやってみてほしい。きっと、やりたいことができる環境づくりからスタートすることになるでしょう。でも最終的に自分の作りたいものを作れるという喜びがそこにあります。自分の人生も、その環境づくりに含まれているものです」
エイトブランディングデザイン西澤明洋氏のポートフォリオをもっと見る
インタビュー・執筆:高橋美礼、撮影:小林ユキノブ