——おふたりからはとても息が合ったコンビネーションを感じます。普段どのようにプロジェクトに取り組んでいるのでしょうか。
マルクス・イェス(以下、イェス):1人がどちらかのプロジェクトを担当するという方法ではなく、必ずふたりが全部のプロジェクトに関わりますね。
ユルゲン・ラウブ(以下、ラウブ):デザインプロセスで言うと、まずはスケッチから始めます。それをコンピュータで再現してから、どういう形になるかをふたりでよく考えます。とにかくよく話しますよ。
イェス:ええ、ピンポンのように互いの意見を反映させながら進めます。意見の相違や喧嘩もありますが、最終的な製品になるまでには納得して、ふたりが「これがベスト」という結論に至ってから、初めて製品になるのです。私たちは特に決まったスタイルは持っていないし、追っていません。「形態は機能に従う」という有名な言葉がありますが、それを実現するいちばんいい製品をつくりたいと思っています。
——ふたりのベストな解であるOccoチェアに座ってみると、包み込まれるような安定感と、適度な「たわみ」がリラックス感をもたらしてくれますね。
ラウブ:ウィルクハーンはメカニクスに強い会社ですから、まったく発想を変えて新しいスタンダードの椅子に挑戦しました。プラスチックでありながら、可動範囲が広くて座り心地がいいものをつくりたかったのですね。そのために、座面や背もたれの厚みを変えて実現しました。座面の前の方が厚く、後ろの方は薄くして、よりしなやかな動きを実現しています。
——ウィルクハーンとのコラボレーションはどのように進められるのですか?
ラウブ:ウィルクハーンは技術と完璧を追い求めるメーカーです。私たちは『Occo』シリーズの開発に4年を費やしました。彼らは機能とニーズを非常に大切にしているし、スタイルやトレンドを追って製品をつくることは決してありません。
イェス:そうですね。また、ウィルクハーンは理由を求めます。「なぜ、こういうスケッチにしたのか」というところから議論が始まる。すべてのことに理由があるという考え方は、我々に似ていると思います。
ラウブ:スケッチの後はコンピュータモデルでシミュレーションしますが、あくまでもドライな数字ですから、座り心地や感情的なものを把握することはできません。Occoチェアは7個くらいのバージョンを3Dプリンターでつくって試していきました。厚みやカットだけでなく、どれくらいの角度にするか。座面下の4点で支えるポイントをどの位置にするか。プロトタイプモデルを通じてバランスの検討を重ねていくのです。
——Occoシリーズにはテーブルもありますね。フリーデスクが当たり前になった現代のオフィスにおいて、移動が楽なチェアと組み合わせ、とても使い勝手が良い印象を受けました。
ラウブ:Occoテーブルもチェアと同じ考え方でつくられています。コストをあまりかけずシンプルで安定した構造を実現し、動かしやすさを特に意識しています。オープンになった現代のオフィスに合うよう「椅子のようなテーブル」を目指しました。
イェス:1950年代には、すでにジョージ・ネルソンが「オフィスは日中のリビングルームになった」と語っています。オフィスという環境は、その当時から常に変わり続けているのですね。
——最後にJDN読者に向けて、おふたりからメッセージをいただけますか?
ラウブ:プロフェッショナルなデザイナーが多い媒体と伺いました。ならば私からはひと言。「決して諦めるな」です。
イェス:私も同じです。付け加えるなら、私たちは「過去、現在、未来」という時間軸を大切にしてプロジェクトに臨みます。クライアントのために製品をデザインするときには、クライアントの過去の文化や歴史を知るところから始めて、現在のニーズにはどういったものがあるか。それを未来につなげてどういう製品にしていきたいかを意識してつくるようにしています。
取材・文:神吉弘邦 撮影:木澤淳一
ウィルクハーン・ジャパン
http://www.wilkhahn.co.jp/