代替を超えたバイオ素材の可能性を探る─グッドデザイン・ニューホープ賞最優秀賞(2)

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代替を超えたバイオ素材の可能性を探る─グッドデザイン・ニューホープ賞最優秀賞(2)

モノづくりのプロセスが伝わるようなプレゼンを工夫

――卒業制作での発表時から、具体的にどのような点をブラッシュアップしたのでしょうか。

今回の作品ではキノコの菌糸体という「素材の魅力」と、「モノづくりの楽しさ」の2つを伝えたいと思っていました。ただ、後者については卒業制作展で教授から「モノづくりのプロセスがもう少し見えるといい」と指摘をもらっていたのが引っかかっていたんです。

そこで、遊びながらバイオ素材の魅力に気づいてもらうといったコンセプトを理解してもらうために、応募に向けたプレゼン資料を工夫したり、制作過程を動画にしたりしました。動画にはある親子に出演していただき、キットが届いてから、菌糸ブロックを砕き、型に入れて栽培、4〜5日後に収穫して最終的に遊ぶところまでの一連の流れを撮影しました。

――動画では楽しそうに菌糸ブロックを混ぜたり、匂いを嗅いだりしている子どもの姿が印象的ですね。

菌は汚いだろうと思うのも大人の先入観が大きくて、子どもは砂場で遊んでいるような感覚で純粋に菌糸ブロックに触れてくれるのだと知ることができましたね。キットに入っている菌糸ブロックの袋を開けると森の香りがしたり、日々育っていく菌糸体を観察したりする楽しさもあって、そうした一連のプロセスが伝わる動画になったと思います。

――最優秀賞を受賞して、審査委員やオーディエンスから反響はありましたか?

「商品化してほしい」とか「遊んでみたい!」といった声が一番大きくて、とてもうれしかったです。卒業制作展でも同様の声をいただいていたんですけど、商品化に踏み出す勇気はありませんでした。

ただ今回は、審査委員の方々にアドバイスをいただいたり、賞をきっかけに出会ったほかの参加者がサポートしてくれたりして、商品化に向けてプロジェクトを進めることができています。賞を受賞したという実績があると、生産や流通において話を進めやすいなとも感じています。

受賞作品「MYMORI」の写真

――受賞した際の率直な感想も教えてください。

事前にほかの参加者の方々の素晴らしい作品を見ていたので、私はまさか最優秀賞には選ばれないだろうと思っていたんです。だからすごく驚きましたね。受賞後には、改めて応募した作品について参加者が簡潔にプレゼンをして、審査委員やほかの参加者からアドバイスをいただく「フォローアップ・ゼミ」にも参加しました。

ゼミでは、みなさんからの客観的なコメントによって、自分では見えていなかった価値に気づかされた場面も多くありました。特に、コンセプトや制作背景を褒めていただいたのがうれしかったですね。自分の作品に対しての自信や愛着がより一層強くなりました。

フォローアップ・ゼミの様子

フォローアップ・ゼミの様子

自分が信じるデザインを追い求めながら、社会に貢献したい

――デザイナーとしての今後の展望をお聞かせください。

今回受賞させていただいたことによって、自分が信じているデザインは意外と世の中に認められるのかもしれないと希望を見出すことができました。今後は、デザイナーとしての責任をちゃんと持って、より社会に役立つものをつくっていきたいなと思っています。

まずは、「MYMORI」を商品化することが直近の目標。それぞれのターゲットがより楽しく体験できるようなかたちを検討しています。その先に、遊びだけでなく、菌糸素材のものづくりを介した教育や地域活性化など、より深い価値につながることを目指したいです。まだはっきりとは決めていないのですが、会社の仕事と両立しながら、社会に貢献するクリエイティブを追い求めたいなと思っています。

――最後に、現在応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。

ニューホープ賞は、自分の作品をブラッシュアップしたり、客観視したりできるチャンスだと思います。この賞の応募を考えている人の中には、いままでにない斬新なデザインを提案したいと思っている人が多い気がしていて。そうしたデザインには、ひとつの視点からだと見えないこともあると思います。

ニューホープ賞は多様な視点から作品を見てもらえる絶好の機会なので、あまり結果を気にすることなくぜひ参加してみてほしいです。

取材を受ける項さん

■グッドデザイン・ニューホープ賞
https://newhope.g-mark.org/

■2024年度グッドデザイン・ニューホープ賞セミナー 「審査委員が注目する次世代デザインの条件」開催情報
日時:2024年5月21日(火)18:00~19:30
場所:京都市立芸術大学 C棟1階 講義室1(C-101)
登壇者:井上裕太氏(2023年度ニューホープ賞審査委員|プロジェクトマネージャー・KESIKI INC.パートナー/Whatever ディレクター)、原田祐馬氏(2023年度ニューホープ賞ワークショップ講師|デザイナー | UMA /design farm 代表)
概要:2023年度ニューホープ賞審査委員の井上裕太氏と原田祐馬氏が、審査委員の視点から、次世代のデザインに求められる条件や、ニューホープ賞での審査の視点や基準などを語ります。
参加申し込み:https://nha2024seminar-kyoto.peatix.com/

文:原航平 撮影:井手勇貴 取材・編集:萩原あとり(JDN)