街なかで目にする案内標識や本屋で手に取る詩集、各種イベントのロゴなど、私たちは毎日さまざまなフォントで表現された文字を目にしている。そのフォントをつくるのがタイプデザイナー、そしてフォントを選び、デザインへと昇華させるのがグラフィックデザイナーだ。
今回は、Monotype®(モノタイプ)のタイプデザイナー土井遼太さんと、NHK紅白歌合戦のロゴなどを手がけるグラフィックデザイナー佐々木俊さんを迎え、フォントをつくる立場と使う立場、それぞれの視点から文字への向き合い方を語っていただいた。
デザインの道へ、それぞれの入り口
――まずは簡単に自己紹介をお願いします。
土井遼太さん(以下、土井):僕はグラフィックデザイナーを志して大学へ進み、幅広くデザインを学ぶなかで、タイポグラフィに惹かれていきました。就職活動の時期になっても、もう少し大学で学びたい気持ちがあり、いろいろ調べるうちに海外で専門的に学ぶ道を見つけて、イギリスの大学院に進みました。タイプフェイスデザインというフォント制作に特化したコースで1年間学び、そのままMonotypeにインターンとして入って現在にいたります。

土井遼太 Monotype クリエイティブ・サービス クリエイティブ・タイプディレクター。1990年島根県生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。英国レディング大学大学院にて修士号(タイプフェイスデザイン)取得。2015年よりMonotypeに在籍。和文フォント「たづがね角ゴシック」や「Shorai Sans」の開発、企業の専用フォント制作(ブリヂストン、Xiaomi、三井物産)に携わる
佐々木俊さん(以下、佐々木):僕は大学ではグラフィックデザインを学びました。卒業後は広告制作会社で働きながら自主制作の作品をネットにアップしていたら、詩人の最果タヒさんに声をかけていただいて。はじめてデザインを担当した詩集が好評だったことをきっかけに、個人で装丁やブックデザインの依頼を受けることが増えていきました。現在は書籍と、展覧会やイベントなどのビジュアル制作が大きな軸になっています。

佐々木俊 グラフィックデザイナー、アートディレクター。1985年宮城県生まれ。2010年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。2016年にデザイン事務所「AYOND(アヨンド)」を設立。最果タヒの著書の装丁や展示デザイン、NHK紅白歌合戦のロゴデザイン、東京国立近代美術館の宣伝美術などを手がける。2020年JAGDA新人賞受賞
土井:佐々木さんのサイトを拝見していても知っている作品ばかりで、今日は本当にお話しできるのを楽しみにしてきました。
佐々木:うれしいです、ありがとうございます!
数年がかりで完成、フォントづくりの舞台裏
――フォントをつくる現場というのは、なかなか一般には見えにくい部分です。土井さんが所属されているMonotypeという会社について教えてください。
土井:アメリカが本社の会社で、日本以外にもロンドン、ベルリン、パリ、上海、ソウルなど、世界10都市以上に拠点があります。
業務としてはフォントの制作はもちろん、お客様の機器に組み込むためのサービスを提供したり、ライセンスを販売したり。あとはタイポグラフィに関係するイベントを開催して、グローバルなリーディングカンパニーとして知識をアップデートしていくような活動もおこなっています。

世界中で利用されているフォントサービス Monotype Fonts。25年夏には日本語UI版が登場した
土井:デザイナーが各都市にいて、多言語に対応できるのが強みです。英語や日本語だけでなく、中国語、タイ語、アラビア語などに対応した文字をグローバルで協力しながら制作しています。日本支社のデザイナーは現在9名で、これはMonotypeのなかでは多いほうなんです。都市によっては1人しかいない拠点もあって、かなり少数精鋭なんですよ。
佐々木:1つのプロジェクトでは、何人くらいが稼働するんですか?
土井:言語によりますね。ラテンアルファベットなら1人で手がけることもあります。以前手がけた「たづがね角ゴシック」の場合は、デザイナー2名で実作業から完成まで担当しました。
佐々木:2人であの膨大な量を……。
土井:約9,000文字ありますね(苦笑)。これを10ウェイト分つくりました。エンジニアなども含めると関わる人数はもう少し多くなりますが、手を動かしてデザインするのは2人でしたね。和文フォントは開発に2~3年以上かかることも珍しくありません。
新幹線のデジタルサインから展覧会のビジュアルまで
――では、まず最近手がけたお仕事を教えてください。
土井:僕は企業のブランドを象徴するカスタムフォントやロゴタイプを多く担当していますが、代表的なものに、ブリヂストン様の「Bridgestone Type」や、Xiaomi(シャオミ)様のシステムフォント、クリーチャーズ様のロゴタイプなどがあります。

株式会社ブリヂストンのコーポレートフォント「Bridgestone Type」
土井:また、一般販売しているライブラリフォントも制作しています。渋谷区の案内標識などに使われている「たづがね角ゴシック」もその一つです。また、たづがね角ゴシックはJR東海の新幹線発車標用として一部カスタマイズしたものがあり、現在は東京駅や名古屋駅などで使われています。

Monotype初の日本語書体である「たづがね角ゴシック」。小林章さんがディレクションをし、土井遼太さんら日本チームで制作された
――本当に普段から目にするものばかりですね。では、佐々木さんも最近のお仕事について教えてください。
佐々木:最近ですと、昨年前橋文学館で開催された「最果タヒ展」の展示ビジュアルを手がけました。最果タヒさんとはもう10年以上にわたってお仕事をご一緒させてもらっていますね。
最果さんの詩は、特別なものというよりも、日常のなかにあたりまえにあるような言葉からできています。今回の展示ビジュアルについても、通常であれば詩の言葉をそれらしく強調して見せるべきところを、日付や場所といった事務的な文字情報と共にフラットに扱うレイアウトにしました。

「最果タヒ展」ビジュアル
佐々木:街の情報の中に詩が当然のように佇んでいる感じが最果さんらしいかなと思い、テトリスのように文字情報をただ積み上げたデザインにしています。
――1人の方と10年以上タッグを組み続けられるというのは、本当にすごいことですね。
佐々木:デザイナーとして幸福なことだと思っています。最初はほぼはじめてのブックデザインだったので、InDesignの本を見て勉強しながら進めました。40歳になったいま、当時の作品を見返すと荒さはありますが、下手なりの勢いというか、もう出せないフレッシュさもあると思いますね。そのときにしかできない仕事があることを最近改めて実感しています。
ほかには「拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」のビジュアルも手がけました。シュルレアリスムのデザインというと、ダリの髭を思わせるハライの伸びた明朝体などが選ばれがちですが、今回はあえて違うアプローチをしたくて。

「拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」 ビジュアル
佐々木:「拡大する」というタイトルから、マグリットの絵を中心に波紋が広がるようなサイケデリックな色合いにし、名作にあえて拮抗するような少しひねくれたデザインにしてみました。ビジュアルが強いので本当は何もしなくてもいいんですけど、つい何かをしたくなってしまうというか(笑)。
土井:でも文字が絵の邪魔することはなく、むしろ作品の力を増強させているような気がします。
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