社員のつながりを生み出し、会社を育てていく。マネーフォワードのインハウスデザイナー(2)

社員のつながりを生み出し、会社を育てていく。マネーフォワードのインハウスデザイナー(2)

コンセプトは「コネクト」、オフィス拡張プロジェクト

――次に、他部署と連携しておこなったオフィス拡張プロジェクトについて、プロジェクトメンバーの金井さんと寺村さんにお話をうかがいたいと思います。どのようなきっかけでこのプロジェクトは始動したのでしょうか?

金井:オフィスを拡大した一番の理由は、コロナ禍で社員数が約800人から約1600人へと倍増したことです。コロナ明けに出社しても物理的に働ける場所がない。今後コロナが落ち着き、ワークスタイルもオンラインからオフラインに戻っていくことを見越して、オフィスの拡張は急務だと考えました。

しかし、ただオフィスを広くするだけでは約2年間のリモートワークに慣れた社員たちは戻ってこないと思ったので、出社したくなるようなオフィスにすることが最も重要なことだと感じました。「出社したくなるオフィス」とは何なのかプロジェクトメンバーで突き詰めていったら、「人と知り合うこと」だったんですよね。

この2年間はそこがすっぽり抜け落ちてしまったので、それがないと出社したいと思わないだろうなと。なので、改めて関係構築ができるような場所にしたいなということで、コンセプトを「コネクト」と定めました。会社に出社することで、オンラインにはなかった人との出会いが生まれるような場所にすることにしました。

寺村:実現に向けて、まず課題設定をするために、出社率を洗い出したり、各事業での出社のとらえ方やオフィスにどういうことを求めているのかなど、社内へのヒアリングに時間をかけました。その結果、部署間のコミュニケーションに課題があることがわかりました。基本スモールチームで活動しているので、どうしてもコミュニケーションが閉鎖的になりがちだったんです。チームだけでなく、部署間でもミックスできるように考えました。

金井:コンセプトの「コネクト」を象徴する場所であるコネクトエリアは、落ち着いた空間というよりは、気持ちが明るくなり、会話が弾むような空間になるように内装を工夫しました。

マネーフォーワード コネクトエリア

コネクトエリア

マネーフォーワード コネクトエリア

奥に見えるマネーフォワードのシンボルは、オフィス拡張プロジェクトに社員も巻き込む仕掛けとして、100名以上の社員がペンキで手形をつけて完成させたもの

金井:チームエリアはデスクを島型ではなく、いろんな形にしました。それによって毎回隣り合ったチームが異なったり、久しぶりの人に会ったりと偶発的な出会いやコミュニケーションが生まれる場所を意識しました。

マネーフォーワード 執務室

さまざまな形のデスクにが配置された執務室

金井:そのほかにも、集中して取り組みたい業務がある人向けのパーソナルエリアや、チームで活発に議論しながら仕事ができるエリア、気軽に休憩できるスペース、オンライン会議用の個人ブースも増設。それから、グローバルメンバーのための祈祷室なども新しくつくりました。一部の社員だけでなく全員の出社体験が向上することを目指しました。

マネーフォーワード 執務室

壁にはマネーフォーワードが大切にしている「CULTURE」がグラフィカルに描かれている

――プロジェクトを進める中で大変だったことはありますか?

寺村:モデルケースのないプロジェクトだったので、すべてが手探りだったことですね。コネクトエリアも、さまざまな検討を重ねて形にしましたが、実際にみんなに受け入れてもらえるのか不安でした。

金井:社員によって理想の働き方は違うし、今後さらに多様化していくので、全員の希望を叶えるオフィスにすることが難しかったですね。それでも、できるだけ多くの人の出社体験を向上させるために、用途の異なる複数のエリアをつくるなど工夫を凝らしました。

――さまざまな希望に応えてでき上がった新オフィスですが、実際に出社した社員の方々の反応はいかがでしたか?

寺村:ありがたいことに好評な声をたくさんもらっています!特にコネクトエリアはいままでなかった社員同士のつながりを生み出しているなと思いますね。出社率も上がり、「コネクトエリアに救われている」という声もありました。特に新入社員の出社率が高く、仕事のモチベーションづくりに貢献できているのかなと思っています。

セルジオ:みんなと顔を合わせて会話する量が増えたからなのか、出社するたびに元気をもらっているような感覚があります。コロナを経て、自分が人とのつながりを求めていたことに改めて気づかされましたね。

金井:コネクトエリアをつくることで、ある程度交流が生まれることは予想していましたが、積極的に社員をつないでくれる「コネクター」的な社員が現れることは予想していませんでした。コネクトエリアにコーヒードリッパーを持ち込み、みんなにコーヒーを振る舞ってくれる人。部署の垣根を越えて、社員を紹介してくれる人。受け身ではなく、社員主体で新たにつながりが生まれていて、とてもうれしく思います。

マネーフォーワード コネクトエリア

コネクトエリアにて、持ち込まれたコーヒードリッパーを囲む社員のみなさん

マネーフォーワード イベントの様子

さまざまなイベントが、社員主体で開催されている

デザインの力をインハウスデザイナーが広げていく

――最後にみなさんの今後の展望について教えてください。

寺村:デザイナーに興味を持った人に、ここでデザインの力を磨きたいと思ってもらえるようなデザイン組織にしていきたいです。学生時代から、そして今でも日本のデザインを牽引するデザイナーやプロダクション、エージェンシーの仕事に憧れとリスペクトがあります。だからこそ、私たちの組織も誰かがデザインを志すきっかけになったり、ここでデザインをやりたいと思ってもらえる場にしたいです。

そのために、表現もクオリティにこだわって、世の中にインパクトを与えられる体験を生み出す組織であろうと、日々意識しながらデザインと向き合っています。そうした活動を通して、プロダクションやエージェンシーだけではなく、インハウスデザイナーという選択肢もより魅力的に感じてもらえるようになると嬉しいですね。

金井:インハウスデザイナーのおもしろさは、会社のあらゆることをデザインできることだと思います。ですので、これからもデザインする対象の可能性を切り拓きながら、社内にも社外にもデザイナーのポテンシャルの大きさを知ってもらいたいです。デザイナーは、ただ視覚的なデザインを生み出す力だけでなく、伝える力や体験を生み出す力に長けている人たちだと私は信じています。そういった力を最大限に駆使して、マネーフォワードをより良い会社にすることが目標です。

セルジオ:2023年7月に、弊社の掲げるバリューズに新しく「Tech & Design」が追加されました。全社でテクノロジーとデザインの力を使い、便利な機能だけでなく驚きやうれしさのともなう利用体験を届ける姿勢を表しています。つまり、マネーフォワードのデザイナーに求められているのは、デザインの力で感動レベルの体験をどれだけ届けられるかということ。

そして、この数年間で、デザイナーが成長できる土壌が少しずつ形づくられてきたという実感があります。世界中の人々の心を動かすサービスを、今後もマネーフォワードから生み出しつづけていきたいですね。

マネーフォーワード インタビュー画像

文:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 撮影:寺島由里佳 取材・編集:岩渕真理子(JDN)