イラストレーター・有田満弘が語る、ポケモンカードゲームの余白と遊び

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イラストレーター・有田満弘が語る、ポケモンカードゲームの余白と遊び
1996年に生まれた日本初のトレーディングカードゲーム、「ポケモンカードゲーム」。20年以上にわたって世界中で人気を集め、いまでは11言語*に翻訳され、74の国と地域*で遊ばれている。現在、その開発元である株式会社クリーチャーズで、カードイラストのコンテストを開催中。各賞が設けられているほか、優秀な作品を応募した人には、株式会社クリーチャーズと契約し、ポケモンカードゲーム公認イラストレーターとしてイラストを描くチャンスもある。

そこで今回は、公認イラストレーターの有田満弘さんに、仕事の進め方や表現力を磨くためにしていること、制作のポイントなどについてうかがった。毎回イラストの企画段階から参画し、これまでに500枚以上*ものカードを担当したという有田さん。そこには、枠にとらわれずに個性を発揮できる、ポケモンカードゲームならではの魅力があった。

*2019年2月時点

表現力アップの源は、電車や街なかでのスケッチ

——普段、どのように制作を進めていますか?

ポケモンカードゲームのイラストを手がける公認イラストレーターは現在80名(※2019年2月時点、以下略)ほどいるので、まずクリーチャーズさんのほうで、どのカードを誰に描いてもらうかの振り分けが行われます。そのうえでイラスト制作の依頼がきます。最初の段階で、たたき台のようなアイデア、あるいは簡単なラフをいただくこともあります。

次に僕がラフを描き、お互いに意見を出し合って調整します。ラフが通ったら、下絵となる線画を作成。それにOKが出たところで、今度は着彩作業に移ります。彩色を終えたものを提出し、問題なければそのまま納品となりますが、フィードバックを受けてさらに調整することもあります。発注から納品までの期間は、2か月ほどですね。

制作環境はイラストレーターによって違い、僕は線画までは紙に鉛筆で描き、着彩は線画をパソコンに取り込んでデジタル彩色しています。

有田満弘
イラストレーター・アートディレクター。1996年ポケモンカードゲーム企画段階より参加。第1弾から多数のイラストを制作。その他、数々のビデオゲーム・カードゲーム関連イラスト、書籍の装丁画・挿絵など幅広く活躍。アニメ映画など映像作品のアートディレクションにも携わる。国内外の教育機関を中心に講演・ライブイベント活動も行う。

——ご自身の作風をつくり上げていくために、取り組んできたことを教えてください。

表現力を高めるために昔からやっているのは、日々のなかで目に留まったものをスケッチすることです。街角や電車の中、出張先で、とにかく「描きたい!」と感じたものを描いています。基本的には自宅で仕事をしますが、出張やイベントで出かけたり、出向して仕事をしたりと移動の機会が増えたので、最近は沢山スケッチしていますね。いつでもすぐに描けるように、常にズボンのポケットに画材と小さなスケッチブックを入れています。

有田さんが普段使っている画材とスケッチブック

——以前から毎日描いていたのですか?

基本的には気分が乗らなければ描きません。無理をして描くのはよくないので、「1日何枚」とノルマを決めないようにしています。描きたいっていう気持ちがちゃんとあって、それを全力で表現しようと描いたものこそがいい作品になる、と考えています。ノルマを決めて描くことは技術的な練習という面では意味がありますが、表現力を高めるという目的だと少し違うのかなと。なので、魅力的なものを見つけたときに、限られた時間と環境のなかでどのくらいしっかりと捉えられるかということは大事にしつつも、描きたいと思ったときだけスケッチをしています。

ですが、このところ頻繁に電車に乗るので、毎日のように描いてみると、やっぱりこっちのほうがうまくなるなとも感じています(笑)。

それでも、画面に落とし込む力を磨くという目的は変わりません。たとえば、街で見かけた人は常に動いているので、じっと観察することはできない。それに、特に電車の中だと時間的制約も生まれます。だから、道具を取り出して描きはじめるまでに、モチーフを切り取る範囲、タッチ、完成までの時間、その時間内に仕上げられる描き込みの密度などをおおよそ決めています。つまり「こういう切り取り方をして、こういう風に画面に収めれば、自分が捉えたいと思ったものが描けるだろう」というプランを最初に立てるわけです。場当たり的に進めてなんとかする、ではなくて、先にイメージをしっかり固めて、最終的にちゃんと形にできるというのは仕事でも必要な能力だと思います。

意思をもった「野生」のポケモンを描きたい

——カードイラストを描く際に工夫していることはなんですか?

ポケモンカードは、カードの上部に四角いフレームがあり、そのなかにイラストが収まっています。ポケモンカードにはタイプごとに色があり、炎タイプのポケモンであれば体の色は赤系、イラストスペース以外の部分にもタイプ色である赤系が使われるのが基本です。それでイラストの背景部分も赤系にしてしまうとカード全体の印象がぼんやりしてしまうので、背景には青系や緑系を使うなど、なるべくメリハリがつくような色使いを意識しています。逆に全面真っ赤にする場合もありますが。イラストだけを気にするのではなく、カードになった時に一番効果的な絵面を常に意識しています。

——「フルイラスト」という、カード全面にイラストを描いたデザインのものもありますが、その場合に心がけていることはありますか?

カードの下半分にはワザ名やダメージなどの文字情報が配置されるので、文字が乗った状態でも、外した状態でも、絵として成立するようにしなければなりません。ときには依頼時に「ポケモンが画面外にはみ出しているようにしてほしい」という要望をいただくこともあります。そういうときは、どの部分をどんな風にはみ出させれば一枚の絵としてよくなるか、なおかつポケモンが認識しやすくなるかを考えながら描いています。海外で翻訳されると文字のボリュームが増えることもあるので、その点も考慮しながら構図を工夫しています。

——約80名の公認イラストレーターがいるなかで、オリジナリティを出すために工夫していることはありますか?

ユーザーからよく言われるのが、僕のイラストにはポケモンが何かをしようとしているシーンが多いということ。野生のポケモンの日常を描こうとしているから、そう感じてもらえるんだと思います。キャラクターが画面映えするシーンやポーズを描くのではなく、「このポケモンは普段こういう風に生活しています」という設定を読んでイメージを膨らませるんです。野生動物の生態を映すネイチャー番組のようなイメージで、ユーザーが「実際に自然に生きているかもしれない」と感じてもらえるように描いています。絵柄がリアルなのもそのためです。僕はもともと写実的な画風だと思われがちなのですが、実は順番が逆なんですよね。実在する生き物のように感じてほしいから、リアリティのある表現にしているんです。

それから、ポケモンに意思をもたせることも大切にしています。たとえばヒトカゲは、尻尾の炎が消えると命が終わってしまうという設定があるんですね。でも、このヒトカゲはまだ幼くて、これはなんだろう?という顔をして不思議そうに尻尾の炎を見ている。設定を活かして、ストーリーとポケモンの感情を表現しています。

不思議そうに炎を見ているヒトカゲのポケモンカード。1枚のカードに設定を活かしたストーリーを盛り込んでいる

国内外のファンとの温かなコミュニケーション

——国内外のイベントやサイン会など、直接ユーザーと触れ合う機会も多い有田さんですが、最初にサインを書いたのはいつですか?

初めて開催された国内大会の会場で、ゲストで呼ばれたわけではないんですが、ちょっとしたブースでスタッフが来場者に「この人がカードのイラストを描いているんだよ」と紹介してくれて。そうしたら子どもたちが集まってきて、初めてサインをしました。15人もいなかったと思うのですが、このあいだSNSで、そのときのサインの写真をアップしている人がいて驚きました。

——サイン会での印象的なできごとがあれば教えてください。

サインはファンが持参したカードに書くことが多く、ほとんどは人気のある定番のカードかレアカードなんですね。でも以前、海外でのサイン会で、そのどちらでもないカード、しかも少し折れ曲がっているものを差し出してきた人がいました。理由を聞くと、「子供のころ、最初にポケモンカードを手にいれたときに、よく使っていたカードなんだ!」って。20年も大事にしてくれたことが、すごく嬉しかったですね。

また、外国であったことなのですが、小さな子がカードの裏面を向けて出してきたんですね。普通はイラストの描いてある表面にサインを書くので、僕とその子のお父さんが「こっちでいいの?」「表?裏?」と聞いて。そうしたら「裏がいい」と。表にサインがあるとプレイするときに邪魔になるから、裏面にしてくれということだったんです(笑)。

広い世代の方が遊んでくれているのも、20年以上続いているポケモンカードゲームだからこそだと思います。海外でのイベントで、両親とその子どもの3人で来てくれて、「3人ともファンで、わざわざ列の最後に並んだ」と言われたことがありました。「最後だったら少し長く話ができるかなと思って」って。僕がイラストを描いたカードを大量に収めたバインダーを見せながら、嬉しそうに「あなたが描いたカードはほとんど持ってるんだ」と話してくれました。

半歩はみ出して自分だけの表現力を大いに活かしてほしい

——公認イラストレーターとしてやりがいを感じるのはどんなときでしょうか。

ポケモンカードの特徴は、あえていろいろなスタイルのイラストレーターがポケモンを描きおろしているところです。それは、クリーチャーズさんがバリエーションを求めているからだと思うんですね。『ポケットモンスター 赤・緑』の頃から、捕まえたポケモンには名前を付けることができました。つまり、ピカチュウであれば、いろんなピカチュウがたくさんいる。必要に応じておくびょうだったり、やんちゃだったり、様々な性格を想像して描くことができます。そこが、描き手として楽しいところです。クリーチャーズさんも、作家性に応じてちょっとずつはみ出して広がりを見せてほしいという気持ちを持っていてくれるので、安心して表現に遊びを入れることができます。もちろん、ポケモンカードらしさを出すことも必要なのですが。

長く続けてきて、何度も同じポケモンを描くようになると、少しだけ枠からはみ出したくなる。一歩はみ出すのはダメなんだけど、半歩はみ出すことを許容してくれるところが、絵描きとしてやりがいがあるところですね。

——20年以上にわたってポケモンカードイラストを手がけられてきましたが、新たにチャレンジしていることはありますか?

最近、1枚のカードに2体のポケモンが描かれている新しいスタイルのカード「タッグチーム」が登場しました。このカードは商品の顔となるカードだと聞いていたので、通常は鉛筆で線画を描いてデジタルで塗るところを、彩色に移る前、鉛筆画の段階でかなり描き込むようにしたんです。アナログな手法に寄せ、鉛筆でがっちり仕上げることによって、もっと手触り感のある絵にしたいと思ってやっています。

——コンテストへの応募を考えている人に向けて、メッセージをお願いします。

今回のコンテストは、イラストを「職業」にすることができるチャンスでもあります。僕自身、ポケモンカードゲームでイラストレーターとしてデビューしました。やりがいや喜びが詰まったすばらしい仕事だと思います。僕の場合は、たまたま描かせてもらって、気がついたらポケモンカードゲームがすごく人気になっていただけではあるのですが(笑)。

ポケモンカードゲームはイラストレーターの個性を楽しめるところが魅力です。応募者の方には、いまあるポケモンカードの世界をさらに広げるような作品を描いてもらいたいですね。上手に綺麗な絵を描くというよりは、自分だけの表現力を大いに活かして、「自分だったらポケモンカードゲームにこういうものをプラスできる」という意気込みをもって描いていただいたほうがいいのかなと思います。すでにあるものをお手本にするのではなく、個性を発揮してもらいたいですね。そして、もし、新しく公認イラストレーターが加わっても、その方に座を奪われることのないように僕もがんばります(笑)。

構成・文:平林理奈 撮影:中川良輔 編集:瀬尾陽(JDN)

ポケモンカードゲーム イラストグランプリ
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