「あなたの“もし…”が、茨城の未来を変える」をコンセプトに、茨城県が2018年にスタートさせた「if design project〜茨城未来デザインプロジェクト〜(以下、if design project)」。異なるバックグラウンドを持った参加者が、フィールドワークや講義、ワークショップを通して地元企業の課題や茨城の魅力を発掘し、いままでにないアイデアを生み出しかたちにしていくという、実践型のデザインプロジェクトだ。毎年さまざまな切り口から茨城の課題解決に挑んできた本プロジェクトが、今年もテーマを新たに開催される。
第3期目となる今回のテーマは「祝い」「空」「ツーリズム」。プロジェクトをプロデュースする株式会社リビタの増田亜斗夢さんと、第1期目の参加者であり、プロジェクトをきっかけに茨城県城里町の地域おこし協力隊となり、今回「ツーリズム×地域」の地域コーディネーターを務める坂本裕二さんに、「if design project」に込めた思いやこれまでの活動、今回のテーマについてお話を伺った。
茨城の魅力を、より多くの人に伝えるために
――はじめに「if design project」が生まれた経緯を聞かせてください。
増田亜斗夢さん(以下、増田):本プロジェクトは、茨城県の移住促進事業の一環として関係人口の創出を進める取り組みです。
茨城県は東京からのアクセスがいいので、茨城県をチャレンジする場所として、地域のために何か活動したいと考えている東京圏の人と、企業や地域の人が一緒になって課題解決に向けたプロセスを経ることで、深いつながりのある「関係人口」をつくっていきたいという思いから、プロジェクトの構想がはじまりました。
僕自身も茨城県出身なのですが、昔と比べると駅前のデパートが公共施設に変わっていたり、かつては人混みであふれかえっていた場所の活気がなくなっていたりと、子どもの頃の賑わいが失われてしまった地域がいくつかあるのを感じていました。このプロジェクトを通して、いずれは茨城に移住してくれる人が増えて活気が戻ればいいなと思うのですが、まずは地域のために活動する、熱意のある人との関係を深めていくことで、「なんだか茨城県はおもしろそうだから行ってみようかな、活動してみようかな」と思う人が増えていく、そんな新しいサイクルが生まれればいいなと考えています。
坂本裕二さん(以下、坂本):私も茨城県出身なので、お店がどんどん閉店していく現状を目の当たりにしてきましたが、数年前に水戸市のデザイン会社に勤めていた頃に、県内にはおもしろい活動をしているプレイヤーがたくさんいることを感じたんですね。こんなにかっこいい人たちがいるのに、なんで茨城は人気がないのだろうと、単純に疑問でしたね。
増田:そうなんですよね。僕は正直、東京に憧れて茨城から逃げた人間なんですが(笑)、以前仕事で茨城県結城市に関わっていたことがあり、そこで「結いのおと」という結城市の街なかに点在する歴史のある寺院や酒蔵、見世蔵をライブ会場にした音楽フェスがあることを知りました。「茨城にもこんな素敵なところがあるんだ」と茨城の魅力を再発見できたんです。ですが、やはり県全体で見ると部分的ですし、素敵な活動をしていても、まだまだ知られていないこともある。「if design project」では、そんな茨城の素敵な部分をもっと多くの人に伝えていきたいという気持ちも大きいです。
フィールドワーク・講義・ワークショップを通して「問い」を見つけていく
――坂本さんは第1期目に参加されていますが、実際にプロジェクトを体験してみていかがでしたか?
坂本:フィールドワーク、講義、ワークショップ、そして公開プレゼンテーションと、プロジェクトを通してひとつひとつのプログラムが丁寧につくられているのを強く感じました。また、それらのプログラムが月1回の開催のため余白が多く、3カ月を通してみると参加者が自由に活動できる時間もありながら、運営事務局にもしっかりサポートしてもらえる。これも大きな魅力だと思います。
私が第1期で所属していたテーマ「スポーツ」のチームでも、会社終わりにミーティングをしたり、何度も東京と茨城を行き来して企画を練り、現地でイベントを開いたりと、自主的な活動がとても多かったように感じます。はじめは考えが合わずまとまりのなかったチームでも、段々と仲間意識が生まれ、常にモチベーション高く参加することができました。
また、テーマごとにメンターが付くのもいいですね。「スポーツ」チームのメンターは、日本サッカー協会スポーツマネージャーズカレッジのディレクターをされている坂口淳さんだったのですが、スポーツによる街づくりにとても精通されている方なので、たくさんのアドバイスをいただきました。行き詰っていると「1度やってみなよ!」と後押ししてくれたり、挑戦したことへのフィードバックをもらったり、常にサポートしていただけたのが心強かったです。
――参加されるメンターはどのように決めているのですか?
増田:メンターの選定は、参加者がただ茨城について考えるだけプロジェクトじゃなく、考える過程が学びにもなって欲しいなという思いから、さまざまな業界で活躍しているプロの方にお願いしています。講義やワークショップを通して、メンターから専門的な視点を学び、すぐに実践に活かせるのもこのプロジェクトの魅力だと思います。
――テーマが毎年違うということもこのプロジェクトの大きな特徴ですね。テーマはどのように決めているのでしょうか。
増田:大切にしているのは、テーマを通して茨城の魅力を感じることができるかどうかです。
茨城は実はスポーツが盛んで、プロ野球チームやバスケットボールチーム、サッカーにいたっては2つのチームが活動しているんです。第1期のテーマである「スポーツ」は、そんなスポーツ大国・茨城を感じて欲しいという思いもありました。「山」は、日本百名山の1つである筑波山について、そして「食」というテーマでは生産量日本一を誇る「笠間の栗」にスポットを当てました。そういったコンテンツを通して、あまり知られていない茨城の魅力に触れてもらえるためのテーマ設定をしています。
――パートナー企業は、どのように選定していますか?
増田:毎年各テーマごとに1社ずつパートナー企業として参加いただいていますが、自社の課題意識だけでなく、「茨城をもっとよくしたい」というビジョンを持った企業にご参加いただいています。地域の課題は、なかなか個人の視点だと見えにくいものだと思いますが、企業の課題解決という視点を通してみると、おのずと地域が抱えている課題も見えてくる。熱意のある企業と一緒になって課題を探していくことができるので、やりがいは大きいと思います。
取り組んでいただくテーマはあくまできっかけだと考えています。フィールドワークや講義を通して、参加者自身が新しい「問い」を見つけられたら、それにフォーカスしていただいてもいいんです。そんな、ゼロから何をすべきか考えることができる点もこのプロジェクトの大きな魅力だと思いますね。
ただ、地域の企業が抱えている課題を、参加者が持っているスキルでただ解決するだけだと、コンサルテーションになってしまう。一方で、「地域が求めているもの」と「自分たちがやりたいこと」だけだと、ビジョンだけを描いた絵空事になってしまうんです。なので、「地域が求めていること」「自分たちができること」そして「自分たちがやりたいこと」の3つの接点を見つけることが、このプロジェクトが目指すものだと思っています。
今年のテーマは「祝い」「空」「ツーリズム」
――今回のテーマ「祝い」「空」「ツーリズム」を選んだ理由と、参加されるパートナー企業について聞かせてください。
増田:まず「祝い」について。茨城県は、挙式や披露宴1件当たりの売上高が全国上位で、七五三を盛大に祝う文化があり、「祝い」が盛んな地域です。 パートナー企業である小野写真館グループは、フォトスタジオの運営だけでなく、振袖のレンタルや結婚式のプロデュースまで、「感動体験をつくること」をビジョンに掲げ、多数事業展開されています。そんな小野写真館グループと一緒に、いままでの考え方に捉われない新しい「祝い」のかたちを、茨城から発信していけたらおもしろいなと思っています。いままでやってきた中でもいちばん特殊なテーマだと思うので、どんなアイデアが生まれるかがとても楽しみです。
メンターは、完全オーダーメイドウエディングブランド「CRAZY WEDDING」を立ち上げ、現在は起業家として活躍している山川咲さん。「祝い」のスペシャリストでもある山川さんに、チームをサポートしていただきます。
――「空」というテーマについてはいかがでしょうか。
増田:「空」の舞台は、開港10周年を迎えた茨城空港です。確実に旅客数を伸ばしていて、“地方空港の成功モデル”とも言われることもあるのですが、降り立った人の多くがすぐに次の目的地に移動してしまうなど、空港が立地する小美玉市が通過点になっているという課題を抱えています。
そこで今回は、小美玉市で活動を続ける市民団体Omitama Shigotoをパートナーに、小美玉市が「空の玄関口」として、いかに利用者をもてなす機能や、新たなコンテンツ・発信方法を考え、市民と共に創り上げていく新たな「地方空港のモデル」をこのテーマを通して見出していけたらと思っています。
メンターは、プロジェクトデザイナーで株式会社umariの代表の古田秘馬さんです。八ヶ岳南麗の「日本一の朝プロジェクト」や、丸の内の「丸の内朝大学」など、数多くの地域プロデュースを手掛けてきた古田さんの視点は、参加者たちのアクティビティをサポートしてくれると思います。
――坂本さんは「ツーリズム」の地域コーディネーターとして参加されるそうですね。テーマについて聞かせてください。
坂本:「ツーリズム」は、日本で2番目に大きい湖である霞ヶ浦のあるかすみがうら市にスポットを当てます。かすみがうら市には、国内有数のナショナルサイクルロード「りんりんロード」が走っており、県としても自転車を起点とした観光コンテンツづくりに力を入れています。ですが、かすみがうら市はベッドタウンでもあり、隣接する土浦市といった市外へ、消費が流出してしまうという課題があるんです。今回は、どうしたら市内での消費を増やすことができるのかを、「ツーリズム」という軸で提案できればと思います。
パートナー企業は、かすみがうら未来づくりカンパニーという、かすみがうら市と筑波銀行、株式会社ステッチの合資会社です。地域活性化、観光促進を使命に活動を続ける同社と一緒に、かすみがうらならではの体験を考えていきたいと思います。
メンターは、官邸発のソーシャルメディアスタッフや、つくば市まちづくりアドバイザーをつとめている大瀬良 亮さんです。2018年に「世界を、旅して働く」をコンセプトに、世界中に住み放題できる「HafH」というサブスクリプションサービスをリリースするなど、画期的な活動をしている方です。私は、過去参加者でもあり、現在地域おこし協力隊として活動していますので、地域コーディネーターとして全日程を通して皆さんをサポートします。
――今年は、新型コロナウイルスの意識した視点も必要かもしれませんね。
増田:たしかに、今回のテーマはどれもコロナウイルスの影響を直に受けているものばかりだと思います。プログラムに関しても、メンターによる講義はオンラインで実施する予定です。リアルな場でのディスカッションは、チームのメンバーとスタッフ、地域コーディネーターのみにして、メンターとの相談はZoomを使用する予定です。
コロナの影響で結婚式や卒業式が中止になったり、空港の一時閉鎖など、観光産業も外出・移動の自粛で大きな打撃を受けています。でも、そんないまだからこそ、あらためてさまざまなことを見つめ直す機会なのではないかと思います。この機会を転換期と捉えて、新しいプロジェクトが生まれたらいいですよね。
「if design project」を通して出会う、同じ熱量を持った仲間
――「if design project」は、プロジェクト終了後も地域との交流を続けているチームが多いのが印象的です。
増田:そうですね。第1期の「山」チームは、その後も空き蔵を使ってカフェを開いたり、古民家をゲストハウスにする計画に関わったりと、いまでも精力的に活動しています。坂本さんが活動していた「スポーツ」チームも、「水戸ホーリーホック」のクラブハウス「アツマーレ」でパブリックビューイングを開くなど、プロジェクト後の活動も行っています。
――坂本さんは、地域おこし協力隊として城里町に移住されましたが、地域で活動することについてどのように感じていますか?
坂本:やっぱり、地域ならではの難しさは正直感じていますね(笑)。地域だと、新しいことはなかなか広まっていかないですし、コミュニケーションに関しても、隣の集落のことですら情報がちゃんと伝わっていなかったり。地域特有の事情みたいなものもあって、やりたいことがあってもできないことはたくさんあります。
それでも、確実にコミュニケーションをとっていくことで、ちゃんと“材料”は集まってくるんですよね。それをどう並べなおして、1人ひとりに最適なかたちで伝えるかも徐々に掴んできている感じがしています。なので、どこかゲーム感覚の要素があるというか、RPGをやってる感じですね(笑)。でも、本当に町をよくしたいと思っていますし、いつかここを拠点のひとつにしたいとも考えています。
増田:やっぱり、地域での活動はいいところばかりではないので、そこも踏まえて楽しんでくれる人がいいなと思いますね。なので、フィールドワークの際にもそういった地域ならではの事情も話すようにしています。大変ではありますけど、そういったことを踏まえて考えていかないと、実現性の薄い企画やアイデアになってしまうので。
坂本:そういった意味でも、デザインをやっている人は地方で仕事をするとおもしろいと思いますね。私のいる城里町にもデザイナーがいないのですが、コミュニケーションから入っていけるデザイナーなら、何から何まで自分でブランディングできちゃうくらい、地方には可能性が広がっていると思います。それこそ小さな町だと、デザインでその町を自分色に染められちゃうかもしれません。
このプロジェクトは、デザイナーにとっては十分にちからを発揮できる場だと思います。私の所属していたチームにはデザイナーがいなかったので、途中で目に見えるかたちで落とし込むことができなくて、デザインスキルを持つメンバーがいた他のチームがうらやましかったです(笑)。
増田:デザイナーのいるチームでは、デザイン思考によってチームがまとまったり、アプリや冊子などでアイデアがかたちになったりと、デザインによってチームが活性化する場面をよく見てきました。デザイナーの力は「if design project」でも欠かせない存在ですね。
坂本:プロジェクトに参加して思うのは、地域について深く知ることができるのはもちろんですが、チームで活動することによって、自分の持ち回りというか、「自分はこういった役割だと活きるんだな」という、その発見が大きかったですね。みんなでどうやったらもっとよくできるか一生懸命考えることで、お互いをちゃんと評価し合えたり、充実感が生まれたり。普段の仕事では得られないものを、このプロジェクトを通して感じることができると思います。
増田:そうですね、全然違うバックグラウンドの人でも、同じ熱量をもった人と出会えたのがいちばんよかったというのは、参加者の意見としてよくいただきます。チーム内でもそうですが、茨城の中でそういった熱量を持った人と接点ができることも、このプロジェクトを通して得られる大きなことだと思います。
「if design project」は、デザイナーはもちろんですが、ライターやカメラマン、ディレクターなど、さまざまな職種の人が、自分の持っているスキルを存分に発揮できる場所だと思います。プロジェクトをきっかけにいろいろな人がつながることで、いままで進まなかった地域の問題が動き出していくような、そんな関係が生まれたらいいなと思っています。
第3期「if desing project〜茨城未来デザインプロジェクト〜」
■募集対象
・地方でプロジェクトをつくり、実践してみたい方
・茨城県と関わりたいが、きっかけを探していた方
・プロジェクトデザインを体感したい方
・普段と異なる社会人とチームを組み、共創し、自らの可能性を広げたい方
・地方で何かコトを起こし、自らの生き方や働き方を考えてみたい方
・自らの経験(デザイン、マーケティング、プロモーション、事業企画、コピーライティング、まちづくりなど)を活かしてみたい方
・幅広いテーマに興味・関心を持てる方
・とにかく茨城が好きで仕方がなく、茨城に貢献したい方、いつか茨城で住む、働いてみたい方(熱意があれば、学生の方の参加も可能です!)
■募集人数
15〜20名程度
■実施期間
2020年9月~2020年12月
■実施日
DAY1-1 オリエンテーション 9月12日(土)10:00~12:30 会場:SAAI
DAY1-2 フィールドワーク 9月13日(日)10:00~20:00 会場:茨城各地
DAY2 ワークショップ1 10月3日(土)13:00~16:00 会場:KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS
DAY3 ワークショップ2 10月31日(土) 13:00~16:00 会場:KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS
DAY4 ワークショップ3 11月21日(土) 13:00~16:00 会場:KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS
DAY5 公開プレゼンテーション 12月13日(日) 14:00~19:00 会場:東京某所(未定)
■参加費用
3万円
■エントリー締め切り
2020年8月23日24:00まで
■選考結果発表
2020年9月4日
文:室井美優 写真:葛西亜理沙 編集:堀合俊博(JDN)
取材協力:KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS