近年、デザイナーや建築家、クリエイターによる「場づくり」の活動がおもしろい。イベントやコミュニティ、実店舗など、その表現方法やアウトプットはさまざま。では、なぜクリエイターたちは本業だけでは飽き足らず「場」をつくるのか……?もしかしたらそこにはなにか法則があるのかも知れない。これは「場づくり」に取り組むクリエイターたちに改めてお話を聞くしかない……!そう考えてスタートしたのが、本連載『つなぐ(と)まざる(が)場をつくる』です。
今回お話をうかがったのは、10月12日と13日に2回目の開催を控える株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)が主催する「Design Scramble」の発起人である後藤あゆみさんと相樂園香さんのおふたり。渋谷を舞台に、さまざまなプレイヤーを巻き込みながらデザイナーやクリエイターと企業が交差するデザインの“お祭り”を企画したきっかけや、渋谷という街で「場づくり」を実践するにあたっての思いを語っていただきました。
ひとと企業が交差して、クリエイティブを盛り上げる
——「Design Scramble(以下、デザインスクランブル)」をはじめた経緯について教えてください。
後藤あゆみ(以下、後藤):イベントの構想自体は7年くらい前からあって、いつかこういったイベントを絶対にやりたいと思っていました。
高校生の頃からデザイナーやアーティスト、
普段の仕事や、フリーランスで仕事をする中でも、魅力的な企業やクリエイターの方に出会うことが本当に多くて。それぞれの魅力を発信しながら、一緒にこの業界を盛り上げて、みんなでいいものをつくるための流れを生み出すにはどうすればいいだろう?と考えているうちに、デザインスクランブルの原型ができ上がりました。
ただ、最初は「いろんな企業のオフィスでイベントを開いて、1日を通して巡る」というざっくりしたアイデアでしかなくて。これだけでは会社もGOを出せないですし、もっと具体的に考えていこうという段階で相樂さんに相談したんです。
相樂園香(以下、相樂):私が相談をもらったのは、デザインスクランブルを開催する1年前くらいのタイミングでした。「一緒にやらない?」と言われて、「もちろん!」と即答でしたね。
後藤:以前から彼女がデザイナーやクリエイター向けのイベントを多数企画していたことは知っていたので、ぜひ力になってもらいたいと思ったんです。
——ふたりはもともとどんな関係だったんですか?
後藤:ふたりとも学生時代にアートやクリエイターをプロデュースする学生団体で活動していて、そこで知り合ったんです。社会人になってからも彼女の活躍を知っていたので、「いつかなにか一緒にしたいね」という話は普段からしていて。
お互いクリエイティブ業界に対して抱いている課題についての感覚が近かったので、それを変えるためにはなにができるだろう、という軸で考えました。最近は、企業が採用のためにクリエイターを招いたトークイベントを開催するなど、デザイン系のイベントがかなり増えていますが、「さまざまな企業のオフィスを巡る」ことや「オフィスをイベント会場にする」ことで、イベントの差別化ができるんじゃないかなと。
相樂:お互いイベントの方向性については合致したので、どうすればよりおもしろくなるかをふたりで考えていきました。一般的なトークイベントや採用視点のイベントとは違って、人と人、企業と企業、人と企業がちゃんとかかわり合うような、デザインの交差点になるようなイベントにしたいよねっていうことで、名前を「デザインスクランブル」にしたんです。
デザインの楽しさを体験する“お祭り”
——ふたりが感じていた業界の課題について、具体的に教えてください。
後藤:たとえば事業会社の場合、社内勉強会や研修などの学びの環境が制度として充実していないと新たなスキルを身につけて伸ばすのが難しく、担当事業だけにコミットしていると表現力や成長幅が狭まるということがあると思います。制作会社の場合は、さまざまな領域のクライアントと関わることで表現幅は身につきますが、クライアント先のビジネスにまでコミットできることはなかなかないので、ビジネスへの興味・関心が薄れてしまったり……。
これはクリエイティブ業界に限らずですが、SNSで新しい情報を手軽に得られる一方で、自分と近い価値観やセンス、領域のひとたちとだけのコミュニケーションだと、考えが凝り固まってしまうことってあると思うんです。だからこそデザインスクランブルが企業の垣根を超えて繋がり、お互いの活動を知ることで成長に繋がる場であればいいなと。
相樂:最近はスマホの画面から得た情報だけでわかったつもりになってしまうことが増えている気がします。だからデザインスクランブルは、ちゃんと一次情報を得られる機会にしたいと思っていました。私たちが大学生の頃は、カリスマのようなデザイナーにどう近付くか必死に頑張っていたんですが、いまはある意味デザイナーがすごく身近で、作品もサイトで簡単に見られますよね。
実際にイベントに行っても、「家でTwitterの実況見てる方がよかったな……」と思うこともあって(笑)。「交流会」に行ってもあまり交流できないこともあったり、「リアルな場に行く意味ってなんだろう」ということもすごく考えました。とはいっても、「課題があるからやらなきゃ」というよりも、「やったら最高じゃない?」というポジティブな考えのほうが私は強かったです。
後藤:そうだね。課題解決はもちろんですが、まずはデザインや創る楽しさを知ってもらいたい思いが強いですね。そういった意味では、昨年はトークが多かったんですが、今年はもっと体験して楽しめる“フェス感”を出していきたいと思っています。
相樂:“デザインカンファレンス”ではなく“デザインフェスティバル”と呼んでいるのも、お祭りにしたいという思いからきています。
若手が活躍できる、グローバルなデザインフェスティバルへ
——登壇者はどのように決めているのですか?
後藤:ほかのデザインイベントでやっているような組み合わせは避けたくて、いろんなトークイベントを一通り見た上で、ふたりで何度も話し合いを重ねて決めています。たとえば今回、DropboxのDesign Program ManagerであるMichelle Morrisonさんが来てくださるんですが、世界中で話題になったDropboxのブランドデザインリニューアルの話に絡めて、同じような取り組みをしている日本の事業会社と一緒に登壇してもらったらおもしろいんじゃないかとか。
クリエイターなら、巨匠ではなく若手で今後活躍しそうな人や実力のあるまだ知られていない人を発信したいと思っています。デザインスクランブルがきっかけでメディアに取り上げられたり、仕事が来るようになったり、そういう場になればいいですよね。
相樂:SNSの発信力やフォロワー数に関係なく本当にいいものづくりをしている人にしっかり焦点を当てられるイベントでありたいと思っています。同時に、登壇していただくからにはきちんと集客をする必要があるので、バランスやテーマ作りについては時間をかけて話し合いをしています。
後藤:登壇者の人選はじっくり時間をかけてギリギリまで考えるのですが、私が結構ミーハーなので(笑)、相樂さんがブレーキをかけてくれて冷静になるときもあったり(笑)。
相樂:お互いいい意味で志向が違うので、うまく補い合っていますね(笑)。
私はこれまでリーダーの役割が多かったのですが、今回は後藤さんの想いがとても強いので、キラキラしている後藤さんの横顔を隣で見るたびに「一緒にいいイベントにしたいな」と思うんです。はじめてのポジションですごく新鮮(笑)。
——昨年開催した中での反省点や、今年大きく変わったことなどはありますか?
後藤:昨年はとにかくイベントとしてつくり上げるのに必死で、終わってからは反省だらけでした……。特にチケットの仕組みが複雑だったのが一番の反省点で。あとは、主催側から発信するコンテンツばかりだったので、今年はワークショップやお茶会、交流会など、来場者さんとコミュニケーションをとれたり、来場者さんが作ったものや考えたアイデアを発表できたりする場を意識して、私たちや各参加企業も企画しています。
たとえば、来場者さんのツイッターの感想や意見を拾ってつくったプログラム「Design Scramble 2019 PARTY – 繋がろう、渋谷。参加者である“あなた”が主役 -」は、デザインスクランブルに参加くださっているクリエイターさん、出展企業のみなさん、ゲストのみなさん等がスクランブル(交流)して、新たな繋がりや流れを生みだすきっかけとなるクリエイターたちの交流会です。
このパーティは公募制のLT大会を行うなど、スクランブルの要素が盛りだくさんなんですよね。デザインスクランブルは、参加者と一緒に作り育てるイベントにしたいんです。
あと、昨年との大きな違いは、海外からゲストが来ることと、イベントを2日間に拡大したこと、メイン会場が「渋谷ストリーム ホール」になったことです。1日だと、すべて回るのはやっぱり体力的にも時間的にも大変だったと思うので、2日間開催することでどのように変化するのか見てみたいと思っています。
将来的には、世界から見ても質の高い、いいクリエイターが集うデザインフェスティバルだと評価されたいですし、「このために日本に行きたい!」と思ってもらえるような、グローバルなイベントに育てたいという思いがあります。今後は、海外で働きたいと思っている日本のクリエイターも多いと思うので、海外のクリエイターと交流できる場などもつくりたいですね。
変わり続ける渋谷で、自由に楽しめる場をつくる
——ふたりにとって、渋谷という場所の魅力はなんですか?
相樂:街も人もグローバルだし、文化の発信地としてのエネルギーを感じる場所だと思います。ここ数年大きく変わってきていますが、変わらない場所はないと思うので、その変化も含めていいなと私は思います。宇田川町あたりのディープな渋谷も顕在ですし、文化は消えていなくて、むしろ新しい流れがあったり、パワーアップしている気がしますね。
後藤:私は大分県出身なのですが、渋谷も含めて、東京って変化を厭わないかっこいい場所だなと思います。最近の渋谷の変化は、立ち止まって振り返ると少し寂しい部分もありますが、街も人も変わり続けていくところが、やっぱり渋谷の魅力かなと思います。
——イベントなどの「場」をつくるにあたって、影響を受けたことなどはありますか?
後藤:私は父が別府市の文化振興課に勤めていたので、小さい頃から別府市主催のお祭りや展覧会、花火大会など人が集まる場所によく連れて行ってもらっていたんですが、それが楽しい思い出として残っているので、インスピレーションの源泉なのかなと思います。ほかにも、「瀬戸内国際芸術祭」や「KYOTOGRAPHIE」、「大地の芸術祭」など、その地域ならではの魅力を活かした、いくつかの場所を巡ることができるイベントは魅力的で好きですね。
相樂:私は普段の生活や旅行からインスピレーションを得ることが多いんですが、ヨーロッパの広場がすごく好きなんです。ヨーロッパは建物の前に大きな広場があることが多いんですが、そこでは絵を描いたり楽器を演奏している人がいて、夜になると自然と人が集まってきてセッションが生まれたり、音楽に合わせて踊り出したり。何でもない空間なのに、みんなが自由に表現を楽しんでいる感じがすごくよくて。日本にはそういう場があまりないと思うんですが、デザインスクランブルに参加してくれたひとが、ヨーロッパの広場みたいに自由に楽しんでくれたらいいなと思いますね。
Design Scramble 2019
https://designscramble.jp/
取材:瀬尾陽 文:開洋美 写真:寺島由里佳 編集:堀合俊博(JDN)